ラピスラズリ

 瑠璃は1人男湯の更衣室で悩む。瑠璃は日頃部屋にある風呂に入り浴場へは行かない。

 その瑠璃がなぜいるのか、それは女湯へ侵入しなければならないからである。いや正確には侵入という言葉は正確ではない、招かれているのだ。いかなければならない。


 前回の出撃の際、穂花に知ってることを話すように言ったら翌日すれ違い様に手紙を渡される。

 その内容が「今晩女湯へ来られたし」と書いてあり、入る手順が書いてあったわけで今に至る。

 なぜ女湯なのかその理由もなんとなく分かる。穂花や寧音の態度をみる限りこの施設は盗聴か何かされているのだろう。女湯はその対策があるといったところだろうか。


 瑠璃は手紙の内容を思い出す。更衣室から入ってくるように書いてあった。一緒に露天風呂に浸かりながら話をしましょうと温泉に浸かりニコニコ笑う穂花のイラストが描かれていた。

 あいつ絵が上手いなとか思いながら手紙は一旦水に浸け文字が消えボロボロになったのを確認してトイレに流した。

 なんでもそういう素材だからちゃんと文字の消去を確認して紙を砕いて流せと書いてあったからその通りにしたが正直ここまでする必要があるのだということに恐ろしくなったのを思い出す。


 考えても仕方ないと瑠璃は頼りない姿でこそこそ更衣室から出て廊下に出ると素早く女湯へ入る。間取りは同じはずなのに雰囲気も匂いも全く違う。

 生唾を飲み込み大浴場へと入り指定された露天風呂へと向かう。


 2重になっている扉を開けると外の風が肌に鋭く当たり、次に温泉の湯煙がふわっと肌をなでる。


 露天風呂にはまだ誰もいない。指定された時間は間違っていないはず。少し焦る瑠璃の背中に突然柔らかい感触と温もりを感じる。

 背中から手を回され背中に密着するその人物は残念そうな声を出す。


「瑠璃く~ん 私は~ 来てくださいって書きましたよね~ なんで~ 水着履いてるんですか~」


 そう言いながら背中に胸を押し付け、回した手を艶かしく動かす。


「私は裸なのに不公平です~ あ~! 脱がされたい? そういうことですか~?」

「ちょ、穂花、やめ……やめてくれ……」


 前を向いたまま顔を赤くして必死で訴える瑠璃に穂花は楽しそうに瑠璃の背中を指でなぞる。


「何をやめればいいんですか~? こっちを向いて~ 教えて欲しいなぁ~」


 前屈みになって逃げようとする瑠璃にますます体を密着させていく。


「ああああ!! 穂花ちゃんなにやってんの!?」


 叫びながら寧音が入ってきて穂花を瑠璃から引き剥がそうとする。


「なんで寧音ちゃんもう来たんです? 指定した時間は1時間後のはずですよ」

「早めにお風呂に入ろうかと思っただけだけど。じゃあなんで2人はいるの」


 穂花が瑠璃を引き寄せると横から抱きつき瑠璃の足に自分の足を絡める。ガチガチに固まる瑠璃の頬を愛おしそうに撫でながら答える。


「瑠璃くんが我慢出来ないっていうので2人で先に済ましておこうかと思ったんです」

「ぬ、ぬわんですって!? 瑠璃! それ本当」


 瑠璃は必死で首を横に振る。寧音は瑠璃と穂花を交互に見て瑠璃の態度に安心したのか胸を撫で下ろすとモジモジしながら恥ずかしそうに言う。


「その……私でよければ、ね?」


 寧音の言葉に固まる瑠璃だが必死に真面目な顔を繕う。


「話をしに来たんだろ。なんのためにここに来たと思っているんだ」


 その言葉に「そうでした」と言って3人は露天風呂に浸かる。因みに穂花は瑠璃の左側に陣取り密着している。この状態じゃないと話さないといったからである。

 そして対抗するように右側に寧音が密着して座っている。

 正直まともに話を聞く自信がない瑠璃だが穂花が話し出すのを必死で待つ。


「そうですね、まず私たちは人間ではありません」

「えーーーーーーー!?」


 冒頭から寧音が叫ぶ。


「寧音ちゃん話が進みません。それにいくら盗聴対策されているとはいえ大声は聞こえますよ」

「ご、ごめんなさい」


 しゅんとする寧音が瑠璃にすり寄る。ついでと言わんばかりに穂花もすり寄る。なんですり寄ってくるのか分からない瑠璃。


「じゃあ続きです。私たちは6割モドラーで残り4割が人間です」


 驚く2人を見て穂花の話は続く。


「モドラーには眼力といって目があった人間を発狂させる能力があります。

 それに対抗出来るのが16~20歳ぐらいの男女というのがそもそも嘘です。

 対抗するために作られた子供達が成長しモドラーが出現する時期の年齢がそうだったってことです。人間は今でもモドラーの眼力には耐えれませんよ」

「作られたってどういうことだ?」


 驚く瑠璃と寧音に穂花が語り出す。


「モドラーは討伐後、解剖し今後の対策の為に研究されます。10メートル級を討伐した際、綺麗な死体が手に入りました。その解剖をした結果体内から蒼い宝石の様なものを発見し取り出すことに成功します。

 そしてこの石はとてつもないエネルギーを秘めておりモドラーの生命の源だろうと考えられました。

 この石は地球上で採取出来る宝石『ラピスラズリ』に非常に似ていることから『ラピスコア』と呼ばれていました。ここで何か思いませんか?」


 穂花の質問に首を傾げる2人だが何か思い付いたのか寧音が興奮気味に答える。


「『ラピスラズリ』って和名は『瑠璃』だよね」

「正解です」


 穂花が頷くと瑠璃を見て話を続ける。


「割れていない『ラピスコア』はその1体からだけでなく合計5個採取しその内3個が使われています。

 そして大人達は考えた。このモドラーを動かしている『ラピスコア』を使って兵器を作れないかと。その1つの計画が人間とモドラーのハイブリットを作って戦わせるというものです」


 穂花が瑠璃を指差す。


「適合係数が高い被験体58人の中で唯一『ラピスコア』を取り込み融合し尚且つ3つの小さな『ラピスコア』を産み出した奇跡の子供。被験体番号23。ラピスラズリの和名を貰って現在の名前は『東内 瑠璃』 瑠璃くんあなたのことです」


 驚く瑠璃に穂花が話を更に続ける。


「さっき言った瑠璃くんが生み出した小さな『ラピスコア』を取り込んだのが私『穂花』『アネット』『真瑚』の3人です」

「あれ? 私は?」


 寧音が自分を指差して不安そうな顔をする。


「真瑚ちゃんが死んだ時のことは覚えている?」

「え? 死んだ?」


 心底驚いた顔をする寧音に穂花がため息をつく。


「大分記憶なくなってるみたいですね。真瑚ちゃんは取り込んだ『ラピスコア』が突如安定しなくなって暴走したんです。それで射殺されています。その際『ラピスコア』は割れてしまいましたが、まだ生きていました」

「それがもしかして……」


 寧音が唾を飲み込む音に瑠璃も緊張してしまう。


「そうですその欠片の2/3が『寧音』そして1/3が『翠』に取り込ませています」


 暖かい温泉に浸かっているはずなのに背筋が凍る様な気味の悪さを感じてしまう2人。

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