第15話 建国の歴史

 エルフの森と神聖国アルディナは隣接している。しかしアルディナの首都にある教会は異種族を認めておらず、人間以外の種族を劣等種、又は魔物と称し毛嫌いしている。


 この世界に存在し人間と友好関係を保っているのはエルフとドワーフで、獣人達の多くは人間に奴隷として捕獲された。


 昔は三つの種族以外にも多くの種族が共存していた。しかし、独自の考えを持つ者達が集まり神国アルディナを建国した。これまでは一つの国であったのに考え方の相違で国が分裂したのだ。


 アルディナ建国以後、異種族達は一斉に迫害を受ける事になった。それは異種族狩りに発展し多くの異種族が殺され種ごと絶滅させられた。その最たる例が小人族である。反対に巨人族は生き残ったものの同じように沢山の同胞を殺され人間の事を憎むようになり魔王軍の配下に加わった。


 その頃の魔王軍は、名ばかりの軍であった。軍としての力は弱く、魔族を束ねる吸血鬼が個で強いだけであった。


 異種族狩りの最中、逆に異種族を保護しようと考えた者も多く、異種族狩りの後半戦は人間同士の殺し合いであった。人間同士の醜い争いが終わると考えが同じもの同士でそれぞれの国を建国した。


 それが今の王国、帝国、神聖国、公国、共和国の成り立ちである。


 それぞれの国が独自の考え方を持ち、お互いにいがみ合っていた。彼等はたとえ魔王軍が攻めて来たとしても手を取り合うことはないだろう。人間という種族が滅びる事になったとしても。


 エルフ、ドワーフ、獣人以外の魔族は人間界から去った。この三つの種族の中で最も邪険な扱いを受けているのが獣人だ。彼等は残りたくて残ったのではない、人間に捕まってしまったのだ。彼等は奴隷にされ、好き勝手こき使われた。役に立たなくなれば人間は容赦なく殺していた。その過程で野良と呼ばれる逃げ出した獣人達が存在する。彼等は逃げて来た者達で集まってひっそりと集落を作っていると言われている。


 鍛冶が得意なドワーフは国によってはそれなりに重宝された。エルフは顔が整っている美男美女が殆どで神聖国以外の国からは結婚を申し出る者が多くいた。


 しかし中には里に侵入し、誘拐を企む輩もいた。幼いエルフを誘拐した後、大人に成長するまで育て無理矢理、子を孕まそうとする者も少なくなかった。


 エルフは純血を好み、混血を好まない。よっぽどの変わり者か、その相手が本当に好きではなければ同族以外の者とは結婚をしようと考える者はいない。


 エルフは優しく慈愛に満ち溢れている。そして人間と共存していた時代に人間の優しさも知っていたので人間の事を心から嫌いになれなかった。だからエルフの長老は人間と決め事をした。人間界に残る代わりに誰であろうとエルフの森に入る事を禁じると。


 約束を破れば我々エルフは魔王軍の傘下に加わると宣言した。人間達はそれに応じた。しかし契約から長い長い時が経ち、今になって欲を満たす為に、禁忌を破る若者達が現れるようになった。


 エルフが同族を拐われたと言うのに魔王軍に加入していないのには理由があった。連れ去られたのはエルフの年でまだ幼子のアリアという少女であった。


 アリアは長老のひ孫にあたりアリアを置いて人間界から去るなど同胞を大切にするエルフ達にとっては考えられない話だった。


 だからエルフ達は長老の言葉を無視し捕まる危険があるのにもかかわらず森の外に出た。


 彼等は三年前に連れ去られた同胞を取り戻すまでは人間界から去れないのである。



◇◆◇◆◇


 俺たちは無事に神国アルディナにつく事が出来た。道中何度か魔物やら盗賊やらに襲われかけたが特に問題はなかった。


 最初はクリスタの後ろで怯えていたアリアも最後の方は俺のすぐ近くで見ているくらいには慣れてしまった。元々、それほど臆病ではないのも関係していると思うが。


 アリアは好奇心旺盛だった。旅の途中でも色んな物に興味を示していた。エルフの森……いや里から抜け出してしまったのも頷ける。


 クリスタと念のために帽子をかぶったアリアは仲良く手を繋ぎながら俺の後ろをついて来ていた。


 そしてニコニコと気持ち悪いほど笑顔を向ける憲兵さんから軽いチェックを受けた後いよいよ首都に足を踏み入れた…………瞬間。


「いてっ!!」


 どこからともなく果物が投げつけられた。


「異端者!!」


「異端者!!!」


「聖女の姿をした悪魔ーー!!」


「汚れた血め!」


 老若男女の罵倒が聞こえ、物を投げつけて来た。


 (汚れた血って……俺? いやアリアの事か)


「おい、俺たちが一体なにを……」


 そう言いかけた時、一人の老人がある物を投げつけた。


 (は?! 普通、レンガを投げる奴がいるか!)


 レンガは俺ではなく真っ直ぐアリアの元へと飛んで行った。


 その様子を教会の頂上で一人の修道女と白の神官が見下ろしていた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る