アースレポート

 建築用ロボットを戦闘用に改造した対モドラー兵器が戦果をあげたことにより開発が急速に進む。


 MOFU KUMAの前身ともいえるResist抗う Personを略した8体目の機体『RP8』に諸星と三滝は搭乗しモドラーと激闘を繰り広げていた。

 2人は去年のモドラーを撃破した経験者であり今回はその経験を生かし完璧な立ち回りをみせモドラーを圧倒していた。


 モドラーの眼力の為、直視出来ないアドバンテージを抱えて尚有利に戦いを進める2人。そしてこの一方的な戦いでモドラーは観測史上初めて逃走行動を取る。

 下田の基地から弓ヶ浜へと逃げるモドラーを追いかけRP8が大きくジャンプし背中にしがみつくがそのまま海へと入っていく。


 このとき記録には残っていないがモドラーは背中の皮膚を変化させトゲを作るとRP8の装甲を貫いている。

 この攻撃により前の操縦席にいた諸星は瀕死の怪我を負う。モドラーもトゲを刺したはいいが元に戻せずRP8と共に海へと沈み藻屑となってしまう。


 モドラー自身も予期せぬ進化の過程を垣間見た瞬間だった。

 そしてモドラーと一緒に沈んだRP8の操縦者、諸星と三滝は海の底へと沈んだ。それを人間の進化とモドラーの進化を垣間見せてくれたお礼……とでも表現しようか。それでここへ呼んだんだ──


「映像まで用意して下さって非常に分かりやすい説明でした。それでその2人を人類代表としてこの戦いの条件を出した」


 穂花が海底に出来た海のシェルターのような場所に座って視線を上に向け喋っている。

 本人が座っているのは紛れもなく海底そのもの。普通の人間なら生身で辿り着ける場所ではない。

 穂花を中心に大きなドーム状の何かが覆っているのか海の水を押し退け存在している。

 その覆っている何かの周囲には様々な魚が泳ぎ穂花を見ているようにも見える。

 まるで穂花の方が魚達から観賞される水槽に入れられた様な異質さと居心地の悪さを感じる。


 ──そう、人間が新たな進化を見せたときに10体の進化したモドラーが出現する。

 これらは全て同じルートを通り富士山を目指す。モドラーが富士山に辿り着けば私の勝ち。10体全て阻止すれば君達人間の勝ち。

 簡単なルールだろう?


「何でそんなに面倒なことをするんです?」


 正直どこに視線を向けるのが正解か分からない穂花はとりあえず上の方を見て話す。水の中のシェルター全体に響く静かな声。


 ──そうだね。君達の言葉で言えば私は全ての生き物を等しく愛している。

 もしその生き物と意思の疎通が取れるならチャンスをあげたくなる。理由としてはそれだけだけど君達には悪い話じゃないだろ?


「なるほど。それじゃあ私達がモドラーと呼んでいる生物は何なのです?」


 ──あれはそうだね、『抗体』と表現したら分かりやすいかな?


「抗体……私達は異物又は害をなす細菌と言ったところでしょうか?」


 ──その呼び方が分かりやすくて良いね。

 私の表面に生きる生き物達の中で唯一自らの肉体を進化させるのではなく、知識、周囲の物を使って進化をみせる生物である人間は弱いのに他の動物を圧倒する。そしてどんな環境にも適応し爆発的に増える。

 増えたと思ったら他の生き物を無意味に巻き込み私を壊しながら争い一気にその数を減らす。


 害しかないよね?


「違いますとは言えませんね」


 ──そんな人類でも愛すべき生き物に変わりはない。だから生きるチャンスを与えた。

最初は勝手にやっていたんだ。青ヶ島だったっけ? そこから富士山にモドラーが到達したら私の勝ちってね。

そしたら人類はモドラーを討伐するために物凄いスピードで進化を始めたんだ。肉体じゃなく周囲や環境を進化させる。面白くなって意地でも天城山を越えて富士山に到着しようって思ってしまったよ。

 さらに諸星、三滝が来て私はルールを決めたんだ。次に人類が更なる進化をえたとき最終決戦にしようとね。


 穂花は首が疲れたのか首を押さえながら下を向きため息をつく。


「その進化が私達ラピスチルドレンということですか?」


 ──そう、人類の形振なりふり構わなさ、幼い人間にまさかモドラーの核を埋め込むとか想像出来ないよね。本当にとんでもないと思わないかい?


