熱線怪獣 カルドン

 卵が現れ孵化が始まるまで3日だった。

 生まれてきたモドラーの外見は4足歩行の恐竜そのものだった。

 ただ明らかに違うのが背骨を中心にして左右の背中に大きく長いコブがあること。そしてそのコブの前方には穴が空いている。

 尻尾は体に似合わず細く長い筒状になっている。


 自衛隊の攻撃が始まると今回のモドラーには多少ダメージが通るようで緑色の血が流れる。

 モドラーが長い尻尾で地上に配備されていた戦車を凪ぎ払い破壊してしまう。そんな様子を見て瑠璃が呟く。


「なんか自衛隊が攻撃してくれるの申し訳ないな。1人ぐらいあっちで戦った方が良いのかな」


 その呟きに反応したのだろう諸星から通信がはいる。


〈あの攻撃でモドラーを討伐出来るとは誰もが思っていない。あれは討伐するのでなく、少しでもダメージを与え、敵の行動パターンを引き出す。それらをお前ら3人が有利に戦える様にやっているのだ。

 そしてそれをあそこにいる皆が分かっててやっている。それだけは知ってて欲しい〉


「そうなんだ……」


 瑠璃が画面を見るとモドラーの口が赤く光始める。今までも熱線を吐くモドラーはいたが光りの度合いがかなり大きい。

 そして放たれる巨大な熱線。しかもそれを凪ぎ払う様に頭を横に動かし周囲を扇状に焼き付くす。

 その間に背中の両コブの穴が赤い光を放ち始めると両コブからも熱線を放つ。

 3本の熱線を放ち海に向かって行くモドラーを瑠璃はいつも以上に真剣に見ていた。



 ***



 今回のモドラーはあまり泳ぎが得意ではないのか海を進むスピードが遅く島から5時間かかる予想だった。

 操縦で思い思いの時間を過ごす3人に通信が入る。


〈毎度お馴染みのモドラーの名前発表の時間だ。イタリア語で熱いを意味する『カルド』を怪獣っぽくして『カルドン』だそうだ〉


 この名前を決めるために偉い人たちが真面目に話し合っているかと思うと笑いが出てくる。


「アネット今回もいけそうか?」

「任せてくだサイ! 射撃の練習しまくりましたカラネ!」

「だな。寧音は大丈夫か?」

「うん、頑張るよ」


 3日前の事以来アネットとは普通に話しをするが、瑠璃とはちょっと距離を置く感じの寧音にどうして良いか分からないのが実情である。


 瑠璃は自分のスナイパーグマの動作をチェックする。

 今回もファンキーグマの左腕が無いため後方にまわっているにでスナイパーグマが中間を担う。

 因みに穂花は参戦しておらずなにやら補強中で今回は出撃しないとか。

 次の出撃を楽しみにと言われたが、次もモドラーがくる保証なんて無いのになんて思う瑠璃に通信が入る。


〈後1時間程で着くそうです。瑠璃さん頑張ってください! 私応援してます。あ、後、帰ったらで良いんで──〉

〈こら! だからログが残るんだって〉

〈ごめんなさい~〉


 騒がしい通信が切れる。そんな通信に苦笑しつつカルドンを迎える。



 ***



 そしてカルドンは海面から背中を出した瞬間左右の砲台から熱線を撃ってくる。

 それは先ほど見た一本の熱線ではなくバラバラに途切れた棒の様な熱線をばらまいてくる。

 それらが建物に当たり火災を起こす。燃え盛る中ファイターとスナイパーが走り間合いを詰めようするが、ばらまかれる熱線と凪ぎ払われる熱線に苦戦し近付けない。


 そんな中少しずつダメージを与えるアネットの狙撃。皮膚が硬く最初に当たった弾が潰れ貫通までには至っていないがカルドンには鬱陶しいらしく当たると熱線が弱まったり途切れたりする。

 その隙に徐々にファイターグマとスナイパーグマが距離を詰める。


「当たる! 当たるデスヨ! 精密射撃はできませんガ、いけますヨ、コレ!」


 テンション高めのアネットに対しテンションの低い寧音がカルドンを捕らえ熱線を掻き分けながら一気に詰めるとカルドンを殴りつける。

 連続で顔面を殴り続けるファイターグマの操縦席には腕の耐久値が限界に近づいている警告が表示されるが構わず殴り続ける。


「やれる! 私はやれる! 2番目で終わらないんだ! 真瑚に負けてられないんだ。真瑚になったらダメ……」


 ダメ…………


 ダメ……


 なんで?


 弱い


 ──寧音ってさなんなの? トップの私とどれだけ離れてんの? よくそんなので志願したよね。辞めなよ、向いてないって。


「え?」


 ──トロイって言ってんの? 分かる? 分かんないからトロイんだよね


「真瑚ちゃん? どうしたの? いつもと違うよ」


 ──なに言ってんの。こっちが本当の私。お前昔からトロくて本ばっか読んで泣き虫でウザイんだよ…………?


 ──あれ? 昔? なんで?


「真瑚ちゃん? ねえ真瑚ちゃん?」


「?」


「あか……い……? かえ………た……」



 ──ね! おい! ああもう!


 ファイターグマが大きく吹き飛ぶ。操縦席に衝撃はさほどないが音と警告で我に帰る。


「あれ? 私」


 寧音がモニターを見るとスナイパーグマがカルドンの首を掴み頭を殴っている。殴ったり、爪で刺したりして緑色の血を頭から流し始める。

 時折アネットの銃弾が飛んできて体の方から血が吹き出している。

 そんな様子をただぼんやり眺めている寧音はカルドンの尻尾がおかしな動きをしているのに気付く。

 尻尾が別の生き物のように動きスナイパーグマの背中に尻尾の先を背中にあてる。尻尾の先にも穴が空いていて赤い光を放ち始める。


 寧音は無意識でスナイパーグマを突き飛ばしファイターグマの両手で尻尾を掴んで握りしめる。

 力の行き場を失ったエネルギーが尻尾の中で暴れているのか先端が膨れ裂けると熱線が噴き出す。カルドンがファイターグマに向かって熱線を吐こうと口を開けたところに左手を突っ込む。

 そのまま構わず熱線を吐くカルドンだがファイターグマの左手がその身を溶かしつつも熱線の力を一部押し戻す。

 それ自体のダメージは低いが尻尾の熱で溶けた右手を下顎、左手を上顎にかけ上下に引っ張り裂いていく。


 寧音の操縦席には両腕のダメージと引き裂く際にかかる両肘、両肩への負担が限界なのを知らせる警告が鳴り響いている。

 その警告通りファイターグマの肘と肩から煙と火が燻り始める。


 緑色の血飛沫を両頬から噴き上げながら下顎が皮一枚残し引き裂かれたカルドンは痛みで暴れファイターグマを引き離す。


 力を使いきったかのようにファイターグマがペタンとその場に座り込んでしまい、恨みをはらすべくカルドンが背中に熱線を集め突進してくる。


「くらえ!!」


 瑠璃の声が響き施設の鉄柱を引き抜いたスナイパーグマがカルドンの頭に向け振り下ろす。

 鈍い音が響きカルドンの頭が地面に叩きつけられる。そこから何度も何度も鉄柱を変形させながら叩きつける。


 カルドンの生体反応消滅が確認されるまで約20分の間鉄柱で殴り続けるスナイパーグマの姿を見守る人々は当初、誰しもが思い描いていた怪獣を倒すヒーロー像とかけ離れた光景に固唾を飲んでしまう。

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