第三話 ”紅茶”と”転生”と”スマートフォン”
「いやぁ…素晴らしい紅茶でした」
「はい、おそまつさまでした。
まさか10杯も飲むとは思わなかったよ」
「大変申し訳ない、こんなに紅茶に心を惹かれるとは思わなくて…」
「……キミは本当におかしな人だよ」
神様はささっとティーセットを片付けました。
「さて、それじゃあそろそろ行こうか」
「そうですね。長居してしまい申し訳ない。
お待ちの方もいらっしゃったのでは?」
「全然問題ないよ。この部屋だけ、時間が100分の1の速さで進むんだよね」
「ずいぶんと違いが……結構な人数いるんですか?」
「その通り、全世界の人間の話だから時間足りなくなっちゃうんだよね」
毎日、世界では何百何万という人が死んでいるそうだ。
そうであれば、ここに来る人も必然的に多くなるだろう。
神様の疲れ気味な姿も納得だ。
「ま、外からしたら数分の話だよ。
『あっ、今回は3分かかってるな。珍しい』程度にしか思ってないよ」
「……そんなに話しましたっけ?」
「めちゃくちゃ飲んでたよ」
ジトっとした目でこちらを見てくる。
これは…すべて美味しい紅茶を飲んでしまったが故なのだ。
許してほしい。
「まぁ、ともかくこれでキミも『後悔』を無くせるといいね」
「そうですね。なんの憂いもなく、次は天国に行きたいものです」
「よしよし、その粋で頑張りたまえ。
それじゃ、別の世界の神に連絡っと……あっ、今からそっちの世界に送るね。
あぁ、うん、結構面白い奴だよ。キミも見とくといいよ。
……えっ?アレを……うーん、ちょっと聞いてみる」
電話を始めた神様でしたが、何か聞きたいことがあるようですね。
「なにか?」
「……キミさぁ、写真とか興味ある?」
「写真…ですか?」
「うん、神様って結構暇でさぁ…よければ行った世界の写真とか
撮ってきてくれない?」
「構いませんけど……どうやって届ければ?」
「あぁ、それに関しては大丈夫……コレ、なんだかわかるでしょ?」
スッと神様が取り出したのは……”スマホ”でした。
「コレ、便利そうだからコッチでも密かに作っててさぁ
これは試作品なんだよね。まだあっちで使えるかは試してないんだけど」
「なるほど。これで撮って送ればいいわけですね?」
「そういうこと!”LINK”ってアプリがあるからそこからよろしく」
ふむ、普通のスマホのように見えるが…
中身は写真とファイル、電話のみが実装されているようだ。
「神様、これからアプリの追加予定はありますか?」
「うん、あるよ!なんか要望とかある?」
「そうですね……まずはステータスなどが見れると助かりますね。
我々の知る別の世界ということはあると思いますので、それが見れると助かります。また、それに伴って魔法があるのであれば、これで検索や発動、補助などができると助かりますね。それと電池は有限でしょうか?できれば現地のエネルギーを吸収して回復できるようにしていただけると安心して使えます。あとは着替えが面倒くさいなと最近思っていたので、写真を撮ると保存していた衣装を着れるとかあるといいですね。あとは写真の加工アプリでしょうか?そのままもいいですが、やはり上手く撮れなかった場合は少し加工して送った方が…」
「ちょっ!?ストップストップ!!」
「…はい?なにか?」
「『なにか?』じゃないよ!突然マシンガントーク聞かされる身にもなって!
聞いても覚え切れないよ!」
「あぁ、それは失礼。後ほど”LINK”にて詳細を送りますね」
「……長文は勘弁してほしいよ?」
「では、欲しい内容だけお伝えしますね」
「…よろしく」
少し興奮してしまったようだ。
だけど、神様もやる気はあるようだし…本気で送っておこう。
「それじゃ、いってらっしゃい!」
「はい、行ってきます」
「……戻ってきちゃダメだからね?」
「もちろんです、後悔の無いように生きてきます」
ピピピッと神様が電話をしています。
相手は、さっきの別の世界の神様でしょう。
「うん、大丈夫だってさ。キミのも教えといたから楽しみにしといて。
それじゃ、よろしく!」
ーーピッ
「それでは、キミは別の世界に転生する。
二度目の人生、楽しんできたまえ」
キミの人生に今度こそ、幸運があらんことを
ーーー
爽やかな風、サンサンと降り注ぐ日光
小川の心地よい流れと鳥の声
風になびいてこすれる樹木の音
どうやら、無事に転生を果たせたようだ。
それにしても私は今、完全に大の字で寝ているわけですが…
「もしかして、ここは森の中では?」
そっと目を開いてみる。
目の前は真っ青な空、端に写るのは青々とした木々
……紛れもなく森の中だった。
「転生って、赤ん坊からとか勇者として召喚されるとか
そういうのを想像してたのですが、予想外すぎますね」
むくりと起き上がり、周りを確認してみる。
どうやら、森の中でも少し開けた場所に降り立ったらしい。
手元にはさっき神様からいただいたスマートフォン
近くには漫画とかで見たことのある寝袋のような袋
そして自分はこの世界のものであろう服と靴、マントを羽織っていた。
なるほど、服や道具は用意してくれているようだ。
それとも私はどこかに住んでいたりするのだろうか?
