記憶の欠片

 スナイパーグマが乱射する縦断は植物型モドラー、プラントン(後日命名されるが以下プラントンで表記)の体であろう茎にめり込むがダメージを与えられているのか判断しかねる状況だ。


 ラダルとファイターの2体も接近戦を挑めず周囲を回りながら銃を撃つ。


らちがあきませんね。植物ですからナパーム系と火炎放射器を使ってみましょう」


 穂花の提案で自衛隊も協力してナパーム弾が落とされプラントンの体を燃やし苦しいのか体をくねらせる。


「効いてる!?」

「いえ、ダメージはあるようですが傷ついた箇所が修復されています」


 2人の通信を聞きながら瑠璃は銃弾をプラントンの体にずらしながら撃ち込んでいく。幹、蔦、根、葉……


「弱点的なものはないのか。それとも威力が弱いのか。唯一の救いはこいつが動かないってことだけだな」


 瑠璃の言う通りプラントンは根を張りその場から動かないというか動けない。


「こいつは何が目的なんだ? 天城越え出来ないモドラーって何がしたいんだ」


 瑠璃に答えるかのようにプラントンが蔦を大地にめり込ませ震え始めると茎の一部分が赤く腫れ実の様な形になると地上に次々と落ち始める。

 赤い実は地面にぶつかるとパックリ割れ中から人間と同じ位の大きさのプラントンが姿が現れる。そして小さなプラントンは蔦をタコのように使い移動を始める。


 ラダルグマがいち速くバールでその小さなプラントンを粉砕するが次々と産み落とされる小さなプラントンにすぐ攻撃を止める。


「本体をたたかないと意味がありませんね……!?」


 穂花がラダルグマの握るバールの先端コルグイスの爪を見て息を飲む。


「溶けてる……このモドラーの体組織の構造が今までと全く違うのはこの攻撃方法を行う為だとすれば」


 プラントンの本体が震え始め顔の部分を大きく開きハエトリソウの顔を口のように大きく開くと半透明な粘液を吐き出し飛ばしてくる。


「うわっ! これ装甲に腐食のダメージがある!?」


 右肩に粘液が付着し装甲から白い煙を上げる

 ファイターグマを操縦する寧音が叫ぶ。



 ***



「腐食のダメージだと! おい、MOFU KUMAの出撃用ハッチの方ははどうなった?」

「植物型モドラーの根を除去しに行った部隊からの応答がありません。そ、それと映像を……」


 港の切迫した声が危機感を募らせ、大きなモニターに写し出される監視カメラの映像。

 非常用のハッチに溶けたような穴が空いている映像と数体の小型プラントンが廊下を移動している映像。


「侵入……我々の殲滅が目的ということなのか。いや今は目的などどうでもいい」


 三滝は弛んだ顎を触りながら考える。皆が三滝の答えを固唾を飲んで待っている。


「侵入した小型のモドラーを討伐するため隊を編成し向かってもらう。

 それとドックに保管してあるモドラー用に開発されていた猛毒がある。あれがこの植物型モドラーに効果があるか試したい」

「猛毒ってCHNOシーエッチエヌオーですか。あれは動物型モドラーには効果がありませんでしたけどこの植物型なら効果も望めるかもしれません」


 オペレーターの男性の答えに頷く三滝が編成を告げる。


「警備隊の君たち3人と翠くんの4人で行ってもらう」


 翠の名前が出て皆が翠に注目する。


「三滝指令! 翠はオペレーターですよ。戦闘に参加させるなんておかしくないですか!」


 港が抗議するが三滝は笑みを浮かべ答える。


「翠くんはオペレーターでもあるが兵士としても優秀なんだよ。それにCHNOの使い方も熟知しているしこの基地の構造も全て把握してるんだよ」


 三滝の言葉に少し気まずそうに頷く翠に銃の入ったホルスターとナイフが渡される。


「君ならやれるだろう。こういう場合を想定してこの配置な訳だ」


