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この世界の個人戦闘スタイルにはそれぞれにそれぞれの役割がある。

まず火力担当の銃。結界を壊したり破壊をするのがメインだ。次に、特殊作戦用の魔法。特殊といってもその使い道は多岐にわたる。銃と連携可能な誘導弾を発射したり、直線上にいない敵を攻撃したり、粉塵爆発を起こしたりなど。最後に剣や槍などの近接武器だ。これらは近接戦闘においては未だに主流の武器である。中には素手で戦う変人もいるらしいが。

他にも能力と呼称されている固有魔法を使うものもいる。

「最強の戦闘スタイルは精霊術師だけどね」

「それって俺もできる?」

「それはわかんないね。精霊はすっごい気まぐれで契約できる人ってほんと少ないから。でも私を上手に使えるようになれば精霊術師もよゆーで倒せるようになるから心配しないで」

「俺は精霊術師を倒せないことを心配してるわけじゃないんだけどな」

蓮はそこでふとあるものを目にして歩みを止めた。

「なにあの岩に描かれている奇怪な模様」

無骨な未開地とは対照的に非常に繊細で芸術的だ。その表面で電子回路のように光の粒が目まぐるしく動いている。

「あれは魔法陣だね。護衛用の魔法陣」

「魔法陣?前にも聞いたことある単語だけど、詳しく教えて」

「あーいう模様がかかれたものが魔法陣だね。これを使えば魔法を起こすことができるの。あれは護衛ゴーレムを吐き出すための魔法陣だね。あとあれは岩に描かれているように見えるけど違うよ。魔法陣の描かれたとーめいな紙に覆われているだけ。この魔法陣、まだ動いてるみたいだね。このままじゃ腐った魔力を取り込んで魔獣を吐き出しちゃうから封印しないと」

腐った魔力とは放出されたままで指向性を与えられなかった魔力のことだ。

「封印ってどうやるの?」

「魔法陣の中心に私をぶっさせばできる」

短剣となったティナで魔法陣を貫く。すると魔法陣の中央部分から上空に向かって弱い光が一瞬だけ伸びた。その表面ではもう光の粒が動いてなかった。おそらく封印が成功したのだろう。蓮はただの綺麗な模様のある透明な紙となった魔法陣を持ち上げた。至近距離でみると改めてその細かさに驚かされる。

「魔法陣って印刷して量産できないの?」

「うん、人の手で作られたものじゃないとダメだからね。魔法陣にあるそれぞれの記号には思いがあって、思いが組み合わさって魔法陣になるの」

「思いが組み合わさるってなかなかふわふわとした表現だな。でも原理はプログラミングと全く同じだな。このプログラミング言語の解読ができればいいんだけど、それぞれの記号が持っている意味ってわかる?」

「うーん、わかんない」

「この魔法陣がどういう効果をもたらすのかわかるのに、魔法陣に描かれている記号の意味はわからないのか」

「ごめんなさい」

ティナが申し訳なさそうに羽を縮こませる。

「ティナが謝ることじゃないから別にいいんだ、気にするな」

蓮は知っている。世の中には「なぜかわからないけどこの難問の答えがわかった」とか「なぜかわからないけどこのコード書いてみたら正確に動作した」とか言っている、天才的が存在することを。理論は知らないくせに、答えだけ知っているという人間がいることを。地球で天才と呼ばれた蓮だが、彼はあくまで論理的思考と知識を重んじる。その意味では蓮というのは秀才と呼んだ方が良いかもしれない。ティナはそういった直感的な天才なのかもしれない。そうでなければ無知を完璧に演じきる狡猾こうかつで天才的な役者だ。残念ながら今の蓮にはティナが前者に含まれるのか後者に含まれるのかわからない。どちらにせよ、ティナに敵意を持たれないためにも、ティナに蓮が彼女のことを警戒していることを悟られないためにも、蓮は気にするなと答えるべきだ。

「ほんとに?」

「ほんとだ」

「よかった!」

蓮は無力化された魔法陣を持ち帰って独自に解析してみようと思った。そして数時間悪戦苦闘した結果だが。

「全くわからなかった」

頻度解析をしようにも、記号が筆記体になっているのでアラビア語のようにどこまでが一文字なのか不明なのだ。英語を知らない人がvvとwを見分けることができないのと同じだ。しかも記号が複雑に絡み合って重なり合ってるあたり更にたちが悪い。

「コードでもサイファでもなく完全に未知の言語だから専門外なんだよな。こんだけ文章量があるんだから、コンピュータさえあればエントロピーを弾き出して文法があるかどうかぐらい解析できるんだけど」

強いて言えば、中央部分と端っこの部分で明らかに使われている記号が違う。ティナで中央部分をぶっさすことで魔法陣の発動を止められる。魔法陣が発動した際に端っこの部分が光っていた。この三つの事実から察するに、中央部分が制御部位で端っこの部分が動力部位だ。その程度の推測しかできなかった。

「不思議パワーを数学的処理に落とし込むこと自体が間違ってるのか?」

一朝一夕にできるようなものではないし魔法陣の母数もまだまだ足りてないから仕方ないか。

魔法陣は蓮にとってこの世界で唯一、少しでも面白いと思えるものとなった。もし生命の安全が保障されればこの魔法陣の解明のために引きこもってたかもしれない。

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