迷子の功名



 武蔵野の草があちこちへとなびくようにあなたの心のままに私は寄り沿ったのにとある。

 それは今の自分の心の声だった。

 先月も、今月も帰らない夫に何も言えずに少しばかり自分を責めている脆弱な気持ちで素直にもなれない。いつも二人でいられると思っていたのに、離れてしまえば、疑いの気持ちだけが膨れてしまうのは自分が愚かだから?

「帰らないなら、自分から行けば。私はその愛しい人にひたすら心を寄せるわ」と唐絹を着た自分よりも若い女性がそこに笑いながら自分に話しかけるような妄想を描いた。だが同時に額田の大君のあかねさす……という一首が同時に瑞貴の頭の中に浮かんだので、美しい衣の女性が浮かんでは消えた。

 そのころの時代に自分がいたとしたら、この地で生活をしていたならば。

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