瑠璃色に煌く翠は翼を広げ一穂をあげにいく

 モフクマの手足の長さは変わっていないが、筋肉質になった分速度が上がり攻撃の威力も上がっている。

 元から持っている爪の攻撃に加え周囲に隠してあった薙刀を手に取り穂花のMOFU KUMAを襲う。


 対する穂花のMOFU KUMAは攻撃を捌いて反撃を繰り返す所謂カウンター方式でダメージを与えていく。

 モフクマが右腕を振り上げるより先に棍棒を構え襲い来る爪を棍棒に這わせ受け流すと左の拳で顔面を殴り振り抜きその場で1回転しモフクマの左からの蹴りを受け止める。


「あぁ~何て衝撃よ! ちゃんと受け止めたのに腕にダメージ受けてるじゃない」


 穂花がパネルに表示される左腕装甲に耐久値以上の衝撃があったことを示す警告を見て文句を言っている。


「で、でも穂花さん凄いです。なんで攻撃が分かるんですか? 直感ってやつですか?」


 後ろで腕をパタパタしながら興奮している莉歩に少し呆れた顔をする穂花は他のMOF UKUMAに指示を出し攻撃を続ける。


「直感ってなによ。どこのニュータイプよ」

「え、ええ?」


 突然の返答に慌てる莉歩。


「私は全部覚えてるの。あいつの動き、形状、癖、周囲の地形から予測できる動きを選別し行動してるだけ、だから被弾ゼロとはいかないわけなのよ」

「それが凄いです! そんなこと出来る人いませんよ!」


 莉歩を見ずに操作する穂花の背中に莉歩は尊敬の念をぶつける。

 穂花は黙って前を向いたままモフクマと対峙し操作を行う。


「出来るってついさっきここまで覚醒したのよ。もっと早くに覚醒してれば友達も失わずに済んだのかもしれないわね……」

「……」


 かける言葉のない莉歩は黙ることしか出来ない。


「莉歩! しっかり捕まって!」


 穂花が叫ぶと同時に激しい衝撃が莉歩達を襲う。


「ちぃぃ! まさか熱線を散弾型にも変化させてくるなんて。前にそんなモドラーがいたから反応できたけど」


 右腕の肩が大きく抉れて配線やパイプが千切れ飛び出している。


「なんとか動くけど右手で攻撃は無理っぽいわね」

「ど、どうするんです!?」


 焦る莉歩に穂花が余裕の笑みを見せる。


「大丈夫。私のヒーローが来るから」

「はい?」


 莉歩が首を傾げたと同時だった。対峙するモフクマの横にあるビルから激しい轟音と共にドリルが突き出るとモフクマの腕を豪快に抉る。


 瓦礫を吹き飛ばしながら現れる黒いMOFU KUMAが右手のドリルを再び振り返しそれを避けられるが、左手に持っていた銃で銃弾を放つ。


 周囲に飛び散るモフクマの左足からの鮮血。致命傷には程遠いがビルの影に隠れ移動をするモフクマをビルごと次々に撃ち抜いていく。


「す、凄い!?」


「でしょ! あれが私の瑠璃くんなんだから!」


 さっきまでのテンションとあからさまに違う穂花に驚きつつも微笑ましく見る莉歩。


「あれに乗っているのが穂花さんの彼氏なんですか?」


「あら、莉歩は理解が早いわね。そうあれが……」


 テンションマックスな穂花が黒いMOFU KUMAであるファンキーグマからの通信を開いて固まる。


「瑠璃くん? なにをやってるのかしら」


〈なにって助けに来たんだが遅かった……か?〉


「いえ私が聞きたいのはその状況! なんで翠を膝に座らせて一緒に操縦してるのかってこと」


〈あ、ああこれな。簡単に説明すると俺の右足が無いからペダルが踏めないんだ。だから翠に頼んだんだけど〉


「足がない? どういうこと? 説明して」


 足を失ったことをさらりと言う瑠璃に冷静さを失う穂花が噛みつくような勢いで問いただす。


〈事故で足を挟まれて壊死していたのを私が切ったんです。穂花さん詳しくは後で話します! 今はあのモドラーを倒しましょう〉


 翠が会話に割って入ってくる。少しイラッとした表情を見せるも落ち着きを取り戻した穂花が操縦桿を握る。


「今だけ許す。あんまり引っ付かないでよ」


〈はい、嫌です〉


「はいっ?」


 モニター越しでも殴り合いをしそうな2人。そんな2人を見て瑠璃は呆れ、莉歩は怯える。


〈お前ら止めろってあいつを今はどうにかしような、な?〉


 瑠璃の一言で2人とも「ふん!」と言いながらそっぽを向く。そんな2人に怯えながらことの成り行きを守っていた莉歩が瑠璃を見つめながら口を開く。


「あーでも穂花さん、私もなんか瑠璃さんに引かれます。うまく言えませんけどこう好きだーって感じがフツフツと湧いてきます」


「なにぃ!!」


 莉歩の発言に穂花と翠が同時に叫ぶ!


「莉歩って瑠璃くんからラピスコアもらった訳じゃないはず。なんで?」

「ラピスコアが何かは知りませんけどなんと言うか瑠璃さんからこう、強さを感じると言うか惹き付けられる感じです」


 屈託のない瞳でそう語る莉歩。


〈あ、あの~私もなんかこう惹き付けられるんですけど……〉


 穂花の操縦席と通信の繋がっていた鞠枝から申し訳なさそうな声が聞こえてくる。


「翠、急ぐわよ!」


〈了解です〉


 恐らくはラピスコアの同調率が上がったせいで瑠璃、穂花、翠と莉歩達の間に見えない上下関係が築かれた。

 そして男である瑠璃に対し女の莉歩達はその上下関係のせいで惹かれると推測した穂花、翠の2人がこの状況を続けることに危険を感じ結託する。


 2人が集中したことでようやく落ち着きを取り戻す。瑠璃の射撃が的確にモフクマを撃ち抜き、穂花の指示で確実に追い詰めていく。

 瑠璃と穂花のMOFU KUMAにも傷が付き増えていくがそれ以上にモフクマは体のいたるところから血を流し辺りを緑に染めていく。


 誰もが討伐出来るかも、そう思ったときだった。


 ごおおおおおぉぉぉぉおおおお!


