進化するモドラー

〈青ヶ島噴火! モドラーの卵出現を確認!〉


 朝早く最悪な警報と共に起こされる瑠璃達は管制室に集まる。

 再び見る火口から生まれるモドラーの卵を見る事になる。


「これは一体どういうことなんです? モドラーは1年間隔で現れるものじゃないんですか? まだ2週間ですよ」


 瑠璃が諸星に尋ねると少し間があいて答えが返ってくる。


「俺にも分からん。そもそも1年間隔というのもたまたま今までがそうであっただけで、誰が決めた訳でもないからな」

「モドラーの卵、孵化の兆候あり。1週間以内に孵化の可能性があると現地から報告が上がってきています」


 港の緊迫した声が皆の不安をあおる。


「とにかくモドラーは再び出現したのは事実。ならばやることは決まっている。違うかね?」


 三滝に正論を言われ反論出来ない瑠璃達は頷くしかなかった。



 ***



 部屋のテレビでぼんやりニュースを見る。どの局もモドラー出現の話題を特集している。

 モドラー研究会の人が生態を解説したり、軍に詳しい人が前回の戦いの問題点を指摘している。

 参考になればと思って聞いていたが、3体同時に浜辺に並んで迎え射つとか、青ヶ島に基地作って島で討伐すれば良いといったものだった。


「3体同時にってやってるっての。みんなが並んで待つってなんだよ。青ヶ島で戦って海に逃げられたらMOFU KUMA泳げないし、天城山バックに戦うのが1番効率的なんだって」


