4人目と赤いMOFU KUMA
給料日と共にやって来る
アネットは机の前に座り頭を抱えていた。
(この部屋も盗聴されている事を考えると迂闊に声に出せませんデス。どうやってルリに伝えたものかデス。
盗聴されていないトイレに連れ込むのは不自然デスし、かといって一緒にお風呂に……)
「ふわぁああ! な、何を考えたデスワタシは。そ、そこから先は……未知の領域……デス」
変なポーズで身構えるアネットの部屋の戸がノックされる。
慌ててドアを開けると瑠璃が立っている。
「おぉ!? ル、ルリ? なんデス。ルリから訪ねて来るなんて」
「あぁまあ言われてみれば初めてかな」
「と、とりあえず中に入りマスカ?」
瑠璃を中に案内しベットに座ってもらい冷蔵庫からお茶を出す。
「それでどうしたのデス?」
「いや別になんとなく」
「そ、そっそれはなんとなくワタシに会いに来たと言うことデス?」
「まあそうなるか。何してるかなって気になったら会いに来たというか顔を見たくなったというか」
………………
「なんか言えよ。言ってる俺が恥ずかしくなってきた。アネットお前そんな感じじゃなかったろ」
顔を真っ赤にして佇んでいるアネットを見て瑠璃も恥ずかしさから、ぶっきらぼうな話し方になる。
「だ、だってあれはそもそも一生懸命だったというかなんというかデスネ。こう意識するとダメというか」
「そんなものなのか? まあ可愛いから良いけどな」
両頬を押さえ悶絶しながらアネットが叫ぶ。
「ルルルル、ルリ!? な、なんてこと言うデス!! 変態デスカ? そんな恥ずかしいこと平気で言うとか正気を疑いマス!」
「いやいやいや、アネットの方が今までおかしいだろ! 『アタックデス~』とか言って抱きついて来てた奴がその反応はおかしいだろ。俺のが恥ずかしくなるわ」
──ピロン♪
2人がどうでもいい、言い合いをしていると同時に携帯端末の音がなる。
因みにこの携帯端末、外部との連絡は勿論、ネットにも繋がっておらず本部の方から一方的に通知が送られてくる迷惑なものである。
「お! そう言えば今日給料日じゃん♪ 明細きてるぞ!」
「おお本当デス。どれどれ」
「!?」
「なんじゃこれ!?」「うひゃーー!?」
2人同時に声をあげると顔を見合わせる。
「おい、この額! 間違えじゃないよな」
「た、多分この危険手当てってのがモドラー分なはずデス。その掛ける3デスからこの額は合ってるはずデス」
「1体60でその3倍で180だな」
「これはモドラーバシバシ来てもらって稼ぐしかないデス!!」
はしゃぐ2人の端末に表示されている200万オーバーの給料明細。
この額は10代の2人には大きな金額ではある。
因みに瑠璃達はこのモドラー討伐にあたって税金は免除されるので、まるっと貰える事になる。
「と言っても使う場所が無いんだよな」
「デスネぇ~」
「食堂で豪遊するか?」
「デザート2品くらいつけるデス!!」
意気揚々と部屋から出るがふと瑠璃が足を止める。
「あのさ、寧音も誘って良いかな?」
「モチロンそのつもりデスヨ。あぁでも瑠璃1人で行ってもらっていいデスカ?」
「どうして?」
「寧音はこの間の戦闘で瑠璃に怪我をさせたことを気にしてマス、それにワタシと2人で今いくのは逆効果といいマスカ……」
瑠璃は前髪をあげて右のおでこにあるガーゼを触ってみる。
「ちょっと頭打って血が出ただけなのにな」
「それでも気にするものデス。ワタシは食堂に向かってマスから連れて来てくだサイ」
「ああ分かった」
瑠璃はおでこを気にしながら寧音の部屋へ向かう。
***
「はあああ、やだなあ~どうしよう。会いたいけど会いたくないよぉぉぉ」
ベットの枕に顔を沈め唸るように呟く寧音のドアがノックされる。
「いませーーん!」
寧音が答えると激しくドアが叩かれる。
「返事があるのにいないわけねえだろ! 開けろよ」
「ふえっ! る、瑠璃?」
慌ててベットから飛び起きドアを開ける。
「いるじゃないかあああっておまっ、その格好!?」
瑠璃に言われ寧音が自分の格好を見る。
透けた青いベビードール。下着はほぼ丸見えである。
「うわわわわわわわ!?」
