第1話

神奈川県のとある場所にあるとりつ県立縄之守なわのもり高校は創立100年くらい歴史のある高校らしく、その歴史の中で校舎を変え、その名残で旧校舎がまだ残っている。しかし実際教室や授業として使われていることはなく、部活動の部室としていくつか使っているくらいで校舎そのものとしてはあまり機能していないし、あまり人も来ない。何年か前に取り壊しの話が上がっていたらしいが、今もなお残っているところを見るとそれはかなわなかったようだ。

見るからに古いそれは木造になっていて、陽もあまり当たらず薄暗い、よくある噂とか怪談話なんかで出てきそうな薄気味の悪いし幽霊なんかが出てくるんじゃないかと思うくらい夕焼けがやけに絵になる感じでなんとも”イカニモ”といった感じである


6月中旬の放課後、その出そうな夕暮れ時、夕日が窓から広い赤の光が道を作り暗いところと照らされているところをはっきりと区切り、ぼくが通ると影がその境界線を行き来する。

そんな廊下をきれいだなぁなんて思いながら景色とは逆さまに、ぼくはどんよりとした気怠い憂鬱を引きずりながらとぼとぼ歩き、ある場所を目指していた。そこは4階建ての旧校舎の4階、一番隅っこにある教室の超常現象研究部の部室である。


 超常現象研究部、通称オカルト研は僕の所属しているクラブであり研究とは名ばかりで、特にやることもなく、高校野球のように甲子園、陸上ならインターハイみたいな目指すものも特になく、ただただ、だらだらと過ごすだけで、それこそ友情や青春といった高校生らしい手に汗握る展開は天地がひっくり返っても起こることはないと思うほどにやる気や向上心といったものとはいっさい切り離されているようなそんな青春の無駄遣いとはこういうことを言うんだろうなぁと思うただの雑談をするようなクラブである。

 

 普通ならこんなクラブ活動を率先して入りたいと思う人なんていないだろうし、実際ぼくも望んじゃいなかった。高校1年生の活動の選択はそのあとの3年間を決定的にするほどのとても大切なもので、だから決してそんな無駄に時間だけを浪費し、心血を注ぐことのない灰色のクラブ活動を選ぶということは、その後の3年間を灰色に染められてしまうからして、はっきり言って論外である。つまり憂鬱というのはそういうことで僕の3年間は灰色になってしまうこと確定になってしまったということと同義なのである。本当なら運動部に入るつもりで中学の3年間はバレーボール部だったし、高校でも続ける予定だった。そして実際に入っていた、ついこの間まで。しかし入っていた期間というのもたったの1か月間だけでやめてしまった。

 まあ、辞めざる負えなかったこともあり、しょうがないと割り切っているつもりではあるのだが正直この廊下を渡るときはいつも後悔ととても残念な気持ちになる。未練がないわけではないからなぁ、本当なら今頃は体育館で練習している頃で、汗水垂らして練習に明け暮れ、成果が認められたらスタメンに入って、大会で活躍なんかしたりと夢や希望が絶えなかったことと思うと涙が出る。でも・・・・・


 仕方がない・・・・・


 それは一番ぼくがわかっている。そうわかっているんだ。なぜならあれはぼくのせいだ。

 5月の一件以来ぼくの足は激しい運動が出来なくなってしまった。そしてそれが原因で灰色の高校生活を送る羽目になってしまった。しかし今ここでその話をするには少々長すぎる。おそらく後2時間くらいは短くても必要。そう調度映画と同じくらいの時間が。

 

 そうこうしているうちに憂鬱という足枷をしたぼくの歩みはどうやら目的地についてしまった。扉を開けるのに一度深呼吸をして、そのぼくの顛末を受け入れる準備をする。

 ぼくは想像してしまう扉を開けると窓際に椅子を置いて、そのうえで気怠く座りながら本を読み、そしてぼくが入るとこちらを嫌な笑みを浮かべあの女の先輩はこういうのだ。

『お帰り、後輩』

 なんて戯言、ほかに言うことはないのか。こんにちはとかヤッホーとかそういう普通のことならいざ知れず、お帰りだなんてぼくがここに来ることを嫌だとわかっていてそんなことを言うのだ、まったくもって性格の悪い。しかしこれも仕方のないことで約束してしまったからぼくはこうして土日以外授業が終わると毎日ここに来ているのだ。

 まったくもって憂鬱だ。雑用要員として来ることになったとは言えやることといっても本当に何もなく、ぼくとしては部活をやらなくなって何をしているかというとまあ漫画を読んだり、気になっている小説を読んだりと本当にただ暇をつぶしているのでそれをこの部室でもやっているだけで雑用といえば掃除とあと部室で飼っているアオジタトカゲの“つっちーくん”の餌やりだ。そんな何度も言うように時間だけを浪費する部室に入るときはどうしてもこう扉の前で一度深呼吸をしてしまう。


 正直先輩のことは嫌いではないけど、苦手である。なんでもかんでも見透かしたようなあの目や言動がもてあそんでいるかのようでなんかむかつくし、かといってこの人には勝てないんだろうなということが何となくわかってしまうのが、なんとも悔しい。ただ唯一勝っているものといえば、中学のころからやっていたバレーボールのおかげで身長が170cm後半まである。先輩はというと150cmぐらいだったと思うのでまあそれぐらいである。


 よしと意気込みぼくは入りたくもないと思いながらもその扉を開けた。正面の窓から夕陽が部屋に向かって光が差し、一瞬まぶしく思いながらも、先ほど予想していたようにやっぱり窓のそばに椅子を置いてけだるそうに、椅子の上に丸まるような体制で先輩は本を読んでいた。そして・・・・・


「遅いよ後輩、待ちくたびれたよ」


ぼくはひそかに舌打ちをした。くそ、予想を外した。でも嫌な笑みを浮かべながらという点はあたっていたので引き分けということで手打ちにしましょう。そんなことくだらないことを思うぼくなのであった。

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