 モフクマが吠える。


 視界から消えたと錯覚するような素早い動き。これにギリギリ反応した瑠璃と穂花のMOFU KUMAが状態を反らす。


 穂花のMOFU KUMAの腕が宙を舞う。その腕が落ちる間も無く鋭い一閃が走る。


 ガチッンと甲高い音がして真っ二つになった銃が最初に舞っていた腕と共に土埃を上げて地面に落ちる。


「やらせるかよ! もう誰も死なせない!」


 穂花とモフクマの間に瑠璃が叫びながら入ってくる。

 右腕が刃物のような形状になったモフクマの攻撃をかわすと爪と拳を叩き込む。


 その隙に立ち上がった穂花が瑠璃とモドラーに混ざり激しい乱打戦が繰り広げられる。

 素早くなったモドラーに徐々についていく3人。

 モドラーの血とMOFU KUMAのオイルが混ざり飛び散る。辺りに生臭さと焦げ臭い臭いが漂う。


 殴り合う最中さなかモフクマの口が赤く光ると同時に穂花が残された左腕を光る口に突っ込む。


「ええ!? 穂花さんこれどうするってなんで瑠璃さんが!?」


 穂花の後ろであわてふためく莉歩は、ファンキーグマが刀をこっちに向かって振り下ろす姿を見て更に慌てる。

 穂花のMOFU KUMAの腕をファンキーグマが切り落とすと蹴りを入れ2体ともモフクマから離れる。


 それに合わせモフクマの口に残された左手に握られている爆薬を倒れるMO FUKUMAの中で穂花が遠隔を操作する。


 激しい爆発音に吹き荒れる爆風と緑色。モフクマの口内が内部から捲れ大量の血が地面に溢れる。


「これでも死なないのか!」

「あいたっ! 瑠璃さんちょっと強く抱き締めすぎです」

「あ、ごめん」


〈翠!!〉


 瑠璃が倒れないモフクマを見て思わず力を入れたことで翠を強く締め付けてしまい謝るが、それを見て怒る穂花に翠が舌を出して挑発する。


 そんなことをしている間もじっとして口から血を流し続けるモフクマから目を離さず様子を見る。待機させている鞠枝達も照準を合わせスタンバっている。


「穂花? もう動けそうにない……よな」


〈無理。足で蹴るのもちょっと厳しいわね〉


 ゆらりと動くモフクマが倒れる穂花のMOFU KUMA目掛け走ってくる。


「まあそうくるわな!」


 予測していた瑠璃が突っ込んでくるモフクマに刀を突き立てる。貫通とまではいかないが突進の勢いもありモフクマの胸に深く突き刺さる。


 モフクマが突き刺さしたまま体を捻りその場で一回転すると、刀を折り回転の勢いそのままにファンキーグマの右足の膝を裏から斬り飛ばす。

 体勢を崩し倒れるファンキーグマ。


 穂花のMOFU KUMAの隣に倒れるファンキーグマ。並ぶ2匹のクマを見つめるモフクマ。


 長い時間そのままだった。その間に瑠璃は落とした刀を引き寄せ右手に装備させ攻撃に備える。


 ゆっくりモフクマが背を向けると瑠璃たちとは違う方向へ走り始める。


 ここまで一連の流れを多くの人たちが見ていた。そしてその中には三滝と山部も勿論含まれている。


「おい、あの方向は」

「ええ、富士山ですねえ。もうMOFU KUMAは動けない、なら危険をおかしてまで戦う必要はないでしょう。実に賢い!」


 歓喜する山部の瞳に映るモフクマはその巨体を生かしあっという間に富士山のふもとにたどり着くと頂上を見上げ斜面を走り駆け上がり始める。


 40メートルはある巨体が行う豪快な登山を抵抗する術のない人類皆が見守る。そして遂に頂上へとたどり着いたモフクマはじっと辺りを見回し景色でも堪能しているかのように見えた。


 そしてそれは突然の事だった。


 風船でも割れたかのようにモフクマが突然破裂する。辺りに飛び散る肉片と緑色の体液。

 富士山の山頂の一部が緑色に染まる。


「な、なんだあ? あれは。ここから噴火するのか?」


 この光景に驚き焦る山部。


 ビッーーーー ビッーーーー ビッーーーー!


 部屋に鳴り響く緊急通信の音。山部のスマホや没収されている三滝のスマホも引っ切り無しに着信が鳴り響く。


 緊急通信が一方的に話し始める。


〈緊急! 緊急! モドラーと思われる生物が北海道と長崎に同時出現!〉


〈アメリカ、サウスカロライナの海岸にてモドラーの出現が!〉


〈スペインにモドラー──〉


〈中国上空に巨大な鳥がいると報告が!──〉


 鳴り止まない通信のブザーと着信から聞こえる各地の状況を知らせる緊迫した声。


「なんだこれは……なにがどうなっている」


 スマホを叩きつける宮部を鼻で笑う三滝。


「負けたんだよ。我々人類が地球に負けたんだよ」


 2327年 10月9日 13:47 


 人類は地球に敗北。この日を境に世界各地にモドラーが出現することとなる。 







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る