第七話 ””森と”再会”と”転移魔法”
「うーん、迷った」
意気揚々と森に足を踏み入れた私だったが、
案の定道に迷った。
一本道だったはずなのに、なぜ私は獣道に入っているのか?
何に惹かれて道を踏み外したのか?
残念ながら、私にも分からない。
そう、私にも分からない。
「……ん?」
入り口も出口も目的地も分からないままで進むこと数十分
木々がぽっかりと無くなった広い所にでた。
こうして広い所にでると、オオカミ少女との出会いを思い出す。
……誰もいないよね?
キョロキョロと辺りを見回すが、今回は誰もいないようだ。
「……少し休憩しようかな」
前世で『森は軽装備で入るな!』と言われていた気がする。
遭難したり、怪我をする可能性もあるので当然だ。
ファンタジーな世界で、しかも偶然助けられていたので、
注意力が落ちているのかもしれない。
何かしらの対策は必須だろう……特に方向音痴の。
「魔法……作ってみようかな」
まずは遭難した時になんとかなる魔法を作ろう…転移魔法とか?
一瞬で移動できるのはありがたいだろうけど、
どういう仕組みなのか理解できないと再現は難しいだろう。
…いや、行きたい場所を想像してその地点に自分がいるイメージ
目を開けたら想像していた場所にいる……とか?
とりあえず作ってみよう。
ピンチの時に『魔法作成』の仕様が分からないと
死活問題なので、使い方を覚えつつ作ることにしよう。
「起動・『魔法作成〈マジック・クリエイト〉』」
作る魔法は『転移魔法』
系統は『無』
対象は『自分を含めた任意の接触しているもの』
発動条件は『到着点を頭に描けること』『目をつむること』
消費は『総魔力の1%』
「作成・『場面転換<スクリーンチェンジ>』」
足元で魔法陣が輝くのと同時にスマホに魔法が刻まれる。
「よし、完成だ」
発動条件をいくつか模索してみたが、
どうやら無条件での移動は難しいみたいだ。
想像するだけでも移動は可能だけど、
魔力の消費がエグすぎたのでこの形になった。
移動するごとに50%も使っていたらうかつに使えない。
「どれどれ使ってみましょうか」
目をつむり、到着地点を頭に描く。
到着地点はこの前の町の入り口、門の隣に座る形で…
「起動・『場面転換<スクリーンチェンジ>』」
魔法が起動し、魔力が少しだけ削れるのを感じる。
先ほどまで木々のざわめきが聞こえていたのが、
だんだんと町の喧騒に変わっていく。
そっと目を開くと、そこは想像通りの町の入り口だった。
「おぉ~!できた!」
数時間前に徒歩で出た街並みに一瞬で戻れるとは…
これからの旅で確実に一番使うであろう魔法と断言できる。
しかし、いちいち想像してから発動するのは面倒くさいな…
もう少し利便性のある移動方法はないものだろうか?
…到着地点に何かを設置して、そこを行き来する、とか?
そんな移動方法のアニメを見たことがある。
設置することを考えると…自分のいる位置が鍵になる。
地図のアプリが使えるだろうか?
自分の現在位置にマーカーなどを設置して、
設置済みの場所を移動!
これならスマホを利用する必要はあるが、すぐに移動できる。
「よし、やってみよう」
『魔法作成』を起動して、作成に取り掛かる。
系統は『無』
対象は『自分と任意の接触したもの』
発動条件は『ポータルの設置』
消費は『総魔力の10%』
ポータルはスマホの内容を感知
ポータルの個数は10個に設定
ポータルの設置は自分の現在地を参照
「作成・『ムーブポータル』」
…よし、完成だ。
ポータルの数に限りはあるが、
これなら目をつむったり、想像する必要がない。
さっそく今の地点にポータルを設置する。
そして、
「『場面転換<スクリーンチェンジ>』」
先ほどの森の広場に戻る。
そして、ここにもポータルを設置
これで移動が可能になったと思うんだけど…
「『ムーブポータル』」
目の前の景色が一瞬ボヤけたかと思うと、景色が切り替わっていた。
今いるのは先ほどの町の入り口だ。
「よしよし、完成だ」
我ながらいい発想の魔法だと思う。
ポータルがあれば『ムーブポータル』
設置を忘れた、または見ることができたら『場面転換』
双方、長所と短所を持ち合わせている。
上手く使っていこう。
「…というわけで」
飲み水を確保し、先ほどの森の中へ戻る。
目的はまだ達成していないのだ、戻りたくない。
「そもそも出会えるかも分からないんですけどね…」
少し弱気になりながらも水を一口飲む。
そういえば、
この森がどのくらいの大きさなのか?
