穣
コツッ
莉歩の乗るMOFU KUMAに何か小さい物が当たる。操縦席に座ったまま360度モニターの中で振り替えると近くのビルの上から女の人が自分の乗るMOFU KUMAに向かって何か投げているのが確認出来る。その女の人が石か何かを投げながら手に四角い物を持ってこっちにアピールしているのに気付く。
「文字? 何か書いてある」
モニターの一部を拡大すると小柄な女の人がジェスチャーで手に持っているタブレット大の端末を指差す。更に拡大する。
〈メインカメラに写すな! 私を中に入れろ!〉
そう書いてある。
「入れろって言われても……」
莉歩は困惑する。女の人を見るとジャンバーこそ羽織っているが下は自分と同じパイロットスーツを着ている。少しボロボロになって一部肌が露出しているのが確認出来る。
再び女の人が端末を指差すので文字を見る。
〈死にたくなければ私に操縦させろ!〉
「うわ~無茶苦茶だあの人。でも……」
莉歩は悩む。いや普通なら悩む必要もない案件である。知らない誰かがMOFU KUMAを操縦させろと言っているわけだから。
でも今は違う。もう1時間もしないうちにモドラーがやって来て自分達は無駄に死んでいく。これまでの映像を見る限り間違いなくそうなる。
謎の女の人はメインカメラに映すなと言うことは本部に自身の姿を見られたくないということ。そしてそれはメインカメラの映像を本部と共有しているのを知っているということ。
莉歩はMOFU KUMAを建物の近くにゆっくりと寄せハッチを開ける。女の人は小柄な体で身軽にビルから飛ぶとMOFU KUMAの胴体に飛び乗りスルリとハッチから中へ入ってくる。
「助かったわ。私は常門 穂花あなた名前は?」
「あ、はい。私は牧内 莉歩です。あの、あなたはいったい?」
「ん? もっちょっと待って説明するから」
穂花が操縦席のパネルを叩きながら答える。
「コントロールボックスは……」
穂花が操縦席の下の方のカバーに手をかけるとこじ開ける。
「えぇ!? そ、そんなとこ触ったら怒られます! と言うか力強すぎないですか?」
「ん? そうね。ラピスコアとの同調率が上がったのかしら? なんか力に満ち溢れてる感じ?」
穂花が操縦席の内部こじ開けなにやら操作しながら莉歩の方に視線を寄越さずに話をする。莉歩は止めなきゃという気持ちより穂花がなにをするかの方が気になり見守ることを選択する。
(どうせ死ぬなら今更命令違反とかどうでもいいや。それよりこの穂花という人から何か力を感じるのはなんだろ? それに信じて良いって直感だけど感じる)
「あの、ラピスコアってなんですか?」
「ああ、あなたは記憶が消されてるのね。まあその辺も後で説明するわ。っとよし乗っ取り完了っと」
穂花が操縦席に座る。
「莉歩は外に出てもらえる? 立ってると危ないから」
「い、いえ私もここにいます」
莉歩が操縦席の後ろにあるボタンを押し何かのロックを解除すると簡易的な座席を組み立てる。
「なにそれ? 今のモデルにはそんなのがあるの?」
驚く穂花にちょっぴり謎の優越感を感じた莉歩が座席のベルトを締める。
「はいこのモデル最新型なんで2人座れるんです」
「まあいいわ。えーと」
穂花が残り3体のMOFU KUMAに通信を繋げる。
「誰か知らないけど3人さん聞こえる? 私は常門 穂花。いい? 今から私の指揮下に入ってもらうから」
〈え? 莉歩……だれ?〉
驚く鞠枝と残り2人の顔が映し出される。
「穂花って自己紹介したでしょ。いいから言うことをきく。死にたくないでしょ?」
穂花の強引な口調に3人は反論出来ずに黙ってしまう。
〈──お前 誰だ?──勝手に我々の──機体を〉
ザッっと激しいノイズとともに本部から通信が入る。
「常門 穂花。本部の人間なら知ってるでしょ」
〈穂花!? おまえは 先日死んだと──〉
「はいはい、生きてるからこうしてここにいるわけ。後は現場でやるから通信切るわよ。あ、強制停止とか出来ないからよろしくね」
〈ま、まて! ──〉
穂花が一方的に通信を切る。
「ってことでみんな頑張りましょうか。作戦教えるからちゃんと聞いてね。じゃなきゃ死ぬわよ」
穂花の反論を許さぬ口調に加え莉歩を含めた4人は穂花の内にあるものに何か逆らえぬ物を感じとる。
***
最終防衛ラインへと現れるモフクマは周囲の建物を破壊しながら進む。住民の避難が済んだ町に並ぶ戦車の砲撃に当たることなく移動し踏み潰していく。
