第7話 強情な彼女は否応なく
教室へ戻ると、本礼間近だというのに俺の机の近くには人だかりが出来ている。
まぁ輪の中心には案の定俺の隣のさすイケがいた。
「みんな、もうすぐ先生が来るよ。席につこう」
さすイケこと平川がそう声をかけると皆名残惜しそうに席へと向かう。俺もその流れに乗るように自分の席に座った。
「あ、相田君。どこ行ってたんだよー。一緒に弁当食べようと思ってたのに」
唐突に平川が話しかけてきた。いや、君いろんな人とご飯食べてたでしょ。
「俺は1人で食べる派なんだよ」
「え、なんで?みんなと一緒に食べた方がたのしくないかい?」
「色々気遣うだろ。話題に乗れなかったらどうしようとか、どのタイミングでトイレいけばいいんだろうとか。あと人のおかず取るやつまじで意味わからん。育ち盛りをなんだと思ってやがる」
「いやぁ、そんなことみんな考えてないと思うよ」
多分そう思ってるのはお前だけだぞ。まぁこれも全部去年見たアニメでそう言ってただけなのだが。
「てか相田君って結構喋るタイプなんだな。隣なんだしこれからも話そうよ」
そう言って爽やかスマイルを投げかけてくる。どんな顔してもイケメンなのは腹立つが、話に付き合うくらいなら別に悪くない。
「まぁ、気が向いたらな」
そう濁しながら答えると、平川は満足気に頷いた。
◇◇◇
翌日の昼休み、俺は昨日と同じく校舎裏一階の中庭近くに向かう。するとそこには既に音無が昨日と同じ場所にかけて座っていた。
俺の足音に気づいたのか、彼女は振り向きスッと立ち上がり、こちらへと歩いてくる。
「こんにちは相田先輩。お待ちしてました」
そう言うとすぐに何かを差し出してきた。何事かと思ったが、よく見ると昨日俺が彼女にあげたのと同じアイスティーだ。
俺が意味不明だという顔をしていると、
「昨日のお返しです」
「……えっ、別にいらんけど」
「なんでですか。私には無理やり渡したくせに」
「言っただろ。あれは俺の心の平穏のために渡しただけだ。見返りが欲しくてやったわけじゃない」
「じゃあいいじゃないですか。先輩が昨日買ったものと同じやつですし、見返りにはならないでしょう?それに私、借りは作りたくないんです。だからこれは私の心の平穏のために買いました。受け取ってください」
「借りって、別に俺は……」
「わかってます。先輩が貸しだなんて思ってないことは。けれど見ず知らずの先輩に奢られる理由はありません。ですから受け取ってください」
彼女はかなり強情なようだ。一歩も引く気配はない。むしろこれで断ればあの手この手で押し付けてきそうな感じがする。
「はぁ、わかったよ。これはありがたく受け取っておく」
「ふふっ、それでいいんです!というか私みたいな美少女から何かもらえるなんて中々ないんですよ?」
受け取ってもらえたことに安堵したのか、彼女はその薄い胸を張って自慢気に言った。
「自分で言うな自分で。確かに美人だが」
「な、なんですかセクハラですか訴えますよ」
「痴漢冤罪を目の当たりにした気分だ」
小気味良い会話を交わしながら俺たちは昨日と同じ階段に腰掛ける。
その後もちょくちょく彼女が話しかけてきてはそれを変化球も交えるように返す会話が続く。
誰かと会話するということは億劫だと思っていたが、なんだか悪くないような気がしていた。
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