第8話 【聖騎士】フィリックス

「結論から言うと、私の両親も含めて、私達の話は受け入れてもらえなかった」


「なっ……」

 

 俺は開いた口が閉まらなかった。


「全部が全部、受けいれてもらえなかったわけじゃないんだ……ただ」


「ただ?」


 俺はクリスタに先を促す。


「ただ、私たちを呼びに来た国王の部下達を振り切って逃げるなんて、ありえないって……」


「はぁぁ……くそが」


 俺が受け入れられないのはいいとして、クリスタならいけると思ったのだが、現実はそう甘くは無かった。


「ここまで国王様の影響が強いとはな」


「仕方ないよ。表向きはとてもいい王様だし、民衆の支持があついもん」


 確かに、この馬鹿でかい国を治めている王様は確かに善政を敷いているだろう。俺も最近まで普通に良い人だと思っていたのだから。


 だけど王都で、大司教様の話を聞いてから考えが変わった。本当に王が今回の騒動の諸悪なら、必ず復讐しなければならない。


 たとえ、国家反逆罪となったとして、俺の悪名が後世に語り継がれる事になったとしても、クリスタを犠牲にしようとしたのは到底許せる事ではない。


「アル君? 変な事考えないでよね」


「心配するな。まだ何も考えちゃいないさ」


「……アル君って、時々思うけど馬鹿だよね? まだって言っちゃうあたり。それわざとやってる?」


「なんの事か、ワカラナイナ」


 途中、片言になってしまったが上手く誤魔化せただろう。


 そう信じたい。


「何か決めるのなら、一人で決めるんじゃなくて必ず私に相談する事。いいね?」


「分かったよ。相談すりゃいいんだろ」


 クリスタはその答えを聞き、満足げに頷く。


「まずは、この子をどうするかだな」


 隣ですやすやと眠っている少女を見る。親はいないのだろうか? 誰か保護者になりうる人はいるのだろうか? 様々な疑問が出てくるが、最終的に孤児を預かってくれる施設で、預かって貰うのが一番いいだろうという結論に落ち着いた。


 医者によると大きな怪我もしてなければ、病気にもかかってない、至って健康そのものらしいので、数日もすれば目覚めると言っていた。


 何故、何日も眠り込んでしまっているのかは不明だが、俺はあの時グール達を焼いた光が、何か関係しているのではないかと睨んでいた。


 まぁ、この子が起きれば分かる事だろう。


 俺とクリスタは、少女が目覚めるまで滞在の許可を貰い(特に俺)久しぶりの故郷での生活を謳歌した。


 だが、それも数日間で終わりを迎えた。



 遠くから聞こえてくる、掛け声と馬の足音に気付いたのは俺が先だったか、彼女が先だったのかは分からない。だけど家から飛び出し、村役場についたのは殆ど同時だった。


「あの旗は王国軍!!」


 まだ遠くだが、確実に近づいて来ている兵士達の軍勢を見る。


「もう、私達の居場所がばれちゃったの?!」


 いや、いくらなんでも王都から離れて一週間しか経っていない。あいつらも王都の中をくまなく調べていただろうし、王国は五つの国に挟まれていて、どこに行ったのか簡単には分からない筈だ。


 兵を分散させたとしても、こんな早くに見つかるわけが。


 ……そうか、村の誰かが密告したな。


 恐らく報酬金目当て俺達の事を通報した奴がいるんだろう。こうなると分かってたら、馬小屋にこもってないで出入口を見張っておくべきだったな。


 聖女のクリスタがいるから大丈夫だろうと油断していたのが、仇になったか。


「アル君。どうする? 今すぐ逃げる?!」


 クリスタは判断を俺に仰いだ。


「今すぐ荷物を纏めて村から離れるぞ!」


 俺がクリスタと戻ろうとした時、しゃがれた声にひきとめられた。


「どこに行くのかの? もうすぐお仲間が迎えに来るというのに」


 振り返るとそこには、この村の村長。クリスタの叔父が立っていた。


「おじ様。おじ様が兵士に知らせたの?!」


「そうじゃよ。全く、王命に逆らうとは……ワシはそんな風にお前を育てた覚えはないぞ。まぁ大半は、両親揃ってお前を甘やかし過ぎたのとそこの男と一緒にいたせいだろう」


「アル君もお父さん達も悪くない! 悪いのは王様だもん」


「それ以上喋るな。死刑になっても知らんぞ」


「別に怖くないもん!!」


 クリスタが叔父と喧嘩しはじめた。


 お仲間……仲間と言われて思いつくのはあいつらしかいない、一緒に旅をしたのはあのパーティーだけだから。


『ファイヤーアロー!!』


 その時、炎の矢が村めがけて放たれた。


 兵士達の一糸乱れぬ矢が、村を襲い、民家に火をつけた。たった数分の間で村の殆どは火の海と化していた。


「くそっ! 数が多い!!」


 俺とクリスタ。ついでに村長に降ってくる矢の雨は落とせるが、他の人は守る事が出来ない。


 クリスタが聖女としての力が使えれば結界を張れるのに……無いものをねだってもしょうがない、俺はへっぴり腰と化した村長を立ち上がらせ、矢が比較的少ない所へと誘導した。


 燃えてない民家に、人が集まっていた。


「だめだ。今すぐ外に出ろ! 死ぬぞ!!」


「ふざけんな! 外に出た方が死ぬだろうが」


「お願い今すぐそこから離れて」


 クリスタの言葉でようやく何名か外へと飛び出した。次の瞬間、巨大な炎の矢が民家へと突っ込み中にいた者を残さず焼き殺した。


「うわぁぁぁあ」


 民家から、恐ろしい断末魔が聞こえてきた。あの巨大な炎の温度は溶岩と同じレベルだ。


 そして、わざと人を一か所に集めて殺す手法をとるのはあいつしかいない。


 矢の雨がやみ、俺たちの元へ、赤の鎧に身を包んだ騎士が颯爽とやってきた。


「久しぶりだな、【黒騎士】、【聖女】」


「お前にだけは会いたくなかったんだけどな、【聖騎士】」


 罪のない村人を殺めた男は、【聖騎士】フィリックスだった。

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