第六話 ”存在”と”反省”と”再始動”
全然抜ける気配が無かったので、私は城を後にした。
城の方は何やら騒がしかったが、興味も湧かなかった。
『選ばれなかった』
先ほどまでは腰の痛みや剣を抜きたい衝動で冷静さを欠いていたが、
その事実が私の心にしこりのようなものを残していった。
異世界に転生し、『後悔』を払拭する機会を与えられた。
だが、今の私は『後悔』を払拭するために動けているだろうか?
異世界にやってきたことに浮かれて、目的を忘れていないだろうか?
本当に私は、この世界で『自分』を見つけることができるだろうか?
私の心には疑念がいくつも浮かび上がっていた。
先ほどの自分が思ったことを思い出す。
『たぶん抜けないし』
『今は挑戦するだけでいい』
その時は自分を肯定する意味で考えていたことが、
今は『逃げるため』の口実のように聞こえてならない。
この世界に転生しても、私の心の根は変わらないと思い知った。
変わらなければ、同じ人生を歩むことになる。
今のままではいけない。
ーーー
活気付く町の中で、私はまた先ほどの少女に出会った。
「おや…あなたは…」
「……」
少女は無言でこちらを見つめていた。
「ごめんなさい、私には抜けませんでした」
「……」
「どうやら私には『勇者』の素質はないようでした。
この世界でも、どこで必要とされるのやら…」
「……」
「さっきはありがとう。
あなたの言葉が挫けそうな今を支えてくれています。
神の導きを得られるように頑張ります」
「……」
「それじゃあね、それが伝えたかったんだ。
町を出る前に会えてよかった」
ぽんぽんと少女の頭を撫で、その場を去る。
「……あなたは勇者、必ず世界をまとめる御旗となろう」
ーーー
「さて……これからどうしようかな?」
自分の置かれた状況と目的を再確認した。
のんびり生きるのは好きだ。
ぶっちゃけ、気ままに生きていきたい。
でも、今のままのんびりと旅を続けても私の心は空っぽのままだ。
私は『私』を得るために、そして”無能”を払拭するために生きている。
それには……目標が必要だ。
良き自分と人生を作るための目標が。
…うーん、だがそんなに簡単に思いついたら苦労しない。
前の世界でもできていただろう。
てくてくと適当に歩く。
生前からの癖で、考え事は歩きながらじゃ無いと進まない。
そもそも自分の後悔の原因は、
『自分で人生の選択をしてこなかったこと』
『何も努力せず、慢心し、無能であったこと』
この両方をしっかりと考えていければいいのだ。
そう考えると、一気にやることが見えてきたような気がする。
誰の意思でもない、自分の意思で前に進む。
『おじさんに言われたから』ではなく『聞いて面白そうだから』
『少女に勇者っぽい』と言われたので『実際になりたくて』
自分の意思で決定して動く。
シンプルだけど、意外にできていないこと。
自分の”無能”は解決するだろうか?
何か一つを極めて進む、ありふれない自分の形
……いや、『魔法作成〈マジック・クリエイト〉』で
すでにだいぶありふれていないけど…。
これは自分の心と技術の問題だ。
いかに自分が納得できるか?自分を形にして動けるか?
…もしかしたら永遠のテーマなのかもしれない。
すでに今の段階で、人から見ればすごいスキルの人間なのかもしれない。
でも、自分が認めない限りは……私は”無能”なのだ。
自分で成し遂げていないものを私は誇れない。
ーーー
「……あれ?」
考え事をして歩いているうちに、見知らぬ土地に着いてしまった。
方向音痴なのに放浪癖がある自分を忘れていた。
「なにか目印になるものは…」
ぐるりと周りを見回すと、広大に生い茂った森が見えた。
出た時のことを覚えていないが、この前転生した時の森だろうか?
「……やりたいことできたな」
オオカミ少女にお礼が言いたい。
森の外まで運んでくれたこと、私の怪我を治してくれたこと。
寝ていてできなかったことを果たしたいと思った。
「よし、行きますか」
改めて、自分の転生後の生活が始まった気がした。
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