第7話 故郷

「故郷だぁぁぁぁぁーーー!!」

「帰ってきたぞーーー! ってなるかー!」


 俺がクリスタの頭をおもいっきり、はたいた。


「ふぎゃぁぁぁぁあ。アル君、何するのさ!」


「お前テンション高すぎたろ……ったく心配してたこっちの身にもなってくれ」


 何にせよ、クリスタに昔の様な元気さが戻ってきて、本当に良かったと思っている。


 勇者達に傷付けられた心の傷も順調に回復してきているという事だろう。旅をしていた時は、全く笑わなかったが、パーティーから離れて、今はこんなにも笑うようになった。


 やっぱり、クリスタには笑顔が似合う。


 俺は、故郷を前に、はしゃいでいるクリスタの端正な横顔を眺める。


 こんな田舎に、中々見られない美人だ。


 思えば、クリスタは村で一番美しかった。そんな彼女が、一日中俺といるもんだから、仲良くなりたいと思っていた同世代の女の子や男の子も近づけなかっただろう。


 村一番の嫌われ者だった、俺と一緒だったから。


 俺は何度も、俺に近寄るな、お前も虐められるぞと言ったがクリスタは全く耳を貸さず。いつも俺の側にいてくれた。


 正直最初は、疎ましかった。こんな俺に近づくんだ、何か裏があるんじゃないかと距離を置いていた。


 だが俺が距離を置くよりも、もっと彼女の方が近づいてきた。俺がどんなに罵倒しようとも、手を挙げてしまった時でも、怒る事はしなかった。


 ただ一人ぼっちの俺にずっと寄り添ってくれた。


 その頃から彼女には聖女としての才覚があったのだろう。


 七年後。15歳になった村の者は、教会で神託を受けた。


 俺より、少し年上だった彼女が先に神託を受け、彼女には聖女としての適性がある事が分かった。


 俺は焦った、聖女は国で重宝されるレアジョブだ。彼女がどこか遠くに行ってしまうと思うと胸が張り裂けそうになった。


 そこで自分が彼女を好いている事に初めて気付いた。


 俺は願った。彼女と一緒にいられるようにして欲しいと。今まで神を信じていなかった俺は、必死に願った。恐らく本当に神がいたなら大笑いしていただろう。



 俺の願いが通じたのか、元々決まっていたのか運命なのかは分からないが、俺は黒騎士と言う称号を手に入れた。


 みんなから、忌み嫌われる俺が与えられたジョブは元魔王軍最高幹部の称号であった。


 当然そんなジョブを手に入れてしまったので、クリスタとは別の意味で騒がれ、その日のうちに国の監視下に置かれる事になった。


 クリスタが一緒に来てくれるので嫌ではなかったし怖くもなかった。



 今に至るまで様々な事を経験してきたが、無事に二人で故郷に帰ることが出来てよかった。


 俺はこの村が好きではないが……クリスタにとってはかけがえない場所だ。


 村が見えてくると少女を俺に預け、彼女は一目散に飛んでいった。


 彼女に、気づいた村人達は驚き、目を丸くしていたが、すぐに暖かく迎えてくれた。


 彼女が俺を指差した事で、ようやく俺の存在に気付いた彼等は露骨に嫌そうな顔をした。


 もう、そんな目で見つめられるのには、慣れっこだ。


 村人と話をつけたクリスタが戻ってきた。


「いやーー。アル君本当に嫌われてるよね。前世に何したのさ」


「うるせーー。嫌われてるって言うな、悲しくなる」


「あ、ちゃんと嫌われているって自覚あるんだね。良かった良かった」


「クリスタ……」


「とりあえず、その子を寝かして様子を見よう。ちょうど良い事に医者が来ているみたいだから」


「分かった。俺はどこにいればいい?」


「何言ってるの? アル君も村の住人なんだから、遠慮しないでいいんだよ」


「でも、みんなが嫌がるだろ」


「平気だよ。その子が起きるまでは、追い出さないって言ってたし」


「起きたら追い出されるのかよ」


「冗談だよ。冗談。アル君の家が馬小屋から犬小屋に移るだけだから」


「そうか……どう足掻いても俺は、人としての生活は送れないんだなぁー」


 クリスタと軽口を言い合った後、まだ名も知れぬ少女をクリスタが所有している民家に寝かした。


 ちなみに俺の家は、旅をしていた間に戻ってくる事はないだろうと取り壊されたらしい。


 全く、酷い話だ。


 少女をベッドに寝かした後、クリスタが村の住民を集めて改めて、事情を話す事になった。


 俺がいると逆効果らしく、大人しく家で待っとけという事で俺の家…………馬小屋で、馬と戯れながら待つ事になった。


 ちなみに馬はいいぞ。人と違って差別したりしないから。


◇◇◇


 すっかり日が落ちるまで、馬と傷を舐め合っていると、クリスタが憔悴しきった顔で入ってきた。


 そして、馬と戯れている俺を見て、じゃっかん退いた。


「アル君。まさか今の今まで、馬と戯れてたの?」


「そうだ。馬はいいぞ、俺の事嫌がんないから」


「いや、めちゃくちゃ嫌われてんじゃん」


 馬がムシャムシャと俺の髪に噛みついていた。


「いや、これは虐められてるんじゃない。コイツなりのちょっとした愛情表現だ」


  たぶん。


「はぁ、まぁいいけどね。話、聞く?」


「あぁ」


 俺は馬を離し、聞く体勢をとる。馬はやっと解放されたとばかり一鳴きし、自分の部屋へと戻って行った。

 

 俺がクリスタと向かい合う形になる。そしてクリスタが、口を重苦しく開き。


「……結論から言うとね、私の両親も含めて、私達の話は受け入れてもらえなかった」


 そう口にした。

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