「それには同意しますけど、あなたはこうなることも本当は予見していたんでしょ? そして人類側も真っ向から向かうもの、逃げ出すもの、そしてあなたに味方し生き残ろうとするものが現れることも」


 ──穂花君は聡明で理解が早いから良いね。そう分かっていたよ。私に協力する人間が現れることも、だからモドラーは劇的な進化をとげることが出来て君達を襲った。

 そう考えると結局は人間対人間だったわけだよこの戦いは。


「あなたの手のひらで踊っていただけですか。もっとも私達は遥か昔からあなたの上で生き、これからも生きていくしかないわけですからね。そういえばあなたに名前はあるんですか?」


 ──好きに呼んでくれていいよ。地球でもアースでもエーアデやテッラでも好きなのでどうぞ。


「意外に気さくというか軽いものね。本当に人類を滅ぼす気なの地球さん?」


 ──滅ぼす? そんなつもりはないよ。ただ数が減れば良いかなって。君達だって薬を投与、散布して害虫や細菌が全て死滅するとは思っていないだろ? それと一緒さ。


「それじゃあ富士山にモドラーが到達したら何をするつもりだったの?」


 ──火山でも噴火させて人類を減らそうと思ってたけど……穂花の表情だとなにか言いたそうだね。


「いえ、思っていたのと違うからちょっと驚いたんですよ。地球が無くなるとかそれぐらいの規模を想定してましたから」


 ──私に自殺願望はないよ。じゃあ穂花の意見が聞きたいな。どうしたい?


 穂花は唇に手を当て少しだけ考えると口を開く。


「モドラーが全世界に出現するようになるといったのはどうでしょうか? 人類共通の敵を作るそして一致団結する人類。明るい未来と思いませんか?」


 地球が声を発しないので穂花は続ける。


「私達ラピスチルドレンが今後生き残るにはそれが1番でしょう? 最前線に出るリスクはありますがおそらく長い年月をかけ今の人類と私達は緩やかに比率を変えていくと思うんですよね。そうなれば立場も変わる」


 ──人間って恐いね。良いよ、そうしよう。人類共通の敵を作るってのは悪いことではないのかもしれないしね。


 座っていた穂花が立ち上がると大きく伸びをして上を向く。


「私は地上に戻りたいんですけど送ってもらえるんですか?」


 ──勿論送るけど帰ってどうするつもりだい?


「最後の10体目と戦いますよ」


 ──止める気が無いのに?


「ええ、やる気は見せておかないといけませんからね」


 ──最後に聞きたいんだけど穂花は何で瑠璃のことがそんなに好きなんだい? あらゆる生き物の中で遺伝子を残すことだけじゃなく恋や愛を語りそれに一喜一憂する人間。不思議なんだよね。


「誰にでも強く当たり周囲から距離をおかれていた私に優しく声をかけてくれた、それだけです。最初の切っ掛けなんて単純なものです。そこから心引かれていったんです。

 ラピスコアを埋められてその衝動は更に激しくなりましたけど、今はこの衝動に正直に生きてますよ」


 ──叶わぬ恋でも進むの?


「何気に酷いこと言いますね。実は人間のこと結構理解してませんか?」


 視線を上に向け睨みつける穂花が不意に笑う。


「まだ叶わぬとは決まってないでしょう。地球さんといえどもそんなことまで分からないでしょうに。瑠璃は生きてる! そして振り向いてもらうまで私は諦めませんよ!

 アネットや寧音、真瑚の分まで愛を勝ち取ってみせます」


 拳を突き上げる穂花の周囲を優しく楽しそうな空気が包む。









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