寧音が一歩踏み込み一瞬で間合いを詰め瑠璃の腹にめり込む程の拳を叩き込む。
「ぐふわぁ」
「あっ……」
お腹を押さえ屈み込む瑠璃の前でおろおろする寧音。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ!」
「い、いやいい。それよりふ、服を着てくれ……直視出来ない」
「ふわわわわわ!?」
寧音が瑠璃の頭をバシバシ叩く。
「痛い、痛いぜ寧音……」
「ひやあああ、ごめん! 痛い? 痛いんだよね」
寧音が瑠璃を抱き寄せて頭を撫でる。
寧音の胸に顔を埋める瑠璃は腹部の痛みに苦しみながら思う。
(これで胸に埋められてるって言ったらまた殴られるんだろ。なんだよこの無限ループ。もういい、このまま黙ってよう)
「きゃああああああ!?」
現状に気付いた寧音が本日2度目のボディーブローを決める。
(んだよ。結局殴られるんじゃん)
***
「本当にごめんなさい」
「ああ、かなり効いた」
着替えた寧音が深々と頭を下げて謝る。
「良いって。それより給料明細見たか?」
「明細?」
寧音が自分の端末を見る。
「ふへっ!?」
変な声を出す寧音に瑠璃が笑いながら手を差し伸べる。
「なっ、驚いただろう。今から食堂で3人で豪遊しないか? どうせしばらく使う時ないんだろうし行こうぜ!」
「でも……」
「なんか俺の怪我を気にしてるとか聞いたけどさっきのパンチの方がよっぽど痛いからな! 悪いと思ってんなら来いよ。奢ってやる」
瑠璃に無理矢理引っ張られ食堂へと連れて行かれる寧音。
食堂の前にある休憩スペースにいたアネットが近づいて来ると瑠璃と寧音を交互に見る。
「連れてきて欲しいとは言いましたガ、手を繋いで仲良く来るのは如何なものデスカ」
不満そうなアネットを見て寧音も遠慮がちながらも不満を表す。
「アネット、瑠璃と付き合ってるの?」
「まだ正式ではないデスがその日は近いデス!!」
「正式じゃないってことはまだ付き合ってないんだよね!」
「ん? その言い方ちょっと気になりマスネ!」
「私の気持ち知ってるよね!」
食堂の前で言い合いを始める2人に瑠璃は戸惑いながらも間に割って入る。
「まあ落ち着けよ」
「むっ! 瑠璃はアネットのことが好きなの?」
「う、うん……好きだ」
瑠璃の答えに目に涙を溜め寧音が瑠璃を睨む。
「それって先にアネットが告白したから? 私が先だったら好きな人、私になれたの!」
「いやそう言う訳じゃない」
「ちょっとシズネ! いい加減にするデス!!」
一触即発の状態になりそうになったときのんびりした声が割って入る。
「アネットちゃんも~ 寧音ちゃんも~ み~んな 仲良くしようよ~」
声の主は瑠璃の前に立つと瑠璃の首に手を回し頭を下げさせ自身は爪先立ちする。
「なにしやがるデス!!」
「なああ!!」
アネットと寧音が同時に瑠璃と声の主の間に割り込んで行動を阻止する。
「お前! 今なにしようとしたデスカ!」
「ん~? キスですよ~」
声の主は悪びる様子もなく残念そうに自分の唇を押さえるとニコニコと微笑む。
身長150の小柄で真っ黒な髪を腰まで伸ばし黒い瞳。間の延びた話し方に加えタレ目な感じがよりノンビリした印象を与える。
その子が再び瑠璃に近づこうとするのをアネットと寧音が進路を妨害するが隙間から顔を覗かせ嬉しそうに瑠璃に挨拶をする。
「お久しぶり~ 瑠璃くん元気そうで嬉しいなあ」
瑠璃は頭を押さえため息をつく。
「穂花いつ来た?」
「さっきですよ~」
相変わらずマイペースに答える穂花に女子2人が何か文句を言おうとしたとき緊急放送がかかる。
〈モドラーの卵出現! 至急関係者は管制室に集まってください。繰り返します──〉
「あららら~ ざんね~ん。また後でねえ~」
穂花は3人にお辞儀をすると何事もなかったかのように去っていく。
「あいつなんなんデス! 行きますヨ、シズズ」
「ほんと頭くる! 行こうアネット」
2人が怒りをあらわに管制室へ向かうのを見ながら瑠璃は無言で思う。
(女ってよく分からん)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます