第27話 不注意は新たな出会いを生む、かもしれない
「ありがとう颯人。助かったよ」
あれから約15分後、駅に向かうと周りから死角になっているところの影で涼んでいる平川が居た。
周りから死角になってるってところが肝な。この野郎また追いかけられてたんじゃないだろうな……。
「あぁ、なんか奢れよ」
そう言うと平川は困ったように苦笑いしながら「了解」と頷いた。
紆余曲折あったもののようやく市街地巡り開始だ。しかしクラスの面子に見つかると平川も新川も囲まれる可能性がある。なので慎重に行動しないとな。
「みんなもすまない。まさかあんなことになるとは」
「ううん、気にしないで!それにあれだけ人気があるって凄いことだよ!」
橘いい子だなー。
「ま、うちの唯も負けてないけどね!」
「私!?私は全然そんなんじゃ……」
「はいはい謙遜しないの。あれだけ男子に囲まれて人気ありませんって言ったら学校中の女の子的に回すよ?」
うわぁ、女子ってこえぇわ。
「でもH組の高梨さんもすごく人気だよね!自由行動が始まった瞬間沢山声かけられてたよ」
「でしょうねー。ま、あたし達はそれを見越して端っこで待機してたからね。高梨さんってあたしあんまり知らないけど凄く可愛くて清楚な子らしいからそりゃ男子から人気なわけだ」
-高梨実憂-
その名前を聞くたびに心がちくりと痛むような感覚がする。深く掘り下げていけばいくほど増していくような鋭い痛みが。
「んじゃまぁとりあえず行こうぜ」
そんな痛みから逃げるように口を開いた。
「そうだね。お腹も空いてきたし」
「竜崎君がコロッケ3つも食べてるからあたしもお腹空いてきちゃった!」
気づけば竜崎はコロッケ全部食べていた。いや早すぎだろ。
「ん、悪いな。1つぐらい分ければ良かったか」
「い、いやいや!悪いよそんなの!もう一回戻ってあたしも買う!」
「私も!」
こうして俺達は再び市街地へと繰り出しす。途中他のグループと鉢合わせになり一緒に回ろうだのなんだの言われたが、男子は竜崎に圧倒され女子は大野がうまく追い返していた。
自由時間が残り1時間を切った頃、食べ歩きで満腹になった俺達は集合場所の近くの駅でお土産を買うことになった。
店に着き外から中の様子を見ると、随分とうちの学校の生徒で賑わっているようだ。
長野のお土産って一体何だ?蕎麦?いや蕎麦とか音無に渡したら「は?」みたいな目で見られそうだからやめとこ。
ゆっくりと横歩きしながら品定めしていると、不意に肩がぶつかる。
「あ、すいません」
咄嗟に謝る。こういうのはスピード勝負だ。先に謝った方がなんか反省してる感でるよね。あと敬語にしてるのも要注目な。
「いえ、こちらこそ……あっ、君は」
お互い顔を見合わせる。
ぶつかった相手は高梨実憂だった。
すぅっと息を呑む。前回会った時のような頭にノイズが走るようなことはなかった。
なのに彼女の顔を見た瞬間心臓がバクバクと高鳴り始めた。首筋に流れる汗がいやに冷たい。
小柄だが、黒くて長い髪によって可憐な大人っぽさを演出しているその少女は、俺の顔を見て何か思い出したかのように「あっ!」と驚いたように声を上げた。
「この間生徒指導室にいた……相田颯人君、だよね?」
どうやら名前はあの時赤崎先生から聞いていたらしい。というかその文面だけ切り取ると周りから変な誤解を受けそうだからやめてほしい。だが事実なので否定できない。
「あ、あぁ。あの時はごめん」
「ううん、それであの時体調大丈夫だったの?」
「大丈夫だった。ありがとう高梨さん」
「そっか、良かった。私の名前知ってたんだね」
「そりゃ有名人だからな」
「もう、そんなんじゃないよ私は」
そんなやり取りをしていると不意に後ろから声をかけられる。
「あれ?実憂と颯人は知り合いだったのかい?」
声の主は平川だった。相変わらず男女問わず複数人周りにいるな。
「あ、潤君。ううん、知り合いってほどでも無いんだけど、4月に赤崎先生に呼ばれた時生徒指導室で鉢合わせたの」
「生徒指導室って、何かやらかしたのかい?」
「んなわけねぇだろ。あれだ、編入の諸々とか」
実際は違う用事だったが、今ここで本当のことを話す意味もないだろう。しかし高梨は少し驚いたような顔をしていた。
「編入してきたんだ相田君」
「あぁ、今年からな。ちなみに言っとくけどイジメだとか何か問題を起こしたとかじゃないぞ。単に家の問題だ」
音無の時と同じように付け加える。流石に初対面で変な印象付けるのも嫌だしな。
「あ、そうなんだ。最近潤君がよく相田君の話してたから気になってたんだ」
呼び方からもわかるように2人は随分と仲がいいようだ。幼馴染みで家が近いと聞いていたが、高校まで同じというのは珍しいのではないだろうか。
「勉強とかって大丈夫なの?」
「まぁな。こう見えてもトップ50には入ってる。……って1位に言ってもなんの自慢にもならんが」
「いやいや!私だっていつもギリギリだし……」
「実憂は昔から負けず嫌いだからな」
「もう!潤君まで!……まぁ私は頑張らないといけないからさ」
そう言った彼女はどこか遠く目をしていた。まるでそこにいない誰かを見つめているような。
「おーい相田君!……ってあれ?高梨さん?」
呼ばれて振り返ると、新川が手を振りながら近づいてきた。
「平川君と高梨さんはわかるけど、相田君も高梨さんと知り合いだったの?」
「いや、前に一度だけ顔を合わせただけだ。今も俺の不注意でぶつかってな」
「ううん、私も余所見してたから……」
「まぁまぁお互い様ってことで。みんなもうお土産は決めたのかい?」
「うん!私はリンゴパイにしたよ!」
「あ、私もそれ一個買ったよ」
リンゴパイか。これなら音無も喜ぶだろう。あいつ甘いもの好きそうだし。
「そういえば実憂達は自由行動でどこ行ってたんだ?」
「パワースポット巡りかな。期末テストも近いしちょっとした願掛けも兼ねてね」
うわ、嫌なことを思い出してしまった。帰って1ヶ月と経たないうちに期末テストがある。前回はどうにかなったが、今回の方が範囲が広い。
「あー。期末テストかぁ。今回難しそうなんだよね」
「そうだね、数学とかきちんと勉強しないと取れないと思う」
「頭痛くなりそう……」
新川と高梨が楽しそうに話しているのはなんだか絵になる。よく見ると周りの注目度も半端ない。
学園のアイドル2人に、王子と称される平川が集まるとまるで少女漫画の1ページのような絵面だ。
なにが言いたいかというとものすごく肩身が狭い。
この3人と比べると俺はRPGで言う村人Bがいいところだろう。もしかしたらCかもしれない。違いはわからんが。
唯一の救いはこの3人が目立ちすぎるせいで俺の存在感が消えてることだ。なにそれ悲しい。
「ねね、相田君もいいと思うよね?」
突然新川に声をかけられる。しかしボーッとしていて全く聞いていなかった。
こういう時に「ごめーん聞いてなかったー」と言うと一気にしらけてしまいそうだ。だから俺はこう答える。
「あぁ、いいんじゃね?」
と。これ以上の最適解など存在しない。
「だよね!じゃあ決定!場所はどうしよっか?」
「無難にファミレスとかいいんじゃないか?」
「いいと思うよ。再来週ぐらいから始めようか」
待て待て、一体何の話だ。ファミレス?再来週から?僕わかんない。
「楽しみだね相田君!」
「お、おう。そうだな」
そうだな、じゃないんだよ。訳わからんわちくしょう。
「楽しみだけど、楽しみむのがメインになっちゃうと本末転倒だからね」
「もちろん分かってるよ!きちんと集中もする」
おーっと、少しずつ読めてきたぞ。ファミレス。楽しむのがメインではない。集中する。この3点セットはあれか。
「それじゃあ再来週からみんなで勉強会決定だな」
やはりか。しかし待ってくれ。テスト勉強というのは本来1人でやるべきものだ。わからなければ調べればいい。それも一つの勉強だ。それに自分のタイミングで休憩できる。効率を考えれば1人の方が良くないかい?
と、思ったが完全に後の祭りだ。何であの時「いいんじゃね?」とか適当な事言ったんだ。なにが最適解だバカやろう。愚策もいいところじゃねぇか。
それに周りの目がきつい。「平川君達勉強会だって!」「いいなぁ、私も行きたい」「もう1人いるけど、あれ誰?」「さぁ?」「新川さんと高梨と勉強してぇ」「それな」「あいつも行くらしいけど、誰?」「さぁ?」
みたいな会話が聞こえてくる。悪かったな知らんやつで。
そんな胃の痛くなる状況はその後も続き、結局バスに帰るまで4人で行動していた。
その間俺はほとんど相槌しか打っていない。しかし途中関係ないふりして一歩下がったら、新川に「ほら相田君どうしたの?」と手を引かれて強制的に会話に参加させられた。
周りの視線がえげつない事になったのは言うまでもない。本当に恥ずかしいからやめてほしい。
高梨が加わった事で注目度も更に上がり、俺の胃も限界を迎えそうだ。
この時ばかりは平川が羨ましく思えた。
とっとと帰りてぇ。
点呼をとって直ぐにバスに乗り込んだ俺は、後ろの方の端へと席を陣取ると、速攻でイヤホンを耳に付けて意識を飛ばしにかかった。
起きたら学校着いてねぇかなぁ。と願いながら。
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