ラピスチルドレンメモリー

 穂花に呼ばれ翠と寧音も集められ瑠璃を含め6人が施設の部屋にいる。


「きれー良いなあー」


 翠がアネットの左手に光る指輪を見て羨ましそうに見つめる。

 部屋の端っこでは本を抱えた寧音がチラチラアネットの指輪を見ている。


「さてと瑠璃この指輪の説明をしてもらいましょうか」

「えっとこの間の支給品の希望のときにおままごとに使えるかなって注文したんだけど」

「ふ~んってことは指輪はアネットのものってわけじゃあないんだ」


 穂花の質問への瑠璃の答えを聞いて真瑚は微笑むとアネットに鋭い視線を送る。

 危険を感じたアネットが左手を隠し身構える。


「ねえアネットちゃん。私も1回付けたいな! ダメ? アネットちゃんだけ瑠璃くんに付けてもらったんでしょ。ずるいなあ」


 翠がアネットに詰め寄るがアネットは身を縮めて指輪を隠す。


「見せてもくれないんだ。寧音ちゃんも指輪付けたいよね?」


 翠の同意を求める呼び掛けに肩をビックっと震わせると本で顔を隠し頷く。

 そんな寧音にイラッとした表情の真瑚が厳しい口調で責める。


「寧音、それじゃあ分からないって。ハッキリ言いなよ」

「う、うん。私も、その瑠璃くんに指輪、付けて欲しい……」


 真っ赤になる顔を本で隠す寧音を見て真瑚は鼻で笑う。


「本来なら瑠璃に誰にあげるか決めてもらいたいんだけど。多分瑠璃はこう言うわよね。『みんなの分も買うから待ってて』って」

「うっ」


 穂花に考えていた解決策を先に言われ言葉に詰まる瑠璃。


「図星ね。まあこういう人を好きになった私たちが悪いってことで公平に日替わりで付けけましょうよ」

「えー真瑚ちゃん絶対次の人に渡さないよー」


 翠の不満に真瑚が睨むと穂花が割って入る。


「まあまあ、真瑚の後は私の順にするから。良いでしょ真瑚、翠」

「ちぇ、分かったよ」

「それなら良いよ」


 穂花の提案に2人が頷く。


「順番はアネット、寧音、翠、真瑚、私の順に回しましょう。で朝に瑠璃から指輪を付けてもらいましょう」

「お~」


 その提案に3人が色めきだつ。


「それで良いアネット?」

「う~……うん分かった」

「じゃあ今日はアネットの番。明日は寧音」


 寧音が本から頬を染めた顔を覗かせアネットの指輪と瑠璃を交互に見る。


「瑠璃、これで良いわよね」

「あ、はい」


 穂花に言われたじろく瑠璃の胸を穂花は軽く叩くと困った顔で笑う。


「しっかりしてよ。優しいだけじゃダメだって前も言ったでしょ」

「ごめん」


 穂花が大きく溜め息をつく。



 ***



「ちょっとだけー」


 翠はお風呂の脱衣場でアネットの着替えから指輪を見つけると左手の薬指にはめる。


「ピッタリ。あ~良いなあ、これがあったら瑠璃くんのお嫁さんになれるんだ」


 翠が指輪を見つめていると他の子達が脱衣所にやって来たので慌てて手を隠し後ろめたさから外に出てしまう。


「あ、持ってきちゃった。まっ、こっそり戻せばいいか」


 翠が指輪をポケットに入れ再び脱衣所に入ると泣きながらカゴをひっくり返すアネットとおろおろしている寧音がいた。

 寧音が翠を見つけると近寄ってくる。


「あのねアネットちゃん指輪失くしたって」

「そ、そうなの私も探すの手伝うよ」


 探しているフリをしてこっそり戻そうと思った翠がアネットを手伝おうとかがんだとき後ろから声がかかる。


「どうしたあ? 何かあったのか?」

「ま、真瑚ちゃんあのね」


 寧音から説明を受けた真瑚がアネットを罵倒する。


「いきなり失くすか普通? お前さ、穂花の提案飲むフリして隠してるんじゃないのか? 独り占めしようってことだろ」

「違うもん! 私ちゃんとスカートのポケットに入れてカゴの中に入れたもん!」


 泣きながら訴えるアネットを睨む真瑚。


「じゃあ何か? 誰か盗んだってのか? 自信を持ってお前がそう言うなら私はこの施設全員に聞いてやるよ!」


 翠がその言葉に身を震わせる。


「そ、それは……」

「じゃあおまえが失くしたってことじゃんよ」


 真瑚に言われ泣き伏せるアネット。そんな姿を見て何も言い出せない翠がただ立っていると穂花が入ってくる。


