第39話 父と母の提案
「お前たち、今年中に結婚しないか?」
海斗と葵は顔を見合わせた。
「父さん、それって、葵さんに養ってもらえってこと? 俺、まだ学生だよ?」
「順を追って話した方がいいな。実は、私は次の選挙に立候補することになったんだ」
「さすが
「海斗、よく聞け。もし、当選したら、人との付き合いや、マスコミの目や、面倒なことが増えるだろう? その後で式をあげたら盛大になりすぎるし、面倒なことも多そうだ。それこそ、お前に断りにくい縁談が、次々にくるかもしれない」
「嫌だよ! 絶対縁談なんか嫌だ!」
「だから、今年中にと思ったんだ」
「それにしても、俺が言うのも何だけど、父さんも母さんも、反対しないの? 元教師と生徒だよ。それに、俺、まだ二十歳にもなってないよ」
「お前たち、結婚したいと思ってないのか?」
「実は、もう結婚の約束をしてる」
「やっぱり思った通りだな。お前たちは絶対そうだと思った。私たちはこの結婚に賛成だ。葵さんは素晴らしい方だ。
「葵さんは貴人じゃないんだよ。それに世継ぎ問題はこりごりだ。9人も期待されたら困るよ」
海斗の顔が赤くなった。そばで黙って聞いていた母も付け足した。
「あなたたち2人は王様と貴人様を見ているようだわ。昨日もその夢を見たんだけど、私が護衛ですぐそばにいるのに、2人でベタベタ……40歳くらいだと思うんだけど、もういい歳だっていうのにそれは仲が良かったんだから。そのせいで、他の側室の嫉妬といやがらせはものすごかったんだけど……。とにかく、今のあなたたち、そのものなの。別れられるわけがないってわかってるわ」
「そんなにベタベタしていたの?」
「ええ。今だって、親の前なのに見ていて恥ずかしいくらい仲がいいわね。でも、違和感はないの。歳の差を感じていないわ」
父も大きくうなづいた。
「ところで海斗、男としてのお前の一番の心配は、家族を養えるかどうかだろう?」
「そうだよ。まだ俺は一人前じゃないし、やりたいこともある」
「おばあちゃんが建てたマンションをお前にやる。一人前になるまで、とりあえずその家賃収入で暮らせ」
「あの、駅の近くのマンション? あれ、今は父さんが経営してるの?」
「そうだ。二人で暮らしていくには十分だろう。お前たちは最上階のおばあちゃんの荷物を片付けて住めばいい」
「でも……」
「男として素直に喜べないんだろう? もちろん、ただで収入を得るわけではない。お前がきちんと管理して経営するんだ」
「いいじゃない、もらっちゃいなさい。とにかく私は早く孫の顔が見たいわ」
母も後押ししてきた。
海斗と葵は、またお互いの顔を見た。それなら海斗は研究に没頭できる。大学院にも行ける。素直にマンションをもらっていいものか、戸惑いはあったけど、すべての心配が晴れてきた。
海斗は葵の両親と弟の恭介にも結婚の挨拶をしに行った。葵の両親はとても喜んでくれた。海斗とすっかり仲良くなった恭介は、半分ふざけて頭を下げ、年下の兄に言った。
「お義兄さん、よろしくお願いします!」
そこから話はトントン拍子で進んでいった。11月に海斗が18歳の誕生日を迎えた後、冬休みに、近い人だけでハワイで結婚式を挙げ、帰国してから友人たちを呼んでパーティーをすることになった。
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