2019 Black is beautiful

 「Black is beautiful」という言葉を私が最初に見たのは、ある雑誌の特集記事だった。

 食事の話題で、白いものよりも黒い(未精製の)ものを食べましょうという記事だった。白砂糖・小麦のパン・白米よりも、黒砂糖・全粒粉のパン・玄米を。身体に合っているので、私は玄米だけは今でも実践している。


 「Black is beautiful」の「Black」が黒人を指すと、1960 年代から70 年代のアメリカの黒人運動になる。マーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺され、モハメド・アリが自分の金メダルを川に投げ捨てたころの話だ。1964 年に公民権法が制定されるまで、アメリカの人種差別は法の上では解消されなかった。現在でも人種差別問題が続いている。


 「黒い」が褒め言葉になるのがジャズやヒップホップなどの音楽だ。

 アメリカでもそうなのかは未検証だが、黒人発祥のジャズやヒップホップでは「音が黒い」という言葉が賞賛になる。

 私は、好きなジャズのピアニストに白人の名前を挙げたら、知人に「僕は黒い音が好きでね」と言われたことがある。黒い音というと、黒人の演奏者が奏でる低音でノリのいい、スイングする音を思い出す。


 私が好きな白人のジャズピアニスト、ビル・エヴァンスは、自分以外すべて黒人のマイルス・デイヴィスのバンドで差別を受けたらしい。黒人の音楽であるジャズを白人が演奏しているということで「逆差別」にあったようだ。

 が、同じバンドに在籍していたキャノンボール・アダレイと共演したアルバム「ノウ・ホワット・アイ・ミーン」を聴いたとき、私はビルとキャノンボールは仲が良かったんだろうなと思って少し安心した。キャノンボールは繊細なビルの音楽に合わせてすこしフェミニンな音になっており、ビルはいつもより闊達で楽しそうだった。


https://www.youtube.com/watch?v=acX3MhM_dpw


 「Black is beautiful」がマニフェストとなる背景には、「White is beautiful」という強烈な固定概念がある。

 世の中には「White is beautiful」が満ちている。自分にもその概念が当然のように存在していることに気づいて苛立つことがある。

 ホワイトの文化・外見・習慣を称揚し、カラードの文化を二次的なものとする心象。

 ハーフや白人のタレントが大勢出演していているTV 、肌の美白が叫ばれるマーケット、化粧品のモデルに白人を使っている女性雑誌。

 私は、肌は日射量によって適切な色に焼けると思うのだが、白い肌が美しいとされる化粧品のCM を見るたびに違和感を覚える。

 化粧品の宣伝に白人のモデルを載せる女性雑誌にも苛々する。白人の肌でシャドウや口紅の色を見せられても、日本人には参考にならないだろう、と思う。


 たしかに白は美しい。未精製の食品には雑味があるが、精製された砂糖や小麦や米は口あたりがよく、美味しい。

 でも、雑味が残るものの良さもあるのではないだろうか。

 「White is beautiful」と暗に(ときには声高に)叫ばれる世間に対して、私はひっそりと「Black is beautiful」と呟きたくなる。あるいは「Colored is beautiful」。

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