第4話 町外れの教会

「ふぅっーー。ひとまず、ここまで来れば大丈夫だろ。クリスは大丈夫か……って、大丈夫じゃないみたいだな」


「いひゃい。ひた噛んだ」


「悪い悪い、急いでたからな。でも口を閉じてなかったお前も悪いんだぞ」

「わきゃっへる」


「これからの事なんだが……まずは故郷に、一度帰らないか?」


 こくん、こくん。とクリスタが可愛らしく反応してくれる。舌が痛いようで喋りたくはないらしい。


「じゃあ、そう言う事で、1時間後ぐらいに出発な」


 俺は、外壁が崩れ落ちて、支柱が剥き出しになっている天井や、壁を見渡した。


 恐らく、ここは随分前から、使われていないようだ、老朽化か、お金か……その辺りだろう。


 バサッ。


「ん? ここはなんだ」


 教会内を探索してると、神官部屋のボロボロになった、机の下には布が被せられていて、いかにも怪しい雰囲気を醸し出していた。


 布をどかしてみると、床下には、頑丈そうな扉が姿を現した。


「クリスー! ちょっと来てくれ」


 クリスタが小走りで何事かとやってきて、俺は扉を指差す。


「これ何? とびら?」

「みたいだな、入るか?」


「……アル君が行くなら」

「じゃあ行くか……」


 俺は扉を開けようと、力を込めたが、びくともしない。


「うーーーーぐぅ、うぬぬ〜〜」


「アル君って本当に男の子?」


 バカにするな! これでも、村一番の怪力の持ち主だったのは、お前も側で見てただろ!!


「なら、クリス。お前がやってみろよ」

「いいよ」

 

 俺は、バカにするつもりで、クリスタにやらせた。……今は、聖女の力もないので、筋力も、普通の女の子になっている筈だと思ったからだ。


 だが俺の予想は裏切られた。


「あっ開いた」


 ギィーっと音を立てて扉が開いた。 いや、開いちゃったよ。


「ははっ。嘘だろ……まぁ開いたもんは仕方ないな、俺から離れるなよ」


 俺の口からは、乾いた笑い声しか、出てこなかった。


「はーーい。あと、アル君、力無いね」

「お前が、ゴリラなんだろ」


 イラッとしてつい、口から言葉が、漏れてしまった。


「乙女に向かって、ゴリラとは何事だーー!」

「いでぇ。いててて、悪かった謝るよ」


 全力でつねってきやがった。案外いてぇな。


 やっぱゴリラか?


 ゆっくりと足元に気をつけながら、階段を降りていく。少し開けた場所にでた……そこには鎖や牢獄、何に使うのか分からない器具がたくさん置いてあった。


「ここは……一体何に使われていたんだ?」


「分からないけど、良くない事に使われていたのは確かだね」


 辺りからは、たくさんの死臭が漂っている。死体は処理されているが、臭いが壁や鎖などに染みついているんだろう。


「……怨霊もたくさんいる」


 クリスタが両手を合わせた。普段なら、この哀れな魂たちを、浄化させてあげるのが、聖女としての本来の役割なのだ。その副産物であるのが、彼女の回復魔法。選定の時、他にまともな、回復魔法を使える者が居なかった為、聖女であった、彼女に白羽の矢がたった。


 今になって思えば、国中から集めて、彼女を超える回復術師がいないのは、おかしな話だと思う。


 そん時の俺は、クリスタと一緒に旅を出来るってはしゃいでいたけど。


「やっぱり……無理か?」

「うん。浄化の魔法も使えない。私、殆どの魔法を使えなくなっちゃったみたい」


「そうか、無理するなよ」

「うん。……皆さん、ごめんなさい。力が戻ったら必ず浄化しに戻ってきます」


 彼女は、見えぬ霊魂に深々と頭を下げた。


「ーーうっ、うう」


  今、何か声が。


「おい、今の聞こえたか?!」

「聞こえたわ! まだ生きてる人がいるのかも」


 俺とクリスタは、隈なく三畳にも満たない部屋を回った。


 しかし、声の主はどこにも見当たらない。


「ダメ、どこにもいない」

「一体どこに……!」


 俺は、ベッドの下に、入り口を隠していた物と似たような、大鳥に矢が三本刺さっている、旗のような布を見つけた。


「……見つけた」


 布をめくると、中には、人一人分のスペースがあり、錆色の髪の女の子がすっぽり埋まっていた。


 クリスタが息を呑んだ。


「大丈夫、息してる?!」


 俺は少女を抱き上げ、状態を確認する。


「ひとまず、怪我とかはしてないし、見えるとこに異常は……見当たらないな。一度、医者に見せないと詳しい事は分からないが」


「とりあえず、ここから出るぞ」

「アル君、ちょっと待って!!」

「なんだ? まだ何かある……」


「こっちに来てる!!」

「? 何が来てるんだ?」


 何者かが、ズルズルと歩く音が聞こえてきた。あの死臭漂う、邪悪な気配はアンデット系の魔物だ!


「その子は私に! アル君は怨霊たちを!!」


 俺は、クリスタに少女を渡し、剣を構える。暫くすると……。


『ウウッ〜〜。アァーーー』


 腐った、体を引きずりながら、死者の群れが姿を現した。


 空気中の魔素で、実体化したらしく、推測だが、生きている人間を見つけて、怨霊達が活性化したのだろう。


「実体を持ちやがったのか……面倒な」


「頼むよ、アル君」

「任せろ、すぐに終わらせる」


 剣に魔力を込め、刀身を黒くさせる。


「さぁ、どこからでもかかってこい!」


『ウァァァォー!』


 奴らは一斉に襲ってきた。

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