今がずっと続いたら(ミケ)
今日は、ふたりそろってお休みの日曜日。
昨日は夜更かしをしたので、今日は昼過ぎに起きてきた。
ミケが淹れたコーヒーをふたりで飲みながら、夜ご飯の相談をした。何ご飯を食べるのにもふさわしくない時間なので、お茶うけにチョコレートをつまみながら。
「お昼を抜いて、早めの夜ご飯を食べに出ようか。」
「うん。隣の駅がいいね。」
「ついでに、肥料を買いに行かない?実が成る植物には、肥料を追加しないといけないみたい。」
「じゃあ、車だね。」
そういうわけで、午後3時ごろから出かける予定を立てた。
それまで、ふたりはそれぞれの時間を過ごした。特に口を利くこともなく過ごす。
ミケは、こういう時間にはタマに話しかけたい気持ちを我慢している。タマとの関係がうまくいっているのは、この距離をわきまえているからだとミケは信じている。
専門学校時代には、タマと仲良くなりたい女の子がたくさんいた。でも、その誰ともタマは友達にならなかった。そういう子たちとの会話は、だいたいいつも同じだった。例えば、こうだ。
「ねえ、タマ。明日の夕方空いてない?新しくできたカフェに行こう。」
「新しいお店には行かない。」
「えー!なんで。」
「おいしいお店はつぶれないはずだから、いつでも行けるでしょう。」
「じゃあ、どこなら一緒に行ってくれるの。」
「どこだろう……。」
しばらく考えた振りをした後に、タマは言う。
「じゃあ、これからバイトだから。また、明日。」
そう言って、ミケと並んで歩いて去るのだった。ミケは聞いた。
「遊んであげないの?」
タマの答えはいつも決まっていた。
「うん。エネルギーが強すぎて怖いよ。」
だから、無理に近付こうとすれば、タマは逃げてしまうということをミケは知っていた。野良猫の相手をするように、寄ってきたら撫でてあげる。だけど、追いかけたり、抱き上げたりしてはいけない。
他の女の子から「ふたりは、いつも一緒にいるね」と言われたときには、
「別に仲良し二人組のつもりはないもんね。」
と口に出すことすらあった。
3時半ごろに駐車場を出発した。予定通り、ホームセンターで肥料を買い、幹線道路を走っているとき、ミケはふと思いついて言った。
「ねえ、リサイクルショップに寄ってもいい?」
「うん。いいけど、この前服を売ったとこの系列店だよね。」
「そうそう。規模が小さくて、でも、品ぞろえがおもしろいのよ。」
ごちゃごちゃした駐車場に車を停める。こういう時は軽自動車で良かったと心から思う。
ガラスでできた店の扉を開けた瞬間に、タマの目は輝いた。
「一周してくるね。」
タマは、こういう小さい店で宝探しをするのが好きなのだ。
ミケは、お店の2階へと続く階段を上がった。
実は、1階の商品の陳列に使われている棚は非売品なのだけれど、2階の家具コーナーの棚は全て売り物なのだ。
ベッドサイドにちょうどいい棚がずっと欲しくて探しているのだけれど、なかなかイメージ通りの物が見つからない。
階段を上りきると、ミケの目に入ったのはダブルベッドだった。マットレスが乗ったまま売られている。両サイドには、照明とコンセントタップが付いた一対のサイドテーブルまで添えられている。
足下から回り込んで、ベッドの右側に立ち、その寝心地の良さそうなベッドと、欲しかった条件にピッタリのサイドテーブルを眺めた。
階段を上る足音が聞こえ、現れたのはタマだった。
「2階は家具を扱っているんだね。」
ミケは、ゆっくりと顔を上げた。タマは、階段を上りきったところで立ち止まったまま、「それ、欲しいの?」と聞いた。
ミケは素直に頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます