あなたと共に。

 瑞貴はスマホの地図を開いて京王線の府中駅へとたどり着いた。画像フォルダーにはあの歌碑の画像をしまい込んで。

 打ち出した休暇届を瑞貴はプリンターから取り出して、ボールペンを持つ手に力を込めて書き込んだ。立ち上がるとまっすぐに編集長のデスクに向かう、躊躇いはない。武蔵野の風が瑞貴を突き動かした。


「編集長、お願いがあります」

「なんだ? 急に」編集長は老眼鏡を外して瑞貴の顔を驚いて見た。

「この吉田様の作品のオールアップしたら、二週間ほど休暇を頂きます」

「頂けませんか、じゃなく?」

「はい、すみません。急なことでご迷惑おかけします。戻ったらその分頑張りますので」

 瑞貴の勢いに編集長はどこ吹く顔だ。そんなの撤回させられると思っている。次の仕事も企画編集部から投げられていた。

「じゃあ、この下読みは誰がするのさ?」

「二週間の間に私が読んで選定します」

「誰か病気なの?」

「いいえ、大阪にいる旦那に会いに行くだけです。おかしいですか?」

 編集長は笑って言った。

「おや、水島ってそんな感じの人? もっとフランクでドライな女性だと思っていた」

 瑞貴は少しむっとしたが、ここは我慢。

 最後の編集長の言葉を待たずに、もう気持ちは決まっているのでと瑞貴は頭を下げた。

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