熱い空気
十一時三十分過ぎに瑞貴は新大阪の駅にいた。お昼には少し前の時間帯が比較的空いていると思ったが、駅の中は人が多いので驚いた。
ドリームコーヒーに入り、席に座るとバッグから消毒ウエットで手を拭いた。
大きなバッグには関東のカップうどんと宏樹の好きなスナックが入っている、どこででも買えるのに。持てるだけの食材を入れたら結構重い。高菜のおにぎりが好きだった宏樹に自分が炊いたご飯で作ろうと漬物も持参していた。
スマホを開いて、瑞貴は宏樹にlineを入れた。
きっと仕事中で昼休みもない。同じ編集営業の仕事をしているからわかる。きっと今頃は東京から出向になった数名で、自費出版のすべての仕事を懸命にしているはずだ。オフィスはここから地下鉄で十分くらいの場所だろう。
『今、新大阪のドリームコーヒーにいる。マンションの場所はわかる、でも鍵がない。管理会社の番号を教えてください。中に入りたいの』
アイスコーヒーを一口飲んで大きくため息をついた。返事が来るのは1時間後、それとも夕方かも知れないと思うと急に気が滅入った。
もし見たら、きっとこのメッセージを見て驚き、なぜ急に大阪などに来たのかと思うはずだ。
瑞貴の心にはあの時の草原の草と万葉女性の唐絹が大きく揺れていた。三十分ほど休憩できた、さてマンションに向かう方が良いだろうと瑞貴は腰をうかせた。と、同時にスマホが鳴り出した。
「おい、瑞貴。冗談だろう? しばらく帰れなくて悪かったと思っている。だけど土日限定の出版セミナーがあることくらいわかるだろう」
「うん、そうね。わかっているわ。同じ会社だもの。それよりも管理会社の番号は?」
瑞貴は冗談で言っていると思っていたことが面白くて、笑いながら答えた。
まさか部屋に入れたくない理由でもあるのだろうか? 女性の手が入り部屋がきれいになっているとか、歯ブラシが二本あるなんてことが、まさかと思うが……。疑念がどす黒く沸き上がった。
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