第2話 嵌められた追放者
俺とクリスタはパーティーを離れた後、転移石で王都へと戻ってきた。
俺とクリスタを見つけた町長が話しかけてきた。
「おや、黒騎士様に聖女様。お二人だけでどうされましたか?」
「あぁ、ちょっと色々あって、パーティーを抜けてきた。クリスタの具合が悪いんだが、どこか空いている宿はないか?」
クリスタに視線を動かし、容態がおかしいと分かったのか、すぐに指示を出してくれた。
「勇者パーティーのメンバーなのですから、すぐに空いている宿を見繕いましょう」
町長が他の住民に声をかける。どうやら俺達がパーティーを抜けてきた事は、一時的なものだと思っているらしい。 都合が良いので暫くはそういう体でいこう。
「さぁ、黒騎士様、聖女様をどうぞあちらの宿へ」
「すまないな、助かる」
案内された宿はそれなりに高い宿だった。そこの一番良い部屋に案内され、ベットにクリスタを寝かす、ついでに替の服を何着かアイテム袋から取り出し、枕元に置いておいた。
まだ、暫くはショックで寝ているだろう。
旅の初めは、みんな和気あいあいで、雰囲気良かったのに、いつからこんな険悪になってしまったのだろう。
俺はひとまず、食料の買い出しに出る事にした。
遅かれ、早かれ、アイツらが転移石で戻ってきたら、俺達の事を公表して国から追い出されるのだから。
◇◇◇
今まで、貯めていたお金で、一ヶ月分の食料を買いアイテム袋にしまうと、王都で一番お世話になった人物にお礼をする事にした。
王都に入れるのもこれが最後なのだから。
俺は工房が立ち並ぶ区域に入り、一つの小さな工房の前で立ち止まった。年季の入った、看板にはドワーフの鍛冶屋と書かれている。その重く、軋んだ扉をゆっくり開ける。
「いらっしゃい……ここに来るのも久しぶりじゃねえか、アル」
店主は俺の顔を見ると気さくに声をかけてきた。
「お久しぶりです。ガル爺。元気にしてましたか?」
「おう、ワシはこの通りピンピンしてるぞ」
ガル爺は自分の筋肉をピクピクと動かす。ドワーフの中でも高年齢の方だが、体は全く衰えていないらしい。
「それは何よりです。今日ここに来たのは、お別れの挨拶をする為です」
俺が、別れと口に出すと、ひどく不機嫌そうに眉をしかめた。
「それは、どういう事だ。別の鍛冶屋に行くというのか?」
「いえ、そうじゃなくて。実は……」
一通りの話をすると、ガル爺は「そうか」と一声もらすと奥を指差した。
「あっちにある武器や防具は、好きに持っていっていい、売るなり、使うなり勝手にしろ」
どうやらガル爺なりの餞別らしい。
「ありがとうございます」
「何もしてやれなくて、すまねぇな。クリスタ嬢ちゃんによろしく」
「はい、クリスタにも必ず伝えておきます」
俺は、ガル爺さんの作った鎧や剣を一通りアイテム袋へと入れた。ガル爺さんのロゴが入った装備は品質も良い為、高く売れる。出来るだけ売りたくはないが、最後の砦となるだろう。
ガル爺には感謝しかない、今、俺が使っている黒剣もまだ王都に来たばかりの頃、無償で作って貰ったものだから。
そろそろ、クリスタが目を覚ます頃だろう。起きた時に誰も居ないとあいつすぐ泣いちまうからな。早く行ってやらねえと。
俺が、宿へと戻る道を急いでいた時、後ろから声をかけられた。
「やぁ、そんなに急いでどこに行くんだい。追放された黒騎士君」
「……もう、お前には関係ない事だろう。ジュドー」
魔導師の正装を着込み、左手に杖を持ち、丸メガネをかけた青年。勇者の側近であり、最も俺が会いたくなかった人物……ジュドーだった。
フィリックスはまだいい、あいつは基本裏表がないから、だがこいつは違う。旅の道中で知った事だが、あまりにも腹黒過ぎる。
盗賊に襲われた時、俺が気付いて止めなかったら、こいつは無実の人まで殺していただろう。それも勝手な理由で。
何故、無実の人まで殺そうとしたのか問うと、その方が多くの賞金が手に入るからだと言っていた。
他にも行く先々の街で、詐欺まがいな事もしていた、あまりに度が過ぎている事をしない限り、止めなかった俺も俺だが。
勇者はそれを知っていながら、ずっと見逃していた。あの時期からだったのかもしれない、パーティーの雰囲気が壊れていったのは。
「まぁまぁ、僕たちはまだ公式には、パーティーを組んでいる事になってるんだからさ、そんな事言わないでよ」
俺はジュドーを無視して、横を通り過ぎる。
「無視かい? 酷いな、とっておきの情報を持ってきてあげたというのに……クリスタちゃんにも関係するよ」
すれ違い様にそう言われ、俺は足を止めるしかなかった。
「言うだけ言ってみろ」
ジュドーはそうこなくっちゃと声を弾ませた。
「勇者様が先程、国王に今回の件を直訴なされてね。すぐに君達の事を捕らえ、調査する為の兵が来ると思うよ」
調査……か、事の真偽が分かれば、俺達が無実だと証明でき、王都から追放されずに済むかもしれない。
そんな淡い期待も、次の一声で消え失せた。
「さすがに、精密検査されると、処女ってバレちゃうからね。……先手を打たせてもらったよ」
「はっ? それはどういう意味……まさか」
俺は一目散に宿へと駆け出した。
「ハハハハハッ。安心しなよ、僕は邪魔したりしないからさ、まぁもう遅いと思うけどね」
後ろから、ジュドーの高笑いが聞こえてきた。だが奴に構っている暇はなかった。 俺は、がむしゃらに建物の屋根から屋根へと飛び移り、クリスタの待つ宿を目指した。
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