第42話 たとえ誰かに届かなくとも、人は他人を想い続ける
「そういえばさ、相田君ってどの子と付き合ってるの?」
「は?」
運良く座席に座れた俺たちは、電車に揺られながら窓の外の景色を眺めていた。そしてふと思い出したかのように姫宮さんが話を切り出す。
しかしあまりにも脈絡のないその話題に俺はつい目を見開いて聞き返してしまった。一体何を言っているんだこの人は。
「だっていつも女の子多いじゃん?だったら誰かと付き合ってるのかなー?って思うのは当然じゃない?」
「いや、誰とも付き合ってませんから」
「えぇー?可愛い子ばっかなのにもったいない」
「俺がモテると思います?もう1人男いたでしょう。モテるのはそいつの方ですよ」
「あー、あのイケメン君か!確かにめちゃくちゃモテそうだね。仲良いの?」
「……まぁ、程々には」
いつも何だかんだと言っているが割と仲良くなっている、つもりである。あいつがなんで俺みたいなのと仲良くしてるのかはわからんが。
「僕もあの中の誰かと付き合ってると思ってたけどね」
すると山科さんが突如会話に入って来た。俺が彼女なんてできるわけないんですけど。自分で言ってて悲しくなってきた。
「山科さんまでやめてくださいよ」
「はははっ、ごめんごめん」
全く悪びれることなく謝罪した山科さんは、ふと思い出したかのように口を開いた。
「そういえばこの間来ていた女の子とも仲良さそうだったよね」
「え!それ初耳!」
恐らく音無のことだろうが、やはり山科さんには見られていたようだ。まぁ流石にあれだけ騒げば見られるのも当然か。やはりあの女殴りてぇ。
「ただの後輩ですよ」
「相田君が何でもないただの後輩と仲良くしてるんだ」
ニヤニヤとしながら姫宮さんが問い詰めてくる。ちくしょうここで俺のこの性格が仇になってしまった。言い逃れはいくらでもできるがどうせ追及されるだけだしな。俺は無駄なエネルギーは使わない主義なのだ。
「まぁ、ちょっと縁があって昼飯を一緒に食ってるだけですよ」
「ほほーん。縁ね。それも毎日でしょ?」
「えぇ、まぁ基本的には」
「ほほーーーん」
ニヤニヤが増した姫宮さんはすこぶるむかつけ顔をしていた。平川か七瀬ならぶん殴ってたと思う。
「ほんと、なにもないですよ」
「べっつにー?私はなにも言ってないけど?」
「顔に書いてるんですよ」
この人ちょっと明穂さんに似てんだよな。まぁあの人なら容赦なく追及してゲロるまで追い込まれるんだが。
「まぁ高校生なんだから色恋沙汰の1つや2つあってもおかしくないんじゃないかな?」
「それはフォローになってないと思うんですが」
「僕はフォローしたつもりはないからね」
「タチ悪すぎでしょそれ」
そんなどうでもいい話をしていると、目的の駅に到着した。同じくお墓参りに来たと思われる乗客が何人か降り、それに続いて俺達もホームへと降り立つ。
車内は冷房が効いていたせいか、先ほどよりも気温が高くなっているように感じた。そのまま駅の改札を抜け、再び強い日差しを浴びながら目的地へと向かう。
5分ほど歩いただろうか。3人で取り留めのない会話を続けていると霊園のようなものが見えてきた。
「さ、着いたよ」
霊園は特別大きいわけではないが、陽当たりが良く「なんかいい感じのとこだな」なんてお墓に対して失礼かもしれないが、そんな漠然とした印象を抱いていた。
その後受付で清掃道具を受け取り、お墓が立ち並ぶ中を歩いていく。ちらほらとお墓参りをする人達がいるのが見えた。
ふと思う。この人達は亡くなった人に対して何を語りかけているのだろうか。
これまでの故人に対しての感謝か。それともこれからの自分のことだろうか。
それは本人にしかわからない。わかりようがなく、わかるべきではないのだ。
なぜなら、それが人への想いというものだから。
それがたとえ、誰にも届くことがないとしても。
◇◇◇
「ここだよ」
山科さんの奥さんのお墓は、周りのものと比べて手入れが行き届いていた。それでも山科さんは一度墓前で合掌をしてから、周りに生えていた少しの雑草を抜き、バケツに汲んできた水をお墓の頭からかけるなど丁寧に手入れを行なっている。
「手伝います」
俺と姫宮さんも合掌をしてから墓石をタオルで拭き、残っていた雑草をいくつか引き抜いてから打ち水を行う。
そして買ってきた花を取り出し、既に置いてある花を交換する時、あることに気がついた。
「ここにはよく来られるんですか?」
「まぁね、最近はお店のことで忙しくて月に1度しか来れていないけど、前は週に1度は必ず来ていたよ」
供えられていた花は多少枯れてはいたものの、まだ所々綺麗に残っている部分があった。そして新しい花と交換し、線香に火を付けた。
山科さんと姫宮さんがそっと胸の前で合掌を行い、俺もそれに合わせて手を合わせる。
俺はこの人のことを何も知らない。知っていることといえば名前、それと写真で顔を見たぐらいだ。
墓前で手を合わせているだけで彼女のことがわかるわけじゃない。
数秒間の合掌を終え目を開けると、まだ2人は合掌を続けていた。
その時、2人の穏やかでどこか安心したような顔を見て俺は、会ったこともない彼女を少し知れたような気がした。
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