第2話

彼女、2年生の先輩、伊豆見梓は舌打ちが聞こえてしまったのか少しジト目になってなんだよと少し膨れていた。嫌味ったらしくギプスのついた右足をなでている。

はいはいその怪我はぼくのせいです。全治3か月の右足、椅子の横には普段使う用の松葉杖が立掛けられ、その責任も僕にあるわけでなんとも言えない感情になるも、そんなものに浸らせてれず、くどくどと先輩というものはだねと語りだしお説教が始まる。


「まずだね、先輩に対して来て早々舌打ちをするのは失礼じゃない?私はね?だいいちきみがここ見入る理由はわかっているよね?君の足はすぐ通常のように歩けるようになったようだけど、私の足を見なさい。この通りギブスでがちがち固められている状態なの。それもこれも君のせいなんだよ?わかっているよね?その気持ちがあれば普通舌打ちはできないんじゃないかな?どう思います?良心の呵責とかそういうの感じないかな?感じるよね?かんじてるよね?ね?」


黒くて長い髪を垂らし、そこから一束作り指でくるくると遊んでいる。そう一応雑用要員の仕事についてもう一つある。怪我を負わせてしまった先輩の若干のお世話も含まれているのだ。

そう、これがおそらく大きな要因の一つであり、そのせいで僕の高校生活は灰色に染められてしまったといってもいいだろ。しかしこうも憂鬱になるのも伊豆見梓という人間はなんとも人使いが荒いからに他ならない。本を読んでいる間は静かでおとなしく、見るからに和風美人というか容姿端麗という言葉が非常にマッチしているのだが、そのほかに関しては正直からきしで、わがまま放題のじゃじゃ馬姫のようなそんな手の付けられずあきれ果ててしまうようなそんな人なのだ先輩という人は。


一通り文句を言い終わったのか、一息ついて、ふてくされて窓のほうを眺め始めた。足についたギブスをなでながら。しかし先日までぼくもその状態だった。そのせいでぼくは過度な激しい運動が出来なくなってしまった。今はギブスも取れ通常の生活には問題ない状態までは回復してなんら不自由なく足を動かすことが出来るが、先輩はあと2、3週間はこのじょうたいだろう。そこはまあ申し訳なく思う。

これはそう、ぼくのせいだ・・・


そういえば先輩は用があると言っていたが何なんだ?


「で、なんなんです?」

「ん?何が?」

「用があったんじゃないんですか?それでぼくを待っていたのでは?」

「うっさい、しらない」


 おい、待ちくたびれたんじゃないのかよ。ならその不機嫌そうな顔をやめなさいよ。まあ不機嫌そうなのは舌打ちのせいか、そこはまあ。

 ぼくはため息をつき教室にあるソファーの一つに座った。バックにある本を取り出し栞が挟まっている部分を開いて続きを読むことにする。先輩は何か用がどうとか言っていたがまあ機嫌が戻るまで待つしかないか。

 しかし黙っていればかわいいんだけど、口を開くとこうも可愛げがなくなるものだろうか?

 長い髪や、横顔が夕焼けに照らされて陰りを帯びた表情がなんとも絵になるなとか、ななんて、そんなことを考えているともう一人この部室の扉から入ってきた。


「こんにちはー」


 彼女は先輩の乃木美恵であり、この無意味な活動のもう一人の部員。ぼくの中で唯一この活動に参加する理由である。伊豆見梓とは違いぼくに対しわがままを言うこともなく、性格もおっとりしているのもあり全体的にふわふわっとした感じで、まさに正反対といって差し支えないだろう。そしてかわいい。とにかくかわいい。ちょっとぽちゃとしているが、そこがまあ母性感があるというか、お姉さんみたいな感じだ。そしてここが重要だが、

乃木先輩はおっぱいがでかい。


「ん?何ですか?