 三滝の話を聞きながら翠がホルスターを慣れた手つきで左脇と右足に装備する。ナイフを胸に装備するその姿を見て港はいつもと違う翠の雰囲気に息を飲む。


「俺も行こう」


 そう声を上げる諸星に三滝は驚き、翠の目には戸惑いの色が映る。


「君が? なぜ?」

「なぜってこの窮地を脱するためには戦える者が行くべきでしょう。俺も元とはいえ軍にいた身、翠の補佐位こなせますよ」


 三滝の答えも待たずに銃を手に取る諸星を見て三滝が苦虫を潰したような表情を見せつつも承諾する。


「まあいい、諸星くんも編成に加わって5人で向かうんだ。そうと決まればすぐに行ってくれ」


 管制室の非常用ハッチを開け出ていく5人を管制室の皆が見守る。


「翠……」


 1人祈るように呟く港。



 ***



 銃も効かない、火炎放射も一時的な効果しかない。唯一ナパーム弾の効果があるがプラントンが本体への直撃を蔦で阻止するため効果が薄いのが現状だ。

 蔦が邪魔をして近付けないMOFU KUMA3体を援護しようとするが戦闘機もまた近付くことが出来ない。


「火を嫌がってるのは分かるけどダメージを与えきれていない……直接撃ち込めば」


 寧音が通信を開く。


「瑠璃、穂花ちゃん。私がこのモドラーに突っ込んでナパーム爆弾を本体に投げ込むから援護して!」

「なに言ってんだお前!」

「そうです、寧音ちゃんより防御力のある私がやるべきです!」


 通信で叫ぶ2人に寧音は首を振る。


「私のクマが1番速く動けるんだから私がやる! でも1人じゃ無理だから2人が援護して」


 決意を固め、強い意思を表情に出す寧音を見て瑠璃と穂花がしぶしぶ頷く。


「じゃあ決まりだね! それじゃあ早速行くよ!」


 ファイターグマがナパーム爆弾を左手に持ち走る構えを見せたと思ったらすぐにプラントンに向かって走り始める。


「おい! ああもう! 穂花援護するぞ!」

「は、はい分かりました」


 寧音の行動に呆れながらも援護に回る2人がファイターグマの道を作るため射撃を行う。



 ──走るモドラーの本体目掛けて一直線に走る。友達を奪った憎いモドラーに向かって走る。


 蔦が鞭のようにしなりながら襲ってくるのをかわし進む。

 足を目掛けて襲う蔦をジャンプして避け、上から襲ってくる蔦は瑠璃たちが撃ち落としてくれる。



 ──本当は怖い。私しか出来ないって言ってたけど本当は怖い。だから迷わないようにすぐに走り出した。

 だって本当の私は泣き虫。いつもめそめそ泣いていた。

 そんな私に優しくしてくれた瑠璃。慰め守ってくれた大好きな瑠璃。



 道を塞ぐ蔦を右手の爪で引きちぎり進む。本体に近付くにつれ蔦の数が増える。

 それでも瑠璃たちの懸命な援護で道が開けていく。



 ──真瑚ちゃんが私の目の前で胸から血を吹き出し死んでしまった。

 数人を殺し、怪我をさせた後、私を殺そうと血のついたナイフを振り上げたとき警備員に撃たれた。



 スライディングをして蔦の攻撃を避けると左腕を大きく振りかぶる。

 その動きに合わせ瑠璃と穂花が周囲の蔦を撃って動きを封じてくれる。

 植物型モドラーはすぐ目の前ファイターグマが野球のピッチャーのように綺麗なフォームでハエトリソウの口にナパーム爆弾を投げ込む。



 ──元々スポーツは得意。運動神経も自信がある。真瑚ちゃんから欠片をもらってから更に得意になった。

 今思い出した、瑠璃たちとの思い出。



 投げたナパーム爆弾がプラントンの口の中に入ると爆発と共に体に火が回り苦しいのかのたうち回り甲高い金切り音を上げる。


「やった! これで押しきればいける!」


 油断をしまいと瑠璃と穂花が銃先を焼きながら銃弾をプラントンに撃ち込んでいく。

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