穂花は歌と共に

 カブトガーの体は固く自衛隊の攻撃を寄せ付けない。アーマーモドラと同等の固さを誇りそうだが大きく違うのは俊敏であることとカブトムシのような大きな角で下からすくい上げ弾き飛ばすような強力な攻撃手段を持っている事だろう。


 そして今このモドラーの歴史を大きく変える事が起こる。

 背中から薄い羽を出し羽ばたき始め飛んだのだ。巨体ゆえ高くは飛べないようだがしっかりと羽ばたき瑠璃達のいる方へ向かって飛び始める。

 これは今後の作戦に影響を与えかねない出来事である。海を渡り下田から天城山の間で討伐のパターンを崩す可能性が出てきたということだ。


 そんなカブトガーが海上すれすれを飛んでいく。今までは海中を進んでいた為、攻撃はほぼ不可能だったが、今回に限っては戦闘機が追尾し攻撃を仕掛けていく。

 海上に少量ではあるが緑色の血を落としながら飛んでいくカブトガーの姿が瑠璃達にも確認出来る距離まで近づく。


 今回の配置はファンキーグマの腕が応急処置的に直してあるので元に戻っている。そして穂花のラダルグマは最後の調整があるので遅れて登場することになっている。


「ホノカなんかくる前に倒してやるデス!」


 気合いの入るアネットに対し寧音はカブトガーの姿に怯えていた。


「虫……しかも大きい。ううぅ、カブトムシって茶色いしカサカサ動きそうだしゴキブリと対して変わんないじゃんよ~」

「寧音は虫、嫌いなのか?」

「うん、ムリ。足いっぱいあるしさ気持ち悪いじゃん」


 本当に気持ち悪そうに眉間にシワを寄せ腕を組みブルブル震える。


「ルリ、実はワタシも嫌いなのデス。守ってくださいネ」

「ああ、任せてくれ」

「むうううう、なんか違うデス! 前と違って心がこもってないデス!! 帰ったらじっくり話を聞かせてもらうデスヨ」


 怒るアネットの通信が切られる。少しホッとしながら後ろめたい気持ちを抱えて照準を合わせる。操縦桿にある引き金を引くとスナイパーライフルから弾丸が放たれる。


 弾丸は海上を飛ぶカブトガーに当たるが固く丸みを帯びた体に反らされ僅かな傷を入れただけで明後日の方向へ飛んでいく。


「固さに加え力を反らす形状か。面倒臭いな」


 愚痴る瑠璃を嘲笑うかのように砂浜に上陸するとファイターグマと対峙する。


「うぅぅぅ、やっぱり気持ち悪いぃぃ」


 ファイターグマの連撃を4本の足で受けながら攻撃を仕掛けてくる。

 カブトガーの4本の足は虫と同じく細く威力はないが手が2本しかないファイターグマより攻撃の手数が多く徐々にファイターグマが押され始める。


「シズズ! 虫の足はトゲがあるデス!」

「え?」


 砂浜まで出てきたアネットが叫ぶ。虫嫌いが災いした寧音のファイターグマは腕の間接部にカブトガーの足のトゲが引っかけられ引っ張られるとよろけてしまう。

 その隙を逃さずカブトガーが体勢を低くし角をファイターグマの腹に差し込むとバネが弾けるようにカチ上げる。

 高く飛んだファイターグマが大量の砂を巻き上げ砂浜に落下する。


 この間にもアネットと瑠璃の銃弾は飛び交っているのだが、カブトガーには効果があまりないようで平然と行動している。


「寧音! 大丈夫か?」

「うぅ、うん大丈夫。ちょっと頭打ったぐらい。へへへへ」


 瑠璃の通信に嬉しそうに笑って答える寧音。そんな隙も逃さずカブトガーが身を屈め突進してくる。

 ファンキーグマがマシンガンで撃ち続けるが弾丸は弾かれ突進を止めることが出来ず足からすくわれ引っくり返る。


「アネット! 俺も前に出る」


 瑠璃がスナイパーグマを立たせたそのとき地下の扉が開く。瑠璃達がいつも出撃する場所と違う扉の中から真っ赤なMONO KUMAが歩いて出てくる。そして歌が聴こえてくる。