「いえいえ、何でもありませんよ」


 つい目に入れてしまった。それをごまかすようにまだ窓の外を見ている梓先輩を見てしまう。そしてつい比べてしまう。乃木先輩と比べてなんというか慎ましいというか、

 んー、ひんに・・・


「あぁ?」


 先輩はぼくの考えていることがわかるのだろうか?ぼくにドスのきいた声で睨み付けてきた。適当にごまかし本の続きを読もうとした。

 機嫌がさらに悪くなってしまった梓先輩は当たるように乃木先輩にこれまた不機嫌そうな声で言った。


「恵美ちゃん、お茶」

「は、はーい・・・」


 このように乃木先輩はこんな感じで雑用をしている。梓先輩はまるで給仕か何かだとでも思っているのだろうか?このように扱われているのを見ていてかわいそうになる。てか自分で入れなさいよお茶くらい。なんて口に出したらさらに睨まれそうで言わないけど。

 来て早々同学年に対しお茶を入れなきゃならんとはなんとも不憫な・・・

 かわいそうでかわいそうで、ぼくは影から見守ることしかできないが、何とかしてやりたいと本気で思う。まあ助ければいいんだけど、まあしかし先輩には逆らえないわけで、それなりの理由もあるわけで、


「伊織くんもどうですか?」

「いえいえ、お気遣いなく」


 あぁかわいいなー。

 乃木先輩はせかせかとお茶のカップとポッドに水を入れお湯を沸かしている。何となくだが意地悪な姉や叔母からいじめを受けているシンデレラのように見える。そんな悪環境の中ぼくにまで気を配っていただけるとは、いやはやありがたや。それだけでここに来るかいってのもあるってもんですよ。まあさっき言ったか。


 ピーっというお湯が沸騰した合図を聞くとお茶を3つのカップに注ぐと伊豆見梓と乃木恵美、そしてぼくの分のお茶を乃木先輩が入れるとそれぞれの近くにカップを運んでいる。

 梓先輩が紅茶の入ったカップを受け取ると一口すする。ぼくの目の前にもカップが置かれありがとうございますと一言いい、優しく微笑んでくれた。


「そういえば筒井先生はまだいらっしゃってないんですね」


乃木先輩がそう尋ねてきた。

 筒井先生とはこのオカルト研の顧問である。といっても特に監督することもないので、ここにきてはお茶を飲みお菓子をむさぼり、先生業務から逃げてきているようなもので、いわばさぼり場として活用している、ようにしか見えない。そして常にやる気なさそうに机に突っ伏していて、口を開けば職員会議の愚痴やめんどくさいのオンパレードである。

 将来こんな大人にはなりたくないなと思わせてくれる、そんな模範的な先生である。

 まあそんな人がここにきてもそんなにやることもないから別に居てもいなくても変わりないんだけど、一応それでも顧問なので確認したのだろう。


「職員会議だって」


 少し気分がよくなった梓先輩が口を開いた。

 そして椅子から立ち上がり、松葉杖を取ってDVDが大量に並んだ本棚まで行く。

オカルト研の本棚にはオカルト系の雑誌を並べている棚と本を並べている棚、そしてDVDやVHSを並べている棚がある。そこの棚にはオカルト研とは関係ない映画やアニメ、ドラマなどがあり、そこから見たいものが見れる。

毎回こうして活動は本を読むか映画を見るかで終わってしまう。

ほらな、人が集まって映像を見るだけで特にやることもない。まさに青春の無駄遣いそのものというのがこの現状である。

先輩は松葉杖を抱えながら苦戦品が一本取ってそれをテレビの下にあるデッキにセットした。


「今日は何ですか?」


 ぼくが聞くと梓先輩はさっきまでの不機嫌な顔とは変わり、今度はふふーんと得意げな笑みを浮かべる。


「今日は、これだ・・・1、2、3」


 といい持ち上げたDVDパッケージをくるっと半回転させ、開け口から表部分を見せた。

 そこには『リ〇グ』と書かれていた。

 乃木先輩はひぃっと小さく声を上げた。どうやらホラーが苦手のようだ。じゃあなんでこのオカルト研に入っているのか不思議なのだが、まああらかた伊豆見梓という暴虐武人なじゃじゃ馬姫が無理やり入部させたに違いない。

 給仕のように扱われたと思ったら苦手なホラー映画を見せられるなんて、ほんとかわいそうな人である。

 ぼくは、はぁとため息をつき、小さくあの言葉を口にする。


ザ・ベストハ〇ス。

なんちゃって、、、

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