第三

春嵐

震える月

月が見える。


夜になると、何かが私を支配する。


日常ではない、何か。いつも通り起きて、仕事をして、帰ってきて家事をして、そういう私とは別の人格。


鏡の前に立つ。


誰かが、いる。

誰なのかは、私にも分からない。私のなかに、何かが、いる。それだけを知覚できる。


鏡。

自分の顔。

自分の姿。服。腰。足。


気分がおかしくなってきた。顔に映っているのは、誰だろう。


「あなたは、誰」


問いかけた、その瞬間に、答えがわかった。


「私か」


私。日常のなかで他者と接しているときには出てこない、完全なる私。私自身しか知覚できない、自我の部分。


鏡から目を逸らした。

自分が映っているのなら、いくら見ても、なにも出てくるはずがなかった。自分を、自分で見ることはできない。


「ここには、私がいる。私が」


月の光。滲んで、震えている。

あんなに綺麗だっただろうか。

あの美しい光を、私が私でいる間は、眺めていることにしよう。


夜になると、私が私を支配する。


月が見える。

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第三 春嵐 @aiot3110

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