植物怪獣 プラントン

「話を続けましょう。私達が選ばれたのは本当に偶然です。この瑠璃くんを含めた6人は施設にいた頃からみんなで一緒によく遊んでいました。

 あーみんなでと言いますか瑠璃くんと一緒に遊んでいまいた。

 みんなが大好きな瑠璃くんを取り合っていました」


 瑠璃は必死に思い出そうとしている様で額を手で押さえている。


「ちょっと質問いい? なんで私達にはないのに穂花ちゃんだけ記憶があるの?」

「初めに『ラピスチルドレン』と呼ばれる私達の成り立ちを説明しましょう。

 と言っても単純で『ラピスコア』を胸に埋め込むだけで根を張り体に同化していきます。

 そして侵食が6割で止まれば成功となります。

 それ以下は兵器として使えずそれ以上は人を保てなくなります。

 そして『ラピスコア』には個性があります。

 私の中にある『ラピスコア』は情報、解析を欲しその方向に成長を始めました」


 ここまで一気に話した穂花が座る位置を直し瑠璃の密着し直す。


「大人たちは私達の記憶を定期的に消去し別の記憶を重ねていきます。それは自我を完全に作らせない為。下手に知識と記憶を持って人間側に反乱を起こさせないため。

 ふんわりと曖昧な記憶の中で言うことを聞く兵士を作り出す為。

 そんな中私の『ラピスコア』は記憶も含め得た知識を失うことを嫌った。その結果『ラピスコア』自身に記憶をバックアップし私の記憶を保存するようになりました」


 穂花は自分の胸を押さえ少し誇らしげに言う。


「この『ラピスコア』は優秀で私の見たこと経験したことを全て一瞬で記憶します。そのお陰で私は記憶が残っているわけです。

 それで──」


 突然、穂花が瑠璃の顔を押す。


「瑠璃くん隠れて。誰か来ます」

「え? 隠れる?」

「速く! そこの葦簾よしずの裏にでも隠れて下さい」


 穂花の指差す葦簾の裏に慌てて隠れるとすぐにドアが開く。


「たまには露天風呂も良いわね」

「ですよね。私も露天風呂好きなんですよ」


 ドアを開け入ってくる港と翠。翠は寧音と穂花に気付くと会釈をする。


「あら? 貴女達も入ってたんだ」

「ええ、露天風呂気持ちいいですからね~」


 港がお湯に足を入れながら話しかけてくる。


「港さんが来るなんて珍しいですね」

「んー? そうね私ここに来たの3回目くらいだし。今日はもう上がりだから翠に誘われて入りに来たってわけ」


 寧音と港が話している横で穂花が翠をチラッと見ると翠と目が合い翠が近付いて来る。


「アネットさんの葬儀が明日行われるそうです。残念ながら私達は行くことができませんけど」


 翠が悲しそうな声で穂花たちに伝えているのが隠れている瑠璃にも聞こえる。音を出さないように気を使いながら唾を飲み込む瑠璃は自分の手を見る。

 人間ではない、むしろ倒すべきモドラーの割合が多い自分の手。穂花の話を信じるかは別として今後のことが心配になる。そんな瑠璃に聞こえてくる寧音達の会話。


「私、モドラーを全部倒すよ。今までは何となく世の中の役に立ってるヒーローみたいって思ってたけど今は違う。

 アネットちゃんを殺したあいつらが憎い、だから──」

「だから寧音ちゃんはモドラーを全滅させるのですか~? 憎しみで戦うのは良くないですよ~ ねえ~ 翠ちゃん?」

「え、ええ。復讐心でのぞむのはよくないと思います」


 穂花に振られるとは思っていなかったのか慌てて答える翠の言葉に寧音は項垂うなだれてしまう。


「寧音の気持ちは私は分かるわよ。私だって憎いもん。でも今は寧音が無事に帰ってきてほしいから冷静さを失わないでね」


 港が項垂れる寧音の頭を撫でると寧音は何度も頷く。


〈緊急! 緊急! 青ヶ島噴火! モドラーの兆候あり! 至急──〉


 露天風呂に響く緊急警報に皆がたち上がり湯船から出ると足早に移動を開始する。


「ラピスラズリは何を思うんでしょうね。自分の立ち位置をよく考えた方がいいと思いますよ」


 葦簀に隠れる瑠璃の耳にはっきりとそう聞こえた。露天風呂を見るがすでに誰もいない。首を傾げながらも管制室に向かう為こそこそと移動を開始する。



 ***



 噴火した火口から飛んで海岸近くに落ちるモドラーの卵。よく見ると卵型ではなく筒状であり上部に穴が空いている。

 その穴からラグビーボール状のものが射出される。それは空に向かって飛んで行き下田の基地に落ちる。


 地面に刺さったそのラグビーボールのような物が震えだし緑色の太い幹を生やし持ち上がると半分にパックリ割れる。

 そこから現れるのは大きな二葉。


「発芽か? これは……」


 その光景に皆が息を飲む中その二葉はみるみる大きくなり成長を始める。この間にも自衛隊中心の攻撃を行いMOFU KUMAの出撃を急ぐ。

 驚くほど早いスピードで成長していく植物に皆が息を飲む。そして突然辺りが真っ暗になる。


「どうした? 何があった」


 三滝の緊迫した声が予備灯でぼんやり光る管制室に響く。


「詳しくは分かりませんがあの植物の根が配線を切断したのではないかと推測出来ます」


 オペレーターの男性が答えると管制室の明かりが元に戻る。皆が一瞬その光に顔をしかめる。


「予備電源に切り替えました。地下からの供給だと問題がないことから根っこは基地上部の地面に張っていると思われます」

「MOFU KUMAは?」


 モニターの映像にはようやく地上への扉が開いて3体が外に出た瞬間が映し出されていた。3体が植物に向かっていくその後ろで扉が閉まろうとするその隙間を狙ったかのように根が入り込み扉に隙間を作り出す。


「MOFU KUMA用のハッチが完全に閉まりません」

「隙間をわざと作った……念の為避難し各非常用扉を全て封鎖してくれ。根といい気になる」


 三滝の指令で避難指示が出る中、次々と非常用扉が降りてきてロックされる。


「さてこいつは何を仕掛けてくる」


 三滝が睨むモニターに映し出される大きな植物は食虫植物のハエトリソウの部分を頭のようにして触手のような蔦を動かしながらそびえ立っていた。

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