 テレビに突っ込みを入れながら見ているとドアがノックされる。


「ああ、今開けるから飛び込んで来ないでくれ」


 訪ねてくると言えば寧音とアネットしかいないので、いつも通り飛び込んでくる2人を先に牽制しながらドアを開ける。


「えとっ、あの飛び込む?」


 瑠璃がドアを開けると翠が不思議そうな顔で立っていた。


「あっいや、なんでもない。でどうした?」


 焦って誤魔化す瑠璃がおかしかったのか翠がクスリと笑う。


「あ、はい、特に用事って訳ではないんですけどお暇をもらったんで瑠璃さんの所に来てたんですけど。お忙しいですか?」

「いや、待機命令が出てるだけで今は暇だけど」


 翠がモジモジしながら瑠璃をチラチラ見ていたがやがて意を決したのか、拳を握りしめる。

 そんなコロコロ表情の変わる翠を見て面白い子だと思いながら瑠璃は翠の言葉を待っていた。


「あ、あの建物の中を案内してもらえませんか? それでその、お昼も一緒にどうかなって?」

「ん? 案内って港さんがしてくれたんじゃなかったっけ?」

「あの、いえ、そうなんですけど瑠璃さん視点でと言うか、その……」


 下を向いて言葉に詰まる翠。


「良いよ。一緒に行こうか俺もあんまり詳しい訳ではないけどね」

「は、はい!」


 一瞬で笑顔の花を咲かせる翠の表情の変化に少し胸のトキメキを感じながら支度をし廊下に出る。


「ルリリ一緒にご飯ってえ! お前は確かスイ! 何ですか? ワタシのルリリに何をするつもりデスカ!!」


 タイミングよく鉢合わせるアネットが翠に噛みつかんばかりの勢いで捲し立てるのを翠が怯え瑠璃の後ろに隠れる。


「なにサラッとお前の物になってんだよ。翠を案内するだけだって」

「ぐぬぬぬ、ならワタシも」

「いい、俺が連れていくよ。さ、行こうか」


 翠の手を引っ張る瑠璃を見て悔しそうなアネット。すれ違い様に翠は小さく会釈して去っていく。


「むむむ、あの女、油断なりませんネ」



 ***



「ありがとうございました。やっぱり色々細かいことが知れて良かったです」

「そうか? 役に立てたなら嬉しいけど」

「ええ、2階と3階で微妙にジュースのラインナップが違うとか、4階の窓から見る夕日が綺麗だとか、ここに住んでいる人しか分からないじゃないですか」


 施設の食堂でお昼を食べる瑠璃に翠は若干興奮ぎみに話す。


「あんまり役に立たない情報だけどな」

「そ、そんなことありません。私の役には立っています!」


 身を乗り出して主張する翠に圧倒されつつも、必死に肯定してくれることを嬉しく思う。


「ところであの~、あちらの御二人は何をされているのでしょうか?」


 翠が目で訴える方向には少し離れたテーブルでサングラスと帽子、マスクをつけ変装中の寧音とアネットがこちらの様子を伺っている。


「気になるだろうけど気にするな。それが優しさってもんだ」

「は、はい」


 翠はチラチラ寧音達の方を気にしながらも瑠璃に視線を戻す。


「寧音さんとアネットさんは瑠璃さんの事が好きなんですね。それで、その、瑠璃さんはどうなんですか?」


 突然の話題に盛大にむせる瑠璃と聞き耳をたてていた寧音とアネットが身を乗り出す。


「いや別にどうってこともないと言うか」

「じゃ、じゃあ他に瑠璃さんを好きだって人が現れたらど、どうします?」


 立ち上がり身を更に乗り出す翠の圧に押され体を反らしてしまう。


「どうってそれはその時にちゃんと答えるかな」


 その答えにアネットがかなり不満な顔をしているのは変装していても伝わってくるが瑠璃は気付いていない。


「そ、それはまだ他の人が入る余地はあるってことですね」


 少し嬉しそうな表情を見せる翠を見て未だ質問の真相をよく分かっていない瑠璃はかなり鈍いと言えるだろう。

 翠が真剣な顔で瑠璃を見る。


「あ、あの瑠璃さん。寧音さんとアネットさんはあんな感じに明るく瑠璃さんにアタックしてますけど、本当に好きなんだと思います。だ、だからその答えてあげて下さい。どんな形でも」


 その後翠が小さく「それで私も……」と言う。


「うん、ありがとう」


 日頃の寧音とアネットを思い出しながら答える瑠璃に翠の声は届いていなかった。


「あの子いい奴なんじゃない?」

「かも知れませんネ」


 寧音とアネットは翠の事を実は良い奴じゃないかと2人の中で株を上げていた。



 ***



 瑠璃はベットに転がり物思いにふける。翠に言われたことを思い出す。


────


「好きだという気持ちに答えてあげて下さい。どんな形でも」


 いつからだろう? 寧音とアネットが瑠璃の側にいて今みたいな関係になったのは。

 候補生として集められ訓練と修学の日々でアネットと会ったのは2回だけ。その時少し話したけど今みたいな感じではなかった。

 寧音と会ったのは最後にMOFU KUMAの操縦者に選ばれたときだったからその後か。

 自分で言うのもなんだが16歳という多感な時期にあんなに性的にアピールされるのはどう反応していいか困る。嬉しいけど。

 昔はあんなんじゃなかったのにな。アネットは恥ずかしがり屋でよく物陰に隠れていた。寧音は大人しくよく本を読む子だった。真瑚はよく一緒にままごとをしたっけ。翠は今とあんまり変わらないか。穂花は気が強く負けず嫌いだったな。

                   ────


〈モドラーの卵が孵化を開始!! 総員至急管制官へ集合してください!! 繰り返します──〉


 港の緊迫した放送で我に帰った瑠璃はベットから跳ね起き管制室へと走る。



 ***



 管制室のモニターには卵にヒビが入り粉々に砕けると中から赤い目のモドラーが姿を表す。


「指令! あれを」


 オペレーターの1人がモニターのモドラーを拡大して三滝にモドラーを見せる。


「これは……鎧なのか?」

「はい……現地から哺乳類のサイの様な分厚い皮膚に覆われ鎧の様だと報告があがってきています。鼻の上部には角が確認出来るそうです」


 瑠璃の目に映るモドラーは銀色の鎧を着ているように見えた。そしてそれはMOFU KUMAの攻撃を防いでやるという強い意思を感じるのだった。

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