空を飛ぶ戦闘機を先の戦闘で奪った銃で撃ち落とし人のいない町をオモチャのように破壊していく。
我が物顔で闊歩するモフクマがビルの横を通ったとき窓ガラスが突如割れモフクマの肩から緑色の血が吹き周囲に散る。
モフクマがガラスが割れたビルを拳で破壊し後ろにいるであろう相手に攻撃を仕掛けるが空振りに終わる。
刹那、背後から刀が振り下ろされる。転がるようにしながら背中を少し切られながらもモフクマがそれを避ける。
「1発でどうこうとはいかないわね。ポイント3番に北西から射撃」
穂花の合図でモフクマを銃弾が襲う。大したダメージにはならないが怯むモフクマを再び斬りつける。
それを鋭い爪で受け止めるが穂花は腰にぶら下げていたショットガンの引き金を引き銃弾を散弾させる。
そのままモフクマに体当たりをして間合いを取ると刀を振り上げる。
身を反らされ胸元を僅かに切るに至るが穂花の指示で東の方角からの銃弾がモフクマを襲う。
「ターゲット移動。ポイント4越え5へ全員距離を取って奴の視界に入らないようにね」
穂花が指示を出しながらモフクマを追う。
「あーこの刀すぐダメになるのね。見た目カッコいいのに勿体無い」
刀をその辺りに投げ捨てると建物の間に隠してあった槍を手に取る。
「刃があるものって実践向きじゃないのよね。経験上鈍器が1番よ」
「穂花さん凄いです! あのモドラー相手にあそこまで抵抗出来るなんて」
感激する莉歩に対しため息をつく穂花。
「こっちが死なないようにするだけで精一杯よ。あれを倒せる奴がいたら見てみたいわよ」
(適当に相手して富士山に行ってもらうつもりだったけどあのモドラーは確実に私達を敵として排除しようとしている。地球の挑戦ってとこね。簡単には私の思い通りにはさせないというわけか……)
〈モドラーポイント到達です! 穂花さんどうすれば〉
「そのまま待機。私が相手するから指示出すまで手を出さないで」
鞠枝3人に指示を出して移動を開始する。初めは疑心暗鬼な3人も穂花の戦闘を見て生き残れる希望を見出だし指示に従っている。
本部の方も4体のMOFU KUMAが善戦していることから沈黙を決めている状態である。
「2体で東西から撃ち北へ追い込む。後ろのビルに勘づかれない程度に追い詰めて。もう1体は北側から回って棍棒を持ってきて」
穂花が指示した通り周囲の建物を破壊しながら2体のMOFU KUMAが影から銃弾を放ちモフクマを北の大きなビルの元へ追い込む。モフクマの背中が付くかどうかまで追い込んだときビルを槍が突き破って腹部を貫きビルに縫い付ける。
そのビルを回り込むと穂花の乗ったMOF UKUMAが鋼鉄性の棍棒をモフクマの顔面に叩きつける。
再び叩きつけようと2回目を振った棍棒はモフクマに受け止められてしまう。
腹部に刺さる槍を強引に引き抜き緑の血を撒きながら鋭い爪で襲いかかるそれを棍棒で受け流し激しい乱打戦が始まる。
「熱線!?」
穂花が叫んですぐに赤く光る口内。そのとき既に穂花のMOFU KUMAは横に避けており背後から頭に向け棍棒を振り下ろす。
後頭部を殴られ前のめりになったモフクマはそのまま熱線を吐き地面を赤く焼き周囲の建物を消し去ってしまう。
未だ前のめりで体勢の崩れるモフクマの後頭部に再度棍棒を振り下ろし焼ける地面に叩き付ける。
地面にうつ伏せで倒れるモフクマに何度も棍棒を振り下ろす。その度にモフクマの肉が裂け、割れ目から緑の血が溢れ辺りを染めていく。
「穂花さんこれいけるんじゃないですか! 討伐出来ますよ!」
興奮し腕を上げ喜ぶ莉歩だがMOFU KUMAが振り下ろした棍棒が地面を叩く音で我に返る。
「何が……」
莉歩の目の前には先程の丸い体のモフクマではなく全身筋肉質になり3回りくらい細くなった姿のモフクマが立っていた。
手足も太くたくましくなり血管なのか緑色の線が張り巡らされ盛り上り脈打っている。
ただ顔はそのまま丸いままなので非常にアンバランスだ。
ボディービルダーがクマの被り物を被っている感じである。
「途中で進化したってことかしらね。めんどくさい」
穂花の操縦桿を握る手に力が入る。そして呟く。
「気持ちわるっ」
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