生命の揺り篭は今日も静かに回る
瑠璃色の星
大きな草原を2匹の狼が走る。ただその狼は今まで観測されたことのある個体に比べ二回りほど大きい。
日本の大地を狼が優雅に走る。
2匹の歩みがピタリと止まると1匹の狼が清閑な顔つきで頭を上げ静かに鼻を動かす。
柔らかい風が吹きその立派な毛をなびかせると下を一瞬だけ向きくるっと
それにもう1匹も後ろからついていく。
徐々に加速し始めすぐに全力で走り始める。
直後だった近くにあった林から鳥たちが喚くように鳴きながら一斉に飛び立つと林の一部が盛り上がり爆発が起き土柱が上がる。
大地を震わせゆっくりとその姿を見せるその体は大きく優に30メートルは越えている。
その怪物はのぺーっとした埴輪のような顔に肩の無い体を揺さぶり身長より長い腕を鞭のようにしならせ地面を叩き土埃を立てる。
突如パーーン! っと発砲音が響き怪物の肩から緑色の血が吹き出す。その後も発砲音と共によろける怪物のいたるとこらから血が散り遂に怪物は片膝をついてしまう。
その怪物へ土煙を上げ地面を滑るように移動する真っ赤で大きなクマがバールを項垂れる頭目掛け振り下ろすと頭蓋骨を砕きながら地面に顔面を叩きつける。
地面に埋める頭を蹴ってバールを抜くと2体のシルバーのクマが大きくジャンプして手に持つハンマーで頭を粉砕するまで叩き続ける。
やがて頭が潰れ緑の体液を撒き散らし痙攣しながら動かなくなる怪物。
〈生体反応ロスト、討伐完了です。お疲れさまです〉
赤いクマの操縦席にワイプが開き翠の顔が映し出される。その顔を見ることで討伐完了の実感を持ったのか少し微笑む穂花。
「りょうか~い。翠、こいつどこか使えそう?」
〈モニター越しじゃなんとも言えませんけど皮膚の張りとかいい感じですし皮を剥いだらなんか使えるかもしれませんね〉
「だって取り敢えず持って帰って皮剥ぐわよ。莉歩、鞠枝頑張れ!」
手をグッと握って通信で莉歩と鞠枝に伝えると、ワイプが不満そうに開き、これまた不満そうな2人の顔が映し出される。
〈えーーーー〉
〈この間も爪剥げ~とか、足千切れーとか、歯を抜け! ってなんか私ら解体屋みたくなってるんですけどー。穂花さんも手伝って下さいよー〉
文句を言う莉歩と鞠枝に穂花は手をパタパタと仰ぎ笑う。
「むりむり、これから私、瑠璃くんと忙しいから。ね?」
〈穂花さんそれは無理ですね。なにせ瑠璃さんは私と約束がありますから。ね?〉
会話に割り込む翠に穂花が噛みつき2人の言い合いが始まると呆れた声の瑠璃から通信が入ってくる。
〈ね? じゃねえよ。取り敢えずそいつを基地に運ぼうぜ。悪いけど莉歩と鞠枝運んでもらえるか?〉
〈はい!〉
〈任せて下さい! 解体までバリバリやっちゃいます! 歯でも何でも抜いてみせますよ!〉
〈あんたらさっきと全然態度違うじゃないの〉
〈穂花さん怒っちゃダメです。みんな怖がってますよ、穂花さん怖いーって〉
〈翠、基地に戻ったら覚悟しなさいよ!〉
瑠璃は賑やかな通信を聞きながらため息をついて苦笑いをする。
10体目のモドラーであるモフクマ討伐に失敗から4年。各国で出現し暴れるモドラーに世界の人口は4割減少し今尚人口は減り続けている。
当初は日本での失敗を各国から責任追及され窮地に追い込まれるが、瑠璃達を初めとするラピスチルドレンの活躍によりその技術を有する日本の立場が強くなり他の国へラピスチルドレンを派遣し討伐を開始することでより立場を強めていく。
ただ今までの人類よりも高い能力を持つラピスチルドレンは前線は勿論サポートや技術の面でも大きな影響を与え始める。
彼らによって新たに開発されたMOFU KUMAは元の人類の理解に及ばない技術が使用されている。
そう言った背景から徐々にラピスチルドレンの立場が強くなり現場を仕切るのは彼らが中心である。
瑠璃達を初めとしたラピスチルドレンは第3世代まで含め350人程度。
世界の人口からみれば小さな存在。だが彼らはモドラー襲撃の際の生存率が高い。対して元の人類は1回の襲撃で多くの命が失われていく。今や人間は4年前まで使役していたラピスチルドレンに守られている状態である。
今は小さき存在のラピスチルドレンだが各国日本の技術を超えようと新たな人類を作り出す。そしてそれはやがてラピスチルドレン同士の争いへと発展していくことを示唆するものでもある。
長い時間をかけいずれ今の人類とラピスチルドレンはその数を逆転させることになるのを今の瑠璃が知ることはない。
穂花の中にある新しい命から新人類の歴史は幕を開けるのである。
そしてモドラーが襲撃し破壊された土地にモドラーは根を張り周囲一帯を緑の大地に変えていく。
それはまるで人間というウイルスを駆除し病巣を排除したことで正常を戻したとでもいわんばかりの行動に見えた。
モドラーが取り返した土地は緑が息吹新たな生態系を産み出していく。
人類はその土地に進出するより今いる場所を守るのに精一杯なのが現状であり住む土地が減るごとに宇宙から見た地球は青さを増していくのであった。
瑠璃はMOFU KUMAを起こすと緑の草原を見渡す。そして地面を数回軽く踏みつけると穂花達の元へ向かってゆっくりと大地を踏みしめ歩いていく。
【完】
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