御披露目会②

〈只今より対モドラー戦を想定した模擬戦を行います。実弾は仕様致しませんが万が一を考慮しまして会場にはもう1枚防弾壁を展開させて頂きます。

 可視化により中の様子はご覧になれますのでお席を移動されなくても問題御座いません。

 また中央の巨大スクリーンに各地点に設置されたカメラからの画像を映していますのでそちらもご参考にして下さい〉


 案内の放送流れると会場の端の壁が大きく開き始める。

 銀色の鉄が剥き出しのボディが目を引くワニの様なロボットが巨大なトレーラーに載せられ登場する。


〈こちらはモドラーを模して製作されましたメカモドラーです。

 全長25メートル、これは現在確認されている30メートル級より小さくなりますが、代わりにスピードを上げており今後のモドラー進化の可能性を見越した設計となっております。尚、熱線の代わりに火炎放射が可能となっていまして──〉


 長い説明の間にメカモドラーはクレーンで降ろされ作業員達によって必要なパーツが取り付けられ組み立てられていく。



 ***



「さて上手に出来ますかなぁ」


 寧音の呟きにシュンと音がして右側の空間にモニターが現れるとアネットの顔が映し出される。


「楽勝デスがな。あのメカモドラーちゃんをぼこぼこにしてやりまショ。ねえ~ルリリ」

「集中してんだから話しかけんなよ」


 モニターに瑠璃の顔は写し出されず代わりに『Soundonly音声のみ』の文字が表示されている。


「ルリリ、顔を見せないなんて何してるデスカ? やましいことしてるんデス? 密閉空間でゴソゴソと」

「だぁ~!! 変な誤解招く様な事言うなよ!」

「変な誤解? ワタシはさっきのお菓子を持ち込んで食べてるんじゃナイデスカ? って聞いたのデス。ルリリ~何想像して言ったデスカ? 是非聞きたいデスな~」


 ニヤニヤとアネットは楽しそうに笑う。音声だけでも焦っているのが分かる瑠璃に寧音がいつもと違いしおらしく話しかける。


「瑠璃」

「な、なんだよ」

「私で良ければそのさ……瑠璃と」

「は!? お前なに、なにを」

「一緒にお菓子食べるよ」


 ピッと音がして通信が繋がると聞きなれた声が響く。


「お前ら管制室に今の会話丸聞こえだからな! ちょっとは緊張感を持って挑め!」


「はーーい」

「了解デス!」

「理不尽だぁ」


 諸星に怒られ3人が操縦桿を握る。


〈大変な長らくお待たせいたしました。メカモドラーの準備が出来ましたのでこれより模擬戦を開始致します〉


 アナウンスが流れるとメカモドラーの目に赤い光が灯ると「準備完了」の文字がMOFU KUMAのモニターに表示される。


〈それでは模擬戦を開始致します〉


 メカモドラーが2足歩行状態になり徐々に加速しながら移動し最終的に走り始める。肩を付きだしタックルのような格好をする。


「瑠璃! 援護は任せた、アネットはとどめね!」

「アイサ!」

「おう!」


 3人が返事すると寧音のファイターグマがメカモドラーに向かって正面から突っ込んでいく。


 メカモドラーとファイターグマのお互い手が届きそうな距離になったとき、メカモドラーの両足にペイント弾がヒットする。

 ペイント弾と言えども当たればそれなりの衝撃があるのでメカモドラーがバランスを崩す。


 ファイターグマがその首を掴んで飛び上がりクルリと回り背中に乗るとメカモドラーの両肩に足をかけ両手はワニのような口を下顎から引っ張る。

 ファイターグマは足の稼働範囲を限界まで使いブリッジをするような体制で体重をかけながらメカモドラーの頭を下顎から引っ張り首を剥き出しの状態にするとバキバキと嫌な音をたてながら首の辺りの金属が割れ始める。

 その割れた隙間にファンキーグマが素早くダガーが刺し込み横に軌跡を描く。


 内部の接続部を切断され抵抗するものが無くなった瞬間 バァーーン と大きな音がしてメカモドラーの首が千切れ体が崩れ落ち派手に土埃を上げる。


 開始3分での出来事に会場が静まる中、ファイターグマが持っていたメカモドラーの首を地面に投げると鈍い音が響く。


〈あっ、はい……以上で対メカモドラーの模擬戦は終了となります。この後は会議室にてMOFU KUMAの運営モデルを公開致しますので参加される方は2階、第3会議室へお越しください〉



 ***



 ガチャリとドアが開き諸星が出てくる。


「どうでした? 指令怒ってます?」


 寧音の問いに首を横に振りながらホッとした表情を見せる。


「大丈夫だ。今のところ模擬戦は好評だそうだ。それに指令は今回の結果を喜んでいた」

「おぉ良かったデス。瞬殺したから怒られると思ったデスヨ」


 諸星からもたらされた情報で3人が胸を下ろす。

 模擬戦終了後3人はすぐに呼び出されメカモドラーの製作主任から怒られる事になる。

 メカモドラーの性能を発揮する前に倒したこと、そして何より首を千切り破壊し再起不能にしたことをこっぴどく叱られたのだ。


「大体、本物のモドラーを倒すのが目的なのに偽物に苦戦してたら元もこうもないってのにぃ!」

「デスヨデス! なのにもっとメカッチの見せ場を作れートカ? アホデスカ?」


 ヒートアップする女子2人に声こそ上げないが瑠璃も内心は同じ気持ちであった。


「まあまあ、あちらさんも立場がある。お前らが強いのはこれで証明出来たんだから実戦投入に向けてMOFU KUMAの開発強化は進むだろうよ」

「おっとぉ! てことは予算アップ確定ですかな?」

「ウハウハデス!」


 切り替えの早い女子についていけない瑠璃は呆れた顔で2人を見る。

 2人の楽しそうに笑う姿を見て瑠璃は心の奥底で思う……いや願う。

 モドラーなんて来なければ良い。このままここでずっと待って何も起こらなければ良い。

 ずっとこうやって過ごせますようにと。

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