 美しく清んだ声から流れるメロディーは3人の通信を介して操縦席に響き渡る。


「真っ赤な、まあっかな~ くまさんわーー なーーんであっかいのでしょ~ぉーー そーーれは~ ねえーー」

「なんデスこの下手くそな歌は」

「あ、新たな敵の攻撃!?」


 音の外れた歌と共に現れる赤いMOFU KUMA。その特徴は背中に大きな丸い円盤を背負っていることと胸や肩足に鎧のようなプレートが装備されていること。

 目はタレ目で頭の後ろにはリボンがついている。


「なんででしょ~ はい、アネットちゃん」

「え!? なんデス、答えるのデスカ。えっとイチゴの食べ過ぎデス」

「不正解で~す はい寧音ちゃん」

「うわっとちょっと待って……返り血を浴びたから?」

「せいか~い」


 赤いMOFU KUMAことラダルグマはファイターグマに向けて何かを投げる。


「正解の寧音ちゃんには~ 景品がありま~す」


 ファイターグマが拾うそれはコルグイスの爪がついたナックル。右の拳に取り付けると鉤爪のようになる。


「おお! これならなんかいけそう」


 ファイターグマが振るう鉤爪がカブトガーの腹部に刺さる。そのまま振り抜き砂浜にカブトガーを転がす。


「さて~ 私もやりましょう~」


 ラダルグマが手に持っているのはコルグイスのもう1本の爪に棒を取り付け長さを延長したもの。いわゆるバールのような物である。

 L字型に折れている爪がバール感を増させている。


 ラダルグマがカブトガーの前羽根の隙間にバールを差し込むとテコの原理を生かしこじ開ける。


「瑠璃くん お願いしますね~」


 前羽根がこじ開けられ内側が見えた場所に弾丸が次々と撃ち込まれていく。

 苦しむカブトガーを逃がさまいとラダルグマがバールの先端を食い込ませ背中を足で踏む。


「寧音ちゃんも刺して反対方向に引っ張って~」


 ファイターグマが前羽根の付け根に鉤爪を刺すとラダルグマと互いに引っ張り合う。羽根の付け根がちぎれ緑色の血飛沫が吹き上がるとファンキーグマがマシンガンを撃ちまくる。

 ラダルグマはカブトガーの間接にバールを刺すと腕を綺麗に解体していく。

 カブトガーがトゲのある足をラダルグマに引っ掻けようとするが体に装着してあるプレートには傷1つつかない。


「ざんね~ん アーマーモドラーのプレートは固いですからね~」


 ラダルグマが纏うプレートはアーマーモドラーから剥ぎ取り試着し、色を赤く塗装したものである。


 ラダルがカブトガーの胴と頭の接続部にバールを突き刺し釘抜きのようにして内側から引き抜くと外角に少しヒビが入る。


「コルグイスの爪の方が~ 固いですね~」


 ヒビが入った場所を何度もバールで叩きつけヒビを広げていく。


 ファイターグマとラダルグマがカブトガーを徐々に解体していきそこに出来た隙間をファンキーグマとスナイパーグマが銃弾を撃ち込む。


 4匹のクマが1匹の大きな虫を惨殺していく様に三滝を始めとした責任者達は頭を抱える。


 前羽根は剥がれ、中の薄羽根も千切られ、4本の足はもがれ、外角のあちこちにヒビが入りボロボロのカブトガーの後ろ足をラダルグマがバールで突き刺しすくい転がすとファイターグマが背中に乗り角を掴むと重心を後ろに傾け引きちぎり始める。


 首の隙間にゴルフのスイングのように何度もバールを打ち付け胴と頭の接続を切り離していく。

 遂に大量の緑色の血を吹き上げカブトガーの首が引きちぎられる。

 正面にいたラダルグマは返り血で緑色に染まる。

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