密会は4人で

「この間の戦い方また怒られたねえ」

「デスネェ~」


 いつもの露天風呂でアネットと寧音がお湯に浸かりのんびりしている。


「ねえアネット瑠璃の事だけど。最近おかしくない?」

「デスネ~ あの日ホノカに出し抜かれてなにかあったはずなのデス。2人に聞いてもだんまりなのデス」


 憤慨するアネットの後ろから声がかけられる。


「知りたいですかぁ~ どうしようかな~」

「ホノカ! なんでここに」

「なんで~て 今日からこの~ 生活棟に住むからですよ~」


 相変わらずのんびりした口調の穂花はお風呂場に繋がるドアを開けると手招きをする。


「ほら~ 翠ちゃんも~ おいで~」


 穂花に呼ばれてオドオドしながら翠が現れる。


「あの、私ここに住んでないんですけど良いんですか」

「関係ないよ~ それより4人でお話しよ~」


 穂花に連れられ翠も露天風呂に恐る恐る浸かる。最初は3人に遠慮気味な感じだったが、緊張が少しとけたのかお風呂を楽しむ余裕が出てきたみたいで周囲を見渡し感動しているようだ。


「うわ~広いですね。私の住むところなんて個室の小さなお風呂なんで羨ましいです」


 翠が嬉しそうに露天風呂の湯を掬ったりしている。そんな翠に対し機嫌の悪そうなアネットは穂花にキツメの口調で問いかける。


「で、何しに来たデス」

「なにって~ お風呂入りにきたんですよ~」


 のんびり口調の穂花にイライラ気味のアネットに代わり寧音が聞く。


「翠ちゃんまで集めたってことは何か言いたいことがあるんじゃないかってこと」


 穂花が右手を口の前に当て悩み、手をポンと打つ。


「そうでした~ アネットちゃんは~ 指輪持ってますかぁ?」

「は? 何を言ってるデス?」

「う~ん じゃあ~ 瑠璃くんと私たちの約束は覚えてますか~?」


「?」が飛び交う露天風呂。


「だめみたいですね~ じゃあこのお話はおしま~い」

「はあ、なんデス。気になる言い方ばっかしやがって。そういえばこの間ルリと何があったデス」

「ああ! それ私も気になる」

「わ、私も!」


 さっきの話より食い付きのいい3人に微笑みながら穂花は答える。


「ひみつ~」

「さっきから気になる言い方ばっかりじゃん!」

「そ、そうです、穂花さんは何を知っているのです」


 露天風呂で騒ぐ3人に対しても相変わらずニコニコしたままの穂花に対しアネットはイライラしているのが目に見えて分かる。


「お~んせんわーー ひろくてえーー きもちいいいなぁぁ~」

「ああ、歌うなデス!」

「生で聞くとまた破壊力が違うね」


 耳を塞ぐアネットと寧音に対し翠は既にフラフラしている。


「まずいデス。スイがやられたです」

「うーーみより~ ひろーーい おんせんがあーー」

「歌詞も何気に酷い! 翠ちゃん気をしっかり!」


 フラフラする翠を寧音が外へ連れ出していく。その後ろ姿をアネットが呆れた顔で見送る。

 背後から掛けられる言葉、それは聞いたことのある声でありながら別の口調。違和感の固まり。


「アネットちゃん、瑠璃くんは私がもらうね。みんなで瑠璃くんの元に帰れば良いんだろうけどそこは1人の女としてそれは許せないよね」

「はぁ! 何を」


 アネットが振り返るといつもの雰囲気より鋭い印象を受ける穂花がそこにはいた。


「昔幼い頃5人で瑠璃くんを取り合ったの覚えてる?

 瑠璃くんは誰にでも優しくて人気があった。本を読んで誰とも話さない子や、瞳と髪の色を気にして話せない子、おどおどして自信のない子。

 気が合ってよく遊んでた子に負けん気が強くみんなと馴染めていない子までみんなに優しかった」


 目の前の穂花の話に理解が追い付かないアネットは時々唾を飲み込み話を聞き続けるだけしか出来なかった。


「初めは1つ。4つに割って3つを配る。そのうち1つが割れて2つに分ける──」

「ホノカ、お前何を知ってるデス」


 睨むアネットに対して穂花は元のふんわりした雰囲気に戻るとニコニコ微笑む。


「覚えてるって~ 言った方が~ 正しいかな~」

「何を言ってるか分からないから聞いてるんデス!」


 怒鳴るアネットに動じることもなくニコニコしたままの穂花。


「今は~ わたしの方が~ 有利だから~ あんまり教えたくないけど~ 瑠璃くんを好きだって気持ちと~ もう1つの気持ちに気付いた方がいいよ~」


 そこまで言うと露天風呂から上がり出ていこうとする。


「待てって言ってるデス! 意味の分かる説明をするデス!」


 アネットが出ていこうとする穂花の背中に向かって叫ぶが一瞬、横目で見ただけで去っていく。


「なんなんデスあいつは。もう1つの気持ち? 何ですかそれは……。

 それにあいつ猫かぶってやがったデスネ」


 湯船に1人浮かぶアネットが忌々しげな表情で穂花の去った後を睨む。

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