第6話 町外れの教会 リッチ

『愚かな人間よ。我の糧となるがよい』


 リッチは知能が高いと聞いていたが、こんなに流暢に喋れるくらい知能が高いとは……。


「お前を倒して、さっさとこんな所からおさらばしてやるよ」


『我を倒すか。カカカ、やれるものならやってみるとよい。ーーー我が眷属たちよ』


 リッチの号令に、わらわらとスケルトン達が襲ってきた。そして俺に向かって、一斉に骨の剣を振りかざしてくる。


 ガキィーーーン。


 だが俺は剣を避けもせず、受け流す事もせず、堂々と体で受けた。


『ギギィ?!』


 スケルトン達が驚くのも無理はない。お前達程度の実力では、俺に傷をつける事すら出来ないだろう。


「次はこっちの番だ!」


 俺の放った剣技が、スケルトンを体をバラバラにしていく。しかし、スケルトンの群れは一向に数が減らない。


 仕方ない、大技を使うか。


「《ダークホース》!!」


 俺は床に黒剣を突き刺すと、魔力を込めた。俺の魔力に反応し、剣が黒く染まっていく。剣から床、床からリッチ、スケルトン達へと侵食していき、スケルトン達は体が黒くなり、ボロボロに崩れ落ちた。


 これがレアジョブ【黒騎士】の力さ!


 だが、流石はリッチだ。侵食されても、すぐに再生する。俺の力は、低級の闇属性の魔物には効果的でも、強大な闇属性のリッチには通用しないようだ。


『貴様は、我が眷属を一掃する程の闇の力を持っているのか?! ……我の部下にならんか、イマナラ幹部に召してやるゾ』


「そんなものいらねぇよ。どうせお前も世界征服とか何とかいうんだろ? もう聴き飽きたぜ」


 俺は、こういう系の魔物によくスカウトされる。旅の途中に出会った、魔王の右腕にさえ、仲間にならないかと誘われる始末だ。


 それくらい俺の闇の力は強大らしい。やろうと思えば、死霊軍の長になれるかもな。


 まぁ、クリスタと一緒にいる事以外にしたい事はないんだけど。


『何ヲ我との闘いの最中ニブツブツ言ってるノだー!』


 言語も先程の攻撃で、まともに話せなくなってきている。


 それに案外強くなかったから、真剣味が薄れちまった。


 俺は、奴の魔力を計る。対魔物戦では基本中の基本だ。


 最初よりも、リッチの魔力が落ちている。恐らく、スケルトン召喚に力を注いでいるからだろう。それに、まだ復活? いや生まれたてだから、全ての能力が元々弱い。


 これなら余裕だ。


「おらおら、どうした、どうしたー。リッチ様の強さはこんなもんなのかーー!」


『ヌゥ、我を愚弄するのカーーー。ニンゲン!』


 リッチの腕から放たれる霊魂を斬り裂いていく。そして近づき様、一閃を浴びせる。


「はぁっ!」


 首を狙ったがそもそも届かず、さらに頑丈な腕で防がれてしまった。骨の固さだけは立派なようだ。


「完全体だったら、危なかったかもな」


 完全体のリッチの見た目は、人間の姿と言われている。


 このリッチは、まだスケルトンが大きくなったものに過ぎない。王冠と鎧を剥ぎ取れば、ただの大きいスケルトンなのだから。


「うぉぉぉぉーー!」


 俺は、がむしゃらに斬りつけた。きちんと魔力を込めて斬りつけても良かったが、ここまできたら剣技を使わず、能力も使わず、ごり押しで行くことを決めた。


 キンキンキン、ガキン! ボロボロボロ。


 リッチの体が少しずつ確実に崩れていく、ダークホースの効果は相手が死ぬまで延々と続くので、俺の攻撃と合わさり再生が追いついていないようだ。


 俺の何度目かの攻撃で、リッチがぐらついた。足が再生出来ず、片足の膝から下が消失していた。


『ヌグゥ。ワレはまけんゾ』


「いいや。お前の負けだ」


 一旦攻撃の手を緩め、魔力を剣に注いだ。もう奴には防げるような頑丈さは無い。


 俺の倍以上あるリッチの首を狙うためには、高く飛ばないといけないので、黒く染まった黒剣をしっかり持ちリッチの首めがけて、おもいっきり床を蹴った。


 タッッ!


「これデ終わりダーーー!」


 俺の剣が奴の首を捉える。腕で守ってきたが、今度は腕ごと首を吹き飛ばし、地面に転がった。


『ワレガ、マケタ……ダト。キサマ、ホントウニ……ニンゲン、カ……?』


 それだけ言い残すと、今度こそ本当に消えていった。それに比例して周りの霊魂や怨霊達も力を失っていく。


「一件落着かな」


「アル君!!」


 戦いが終わって、その場に座り込んだ俺の元にクリスタがやって来る。腕の中には、気持ちよさそうに寝る少女がいる。


「……場所変わりてぇー」


「アル君、今何か言った?」


 良かった、まだ距離があったから聞こえてなかったようだ。


「なんでもない」


「ん、そっか。アル君、最後の方、闇の力に引っ張られすぎてたよ。眼の色も変わってたし、何より口調もおかしくなってたもん」


「そうか……自分では案外気付かないものだな」


「呑気な事言ってないで、アル君の力は危険なんだから無闇に使用しないで、分かった?!」


「へいへい、分かりましたよ」


「……本当に心配してるんだからね」


 俯きながら、そんなに顔を赤くして言われると俺も照れるんだけど。


「早く出よ、もう追手が来ちゃうよ」

「そうだな、追手が追いつく前に行こうか……故郷へ!」


 俺達は、予定よりも少し長く滞在した教会を後にした。まだ外は明るかったが、夕暮れ時は近かった。


 クリスタの腕の中で眠る錆色の髪の少女が、目を覚ますのはもう少し後の話だ。

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