魔王軍侵略編

第13話 旅立ち

「パパ! ママ!!」


 俺たちの事を両親のように呼びながら少女が走ってきた。もちろん俺たちの子供などではない。


「えへへ。あったかいの」


 少女がクリスタに抱きつく。突然の事に戸惑いながらもクリスタは優しく少女を抱きしめた。


「目が覚めたのか?」


「そうみたいだね」


 すりすりと顔を寄せてくる少女は本当にクリスタの事を母親だと思っているようだった。


「とりあえず名前は言えるか?」


 少女はバッと顔を上げ俺の方を向く。


「わたし? わたしの名前はアリアなの」


「お父さんやお母さんはいるの?」


 クリスタの質問にアリアと名乗った少女はフルフルと首を横に振るう。


「わかんないの。村を降りたら変な人達に捕まって気がついたら暗い所にいて……それからよくわかんない」


 アリアは話ながら目尻に涙を浮かべ、クリスタにしがみつく。恐らく酷い事をされたんだろう。


「あ、ごめんなさいなの。知らない人なのにパパとママなんて呼んで」


 アリアの頭をクリスタがよしよしと優しく撫でる。


「それはいいのよ。でもなんで私たちの事をママとパパって呼んだの?」


「ママの匂いと似てたの。暖かくて優しい匂い。お姉さんとお兄さんからそれを感じてつい呼んでしまったの」


 ごめんなさいなのと謝るアリアに俺もそっと触れる。


「別にそのまま呼んでくれても構わないぜ」


「ちょっとアル君?!」


 顔を赤くしてぽかぽかと殴ってくるクリスタを無視してアリアに呼び方を教え込む。


「いいの?!」


 純粋無垢なアリアの瞳に負けたクリスタが人前以外ならという条件でしぶしぶ認めてくれた。よし!


「アリアは自分の村がどこにあるか分かるか?」


「わかんないの」


 それもそうだろう。もしかしたらかなり遠い所から連れてこられた可能性だってあるのだ。幼い少女にとってはここは異国の地。俺たちが助けなければ死んでいたかもしれないし、路頭に迷っていたかもしれない。


 クリスタが彼女を愛でていて「あっ」と声を上げた。


「どうした?」


 クリスタの視線を追うと今まで髪に隠れて見えなかったがアリアの耳は尖っていた。


「え、もしかしてエルフ?」


 アリアは小首を傾げた。


「何言ってるの? アリアはアリアなの」


 エルフは希少種族に分類される。それと同時にエルフが住んで居る場所は一つしかない。


「……この子はエルフの森から連れてこられたのか」


「そのようね……あそこに入ること自体禁忌になっているのに」


 山二つ越えた先にある森林。そこは古くからエルフの住処となっていて人間がその領域に入ることは教会によって禁止されている。


 それなのにエルフの森に侵入し、幼いエルフの子供を連れ攫った外道が存在するらしい。今、目の前にいたらぶち殺していたことだろう。


 とにかく次の目的地は決まった。神国の南部にあるエルフの森にアリアを無事に送り届ける事だ。


「とりあえず……暫くは村で休むか」


「それがいいわね」


 行きましょうとクリスタがアリアの左手を握り、つられて俺もアリアの右手を握る。


「なんだか家族なの!」


 アリアは溢れんばかりの笑顔を見せた。


◇◆◇◆◇


 俺たちはフィリックス達によって壊され、燃やされた民家の復興を手伝いつつ、故郷で数日間過ごした。村を出る頃には俺を嫌っていた人達も無関心を貫いていた人達からも受け入れられ、村で比較的若い女性からは結婚してくれとせがまれるまであった。


 まぁ全員クリスタが追い返したんだが。呆れるほどの掌返しだった。だけど悪い気はしなかった。長年、村を思い続けてやっと報われたとだけ思った。


「気をつけて行くのだぞ」


「うん、ありがとう叔父さん。叔父さんも元気でね」


 クリスタが村人全員に挨拶し終えると「行こっか」と座って手遊びをしていた俺たちの元へやってくる。


 村の人達からほんの気持ちだと食料やお金を分けてもらったので暫くは旅の路銀には困りそうになかった。


「さぁ行くか。神国アルディナへ」


「「おおーー!!」」


 後ろから元気の良い声が聞こえてきた。俺の足取りも軽いものだった。でも暫くしたら二人が先を歩いていた。


「アル君おそいーーー」


「パパはやくーー!!」


 俺はかなり後方で息を荒くしながら山道を歩いていた。


「はぁはぁ。旅の荷物を怪我人の俺に全部持たせる奴がいるかーーーー!!」


 完全に治りきっていない脇腹が痛みを上げていた。仕方ないなーとクリスが半分持ってくれるまで。


 とても軽そうにしていた。

 

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