森の中に危険な存在はいるのか?
などなど
事前に確認することが結構あったことに気がつく。
……まぁ、自分一人なので特に気にすることでもないか。
今は転移魔法もあるわけだし、危険を感じたらすぐに逃げよう。
ーーガサガサガサッ
「!?」
そんなことを考えていると、前方の草むらが激しく揺れる。
誰だ……いや、そもそも何だ…
ーーガサガサッ
ーーガサガサガサッ
ーーガウッ
茂みから顔を出したのは一匹の狼だった。
クリクリとした大きな瞳と真っ白な毛が特徴的で、
大きさは小型犬程度だった。
「……」
「クゥーン」
「…可愛い」
こちらを不思議そうに眺めながら尻尾を振っている。
その姿は狼というよりはさながら犬だ。
驚かせないようにそっと近づく。
「こんにちわ、狼さん」
怖がらせないようにそっとしゃがみ、
手を狼の前に差し出す。
犬と同じ対応でいいのか迷ったが、私はそれしか知らない。
狼は私の手をくんくんと嗅ぎ何度か頭を傾げる。
な、なんだ…なにか問題か…?
不安に思いつつも反応を待っていると、
しばらくくんくんしてから腕にすり寄ってきた。
どうやら人懐っこい子のようだ。
「よしよし、可愛いな」
反対の手で下からアゴを撫でてあげる。
死角から手を出すと警戒するって何かの本で読んだことがある。
嬉しそうに撫でられる狼
うーん、撫で心地は最高。
ふわふわしながらもしなやかな毛艶、手触り抜群だ。
調子にのって背中やお腹も撫でてみるが、
もはや抵抗や警戒とは無縁の状態。
草の上にゴロンと寝転がって素直に撫でられている。
野生の狼ってこんなに警戒心薄くていいのか?
それとも誰かに飼われているのだろうか?
ーーガウッ!ガウッ!
しばらく撫でていると、
手元から離れてどこからか木の枝を持ってきた。
……投げろということか?
犬よろしく咥えて持ってくるのか?
「……よし、そうれ!」
ひょいっと軽く枝を投げてみる。
木の枝は放物線を描いて飛んでいく。
ーーガウッ!
それを追いかけるようにダッと駆ける狼
素早く、無駄のない加速だ。やはり犬ではない。
着地点を見極めたように先回りすると、
木の枝が地面に落ちる前にパクッと咥えた。
「おぉ~!すごいぞ!」
そのままこちらに走ってくると木の枝を渡してくる。
賢く、素早く、素直で従順、そして可愛い!
……狼はペットにできるのだろうか?
木の枝を受け取って褒めてあげる。
「えらいぞ~!お前は賢いなぁ!」
ぐわしぐわしと首回りを撫でてやると、
気持ちよさそうだった。
……狼は飼えないんだろうか?
…このままだと無限に自問自答しそうだ。
犬…シベリアンハスキーの小さい版だと思えば余裕
飼える!
肉が必要なら飼ってくるし、
なんなら生きたままでも持ってこよう。
旅をしながら狼を連れているなんてカッコ良すぎる。
将来は共に狩りをする相棒として私の右腕に…
ーーガサガサッ
ハッ!?…狼に夢中になりすぎた。
まったく…いけない子だ…
音のした方を警戒しつつ、狼を撫でる。
…大丈夫です、私がついてますよ。狼さん。
ーーガサガサッ
ーーガサッ
「……あら」
「……えっ?」
音のする茂みの中
そこから現れたのは……あの時の『オオカミ少女』だった。
「…こんにちわ、お嬢さん」
私たちは、森で二度目の再会を果たした。
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