「あんたら外まで声聞こえてるけど何があったの?」


 泣きじゃくるアネットを見て察した顔の穂花に真瑚が興奮気味に説明する。

 穂花の提案でもう1度脱衣所の中を探し念のためお風呂の中も探すが見付からない。


「ということは外に落としたかアネットの部屋にあるかね。外は暗いから明日探しましょう。アネットは部屋に戻ってもう1度よく探して」


 泣いているアネットがコクンと頷く。


「あのさ、私考えたんだけど指輪を1番最初に見付けた人が所有者になるってどうよ」


 真瑚の提案に注目が集まる。


「良いと思う。私は賛成する」


 翠が1番最初に手を上げる。寧音はおどおどしながらも首を縦に振る。

 何も言えないアネットを除いて3人が賛成した時点で多数決は取れている。


「その方がやる気も出るかもね。いいわ私も賛成。アネットも自分の行動範囲知ってる分有利なんだからしっかり探しなさいよね」


 穂花に有利だと言われアネットが頷く。

 そしてよく朝から指輪の捜索が始まる訳だがこのデキレースにほくそ笑む翠に誰も気が付かない。



 ***



「瑠璃ちょっといいかな?」

「はい先生」


 白衣を着た優しそうな青年に声をかけられ瑠璃は駆け寄る。


「実はあの病気の手術の日が決まったんだけど」

「胸にボール状の異物が出来る病気ですよね?」

「そうそう、よく覚えていたね」


 瑠璃が先生と呼ぶ青年に誉められ嬉しそうにする。そんな瑠璃の頭を先生は撫でる。


「それでね急で悪いんだけどお昼には病院に行って検査を始めたいんだ。良いかな?」

「はい、分かりました。僕、早く良くなってみんなと遊びたいから頑張ります」

「うんそうだね。じゃあみんなを集めるからしばらくいなくなりますって挨拶しようか」

「はい」



 ***



 指輪を探すフリをしていた翠だが施設にあるスピーカーから全員集まるように呼び出しがかかり捜索を中断する。


「なんだろう?」


 疑問に思いながら翠が施設のホールに集まると小さなステージに瑠璃と先生が立っていて

 瑠璃が手術すること、お昼には施設を立つことが発表される。


 どよめく施設のみんなの中でアネット、寧音、穂花、真瑚が突然の発表にショックを受けているのがよく分かる。

 自分はどんな顔をしているんだろうと思いながら手で顔を探ると頬が濡れていることに気が付く。

 目から涙が溢れて止まらない。瑠璃は簡単な手術を受けて1、2週間で帰って来るって説明を受けた。でもなんだろう不安で不安で仕方がない。


 ────涙が止まらない……


 結局ろくに挨拶も出来ぬまま瑠璃と分かれそれから6年ほど会えなくなる。

 私は忘れていた。いや記憶を消され全然知らない家族と過ごしていたことになっていた。


 私に埋められたラピスコアは瑠璃と出会った瞬間覚醒する。胸を刺すような痛みと共に思い出す記憶。

 6年ぶりに会った瑠璃は記憶は無いが昔のまま変わらず優しかった。

 アネット、寧音、穂花、真瑚もいたがみんな記憶がなく性格まで変わっていた。


 ここに集められた128人。昔施設にいた子もいたけど知らない子も沢山いた。


 そして瑠璃を含め3人がMOFU KUMAの操縦者に選ばれる。

 穂花はその記憶力と分析能力を買われ秘密裏に4人目の操縦者として選ばれる。

 私は操縦はダメだったけど対人戦の成績が高かった為利用価値があると判断され生き残る。

 他の人? おそらく処分されたんじゃないですかね? 何人かは基地で働いていたかも知れませんけど、ただ飯食らいを養うほどこの国は優しくありませんよ。


「それで私は山部さんに能力を買われここに潜入したわけです」


 翠が細い銀のチェーンにオモチャの指輪を通すと首にかける。


「私の生きる意味は瑠璃さんだったんですよね。だからここにいて人として生きた。その瑠璃さんが死んでしまってはもう意味がないでしょう」


 動くものがいない部屋で翠が拳銃に弾を込めると鼻唄を歌いながら部屋を出ていく。途中立ち止まると壁に寄りかかりうつむき動かない女性の肩をポンポンと叩く。


「お疲れ様です港さん。今日まで色々教えてくれてありがとうございました」


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