安寧の音を求め

心を癒す間も無く

 寧音は薄暗い部屋の中で膝を抱えてベットに座っている。

 何度も部屋のドアがノックされ名前を呼ばれるが無視している。


 何度も何度もアネットに謝る。自分がコルグイスの時にかばってもらった際に壊れた左腕。新調した左腕の不調がなければ瑠璃の助けは間に合っていたはず。そう思えば思うほど自責の念にかられる。


「ごめん……ごめんねアネット……」


 ベットのシーツに涙がこぼれ染み込んで広がっていく。

 泣いても何も解決しないのは分かっている。それでもただ泣くだけの自分が嫌になる。


「っ!?」


 胸に刺さるような痛みに思わず胸を押さえこむ。痛みは少し弱まるがじんわりと全体に広がる。

 痛みは息苦しさに変わり呼吸が上手く出来ない。必死に息を吸おうと荒い呼吸を必死でする。今の姿が水槽の金魚が必死に酸素を求め水面で口をパクパクしてるみたいで無様なんだろうだなと妙に冷静な自分がいて笑えてしまう。


 胸を押さえたままベットに顔を埋めもがく寧音はゆっくりと意識を手放していく。



 ***



 瑠璃が泣いている。


 行かなきゃ。


 ドアノブに手をかけると開いてたのでゆっくり音をたてずにドアを開くとベットに伏せている瑠璃がいる。肩が小刻みに揺れ声を殺して泣いているのが分かる。

 隣に座ると頭を優しく撫でると瑠璃が私を泣いて腫れた目で見てくる。

 しばらく撫でていると瑠璃が手を伸ばしてくるのでその手を握ると互いの唇を重ねる。

 そこからはお互いを求め合い、匂いと味を感じる。

 最後に優しく髪を撫でられキスをしてくれる瑠璃の背中に手を回すと答えてくれるように私の背中に手を回して強く抱き締めてくれる。


 ──嬉しい……けど


 ──最後まで「好き」や「愛してる」なんて言葉は聞けなかった。


 ──でもいい。アネットの変わりになれなくてもほんの一瞬でも私だけを見てくれるのなら。


 ──いつか、いつの日か一瞬じゃなくてずっと見てくれる日がくるかもしれないから。


 私は瑠璃の温もりを手離したくなくて必死に回した手で引き寄せる。




「!?」



 寧音は飛び起きる。慌てて自分の体を見て触る。


「なんて夢を……」


 さっきまでアネットへの自責の念でいっぱいだった筈なのに調子が悪くなって気を失えば自分の願望を夢見る。

 最低だと思う裏では夢で残念だったという気持ちが湧いてくる。

 妙に艶かしい夢に自分頭を抱えつつ体に残る感触を思い出してしまう。

 胸の鼓動が異常に速く体が火照っている。


 自分の汗ばんだ体を洗い流し冷ますためにシャワーを浴びる寧音は何度も自分の体を見る。特になんの変わりもないし跡もない。

 ため息をつくがそれが、安心したものなのか残念な気持ちからきたものなのか自分でも分からない。


「はあぁぁぁぁ」


 そんな自分に対して人生で1番大きなため息をつき体を拭いて着替える。

 自分の神経の図太さというか無神経さに呆れつつ冷蔵庫の中を覗くと空であることに気が付く。


 喉の乾きには勝てず上着を羽織るとドアを開けラウンジに向かう。


「あっ!?」

「あ!」


 寧音が部屋を出てすぐに瑠璃に出会ってしまう。


「部屋から出てこないって聞いたから様子を見に来たんだけどな」

「う、うんありがとう。瑠璃は大丈夫?」


 瑠璃は力なく首を横に振る。


 寧音は瑠璃が大丈夫と言わなかった事で少し安心する。


「今から飯食いに行くけどいかないか?」

「あ、えっと」

「俺も別にお腹なんか空いてない。翠が飯を食えと頻繁に内線で連絡してくるんだ。

 俺が言われた言葉だけど飯を食わないと戦えないってよ」


 瑠璃の言葉に戸惑い色々なことを考えつつも寧音は頷く。


「じゃあ着替えて来てくれ。目のやり場に困る」

「!?」


 ベビドールに上着を羽織っただけの自分の姿を見て前を押さえ、そそくさと部屋に着替えに戻る。



 ***



 2人で食堂へ行きなんとなくランチを頼んでみたものの喉を通らないのでお互いボソボソと会話をするにとどまる。


 寧音は瑠璃を見ると夢を思い出して自分の体が日照るのを感じ直視出来ていない。

 目をそらしながら話す寧音を見て瑠璃が心配そうに訪ねる。


「大丈夫か? 気分悪いなら帰ろう。顔も赤いし」

「だ、大丈夫。ちょっと食欲ないだけ。ほら、瑠璃もあんまり食べてないじゃん」


 顔を赤くして必死に否定する寧音の心の中にアネットとどこまで関係があったのか聞きたい、アネットのいない今はチャンスじゃないのか……そんな気持ちがあることに気付いてしまう。

 そんな自分が嫌でうつ向く寧音に申し訳なさそうに謝る瑠璃が手を握ると食堂から連れ出される。


 瑠璃の背中を見ながら歩いてる途中、突然歩みを止めた瑠璃が振り向くとちょっと躊躇した感じをみせ口を開く。


「寧音……お前さ自分の事どこまで知ってる?」


 突然の質問に硬直してしまう寧音だが意味が分かった瞬間、瑠璃が開こうとする口をとっさに押さえ壁際に押し付けると首を必死に横に振る。

 瑠璃が寧音の手を外そうと握っていた手を離すと静かに頷く。

 瑠璃が落ち着いたのを見て寧音がゆっくり手を離すと瑠璃に抱き寄せられ声の大きさを下げずに告げられる。


「言い方が悪かったな。お前の事が知りたい! だから俺の部屋に来てほしい」


 遠回しに人目につかないところで大事な話があるから来て欲しいと言っているのは分かる。分かるが全身が熱くなる気持ちの高ぶりを感じてしまう寧音は必死に頷く。


 抱き締め合う2人の頭上で緊急警報が鳴り響きはじめる。


〈緊急! 緊急! モドラー出現! 卵ではない。モドラーが出現! 至急各員管制室に集まって下さい!〉


「モドラー自体が出てきたってことか? まあいい、そいつを倒して続きだ!」

「つ、つつ続き!?」


 瑠璃に手をひかれ管制室へと急ぐ。




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