誰かと入れ替わったとか?成長するまでは記憶がなかったとか?
……とりあえず、今の状況を整理しますか。
近くの小川まで近づくと、水面を覗き込む
透き通った水はとてもキレイで、魚が泳いでいることがわかる。
かなり整備された土地なのだろうか?
水に反射して、自分の顔が映る。
……試しにやってみただけなんだけど、川に自分の顔が映るのすごい。
転生後の自分は、どうやらイケメンと呼べる仕上がりになっているようだ。
くるくるだった天然パーマは直毛になり、ずんめりとした骨格はシュッと正され、
半分眠ったような目は二重でぱっちりとし、そして何より若返っていた。
「茶髪に二重、そして外見年齢は…20歳くらいかな?若いなぁ…」
転生した人はこうもやりたい放題のわがままボディなのだろうか?
頑張ってイケメンと美人を保っている人に謝ってほしい。
……ごめんなさい。
次に寝袋のような袋を確認してみる。
中にはテント一式とランタン、寝袋に着替え、携行食に…
ってちょっと待った。
「なんだこの袋!見た目より中身が詰まりすぎじゃないですかねぇ!?
テント一式と寝袋が同居できるようなサイズじゃ無いんですが!」
何度も外見と中身を見直すが、やはり間違いはなさそうだ。
試しにテントを取り出してみる。
「おっ……意外に軽い」
通販サイトで見たことのあるちょっと高めのテントに似ている。
色は森に馴染むようなダークグリーンやベージュが使われており、
組み立ても一人でできるように設計されているようだ。
……そもそもこの世界にテントなんてあるんだろうか?
前の世界の産物を持ち込みすぎていないか不安になってくる。
「そして、今一度テントを袋に……戻せた…」
取り出したら戻せないようなものではないようだ。
袋が膨張していないのに中の空間がスッと広がるのが確認できる。
……この袋、まさか無制限でモノを詰められるのか?
「神様のご都合で作られたようで…」
次にスマホを確認する。
メッセージアプリ”LINK”から何件か通知が来ていた。
ー神様
やっほー!これを見たってことは無事に着いたかな?
これからの生活、目一杯楽しんでね!
写真もよろしくー!
ー神
初めまして、この世界の”神”です。
連絡を受けて転生の手続きをいたしました。
少し急ぎだったので、召喚のような形になってしまい申し訳ありません。
変わりと言っては何ですが、
無限に中身が広がる寝袋と服一式をお渡しいたします。
どうかあなたの転生に幸運があらんことを。
……写真、お待ちしてます。
……神様は写真がお好きなのだろうか?
いや、暇だと言っていたから娯楽をくれということか…
そして、やはり寝袋は無限に広がる神の産物のようだ。
重さも一定であるようだし、これはかなり助かる。
後は……
ー神様
キミの言ってた機能を少し追加しておいたよ。
電池はそっちの魔力を自動で吸収して回復するように、
設定のアプリからステータスを確認できるようにしておいたよ!
後は『検索機能』かな。
そっちには魔法があるから魔法の検索、呪文、なんかを書いといたよ。
使ってみてね!
……電池とステータスの問題は解決しましたか、仕事が早いですね。
…いや、あそこは時間が100分の1なんでしたっけ。
『検索機能』もありがたいですね。
必要になった時にでも、ちょっと覗いてみましょう。
次は……ステータスを見てみますか。
ススっとステータスのアプリを起動する。
いつも使っていたスマホと変わりはないようだ。
さて、この世界でのステータスは…細かいのはいいか。
別に戦闘をしたいわけでもないし。
スキルと魔法だけ見ておこう。
【スキル】
『属性の
『魔法作成〈マジック・クリエイト〉』
【魔法】
なし
…なんということでしょう、使用できる魔法がない。
加護とは…?魔法作成……はその名の通り?
自分で作れということなのでしょうか…。
先ほどアプリに検索機能がありましたし…後で確認しましょう。
それにしても……全属性?を使えるとは何とも…
何事にも特出しない『無能』への第一歩では?
ここでも前の世界と同じ道は歩みたくないものです。
『なんでもできる』それは『無能』へ近づく第一歩
ーーー
さて、一通り確認は終わりました。
スマホには他にも地図のアプリがあって、森から抜けられる
……と良かったのですが。
「圏外!?どこからか電波出てるわけでもないのに?」
しばらく前に進むと、圏外の表示が出て地図が使えなくなりました。
一体何を受信して動いているのか…謎が深まるアイテムです。
「困ったな…」
自分が重度の方向音痴であることを自覚しているので、
うかつに前に進むと森の深くに入り込んでしまうかもしれない。
とりあえず、小川をつたって下に降ることにしましょう。
うっそうと生茂る草木をかき分けて進むと、
ふいに広く開けた空間にでた。
「あら、ようやくどこかにで…」
私は声を失った。
目の前にいたのは白銀の髪と艶やかな耳、そしてもふもふの尻尾
それらすべてを兼ね備えた少女だった。
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