第24話 一件落着!
海斗が思った通り、情報が次々と集まってきた。愛梨と春奈は大好きな映画のFBI捜査官の影響もあり、公正に判断し、動いていた。海斗、団長、愛梨、春奈、そして各クラス代表の団員を集め、情報の分析会議をした。分析会議の議長は団長が担当した。
「じゃあ、まず、被害状況を教えてくれ」
「はい。3年2組です。教室からペンがなくなったのはご存じのとおりですね」
「1年5組です。女子が、彼氏にもらったストラップを鞄につけていて盗られたそうです。これは放課後、グランドでサッカー部の練習を見ている時、みんなの荷物と一緒にネットのそばの、どこからでもよく見えるところに置いていたそうで、かなりショックを受けて泣いていたみたいです」
「サッカー部担当です。なぜか部室の外の手洗い場の石鹸が、中に入れてぶら下げていたみかんネットごと、3個全部根こそぎなくなっていたそうです。」
「ラグビー部担当です。洗濯したユニフォームを干すハンガーが部室の外で2本なくなったと報告がありました」
「被害について、他にはないか? それでは目撃情報は?」
「3年2組の体育の時間、1年4組の子が窓の外にカラスがとまっているのを見たという情報が、今日入ってきました」
「3年2組……なくなったのはペンか。エサでもないのに、持っていくのか?」
「カラスは光るものが好きと聞いたことがあります。金属の部品とか巣から見つかるそうですよ。ハンガーも巣作りに使っているとか」
「カラスか。でも、裏は取れてるのか? 石鹸はどう説明する?」
「ごめん、内緒にしてくれる?」
そう言って春奈が学校では禁止のはずのスマホを出した。みんな顔を見合わせたが、何も言わず、スマホの画面の上で指を動かす春奈の様子を見ていた。
しばらくすると、春奈が叫んだ
。
「これだ!」
嬉々として顔を上げた。
「カラスの巣から光るものが見つかったり、石鹸を持って行かれた事例があるわ! カラスは石鹸の脂肪分を食べるんだって!」
「カラスか!」
団長が声を上げ、みんな、顔を見合わせた。愛梨がうなずいて言った。
「盗まれたペンは高価なもので、光ってた!」
「ストラップも、ラインストーンがついてたみたい」
「どうやらカラスが盗んだと見て間違いないようだ」
団長が満足そうに言った。
「そのようね。これ以上探る必要はないよね? 海斗。目的は犯人探しではなくて、犯罪を防ぐことだから」
春奈も生き生きとした笑顔だった。
「そうだね。これでいいと思うよ」
ずっと黙って見守っていた海斗も満足そうだった。
「それでは各クラス代表の諸君、犯人はカラスと断定してもいいだろうか?意見があったらここで発表してくれ」
みんな口々に
「異議なし」
と言っている。
「よし、それでは、犯人はカラスだった。以上で、分析会議を終了する!」
団長の力強い声で、会議は締めくくられた。
「やったー! ああ楽しかった! それに、何? この充実感!」
そう言ったのは、春奈だった。団長もいかつい顔をほころばせて皆をねぎらった。
「みんな、よくやってくれた。これで安心して生活できる。この学校には泥棒はいなかった。これからも事件が起こらないよう、学校全体の意識を高めていこう!」
その言葉に、愛梨とはるなはうなずいていた。そして、愛梨が言った。
「海斗、ありがとう。目からウロコだった。私たちの人生まで変えてくれた」
「私も。なんだかすっきりした」
春奈も同じ気持ちだった。団長が海斗とがっしり握手した。
「北条、ありがとう。これからも頼むよ」
海斗も団長と向き合い、力強く答えた。
「君たちはすごいな。俺はおろかな王様の役だから、見てただけだよ。ハハハ」
海斗は、もう春奈がいじめをすることも、愛梨が黙認することもないだろうと思った。犯人がカラスだったので、全校生徒に発表され、体育の時間は教室の窓を閉めて出るよう伝達した。
放課後、修と海斗は一緒に駐輪場へ歩いていた。自転車の鍵を開けながら、修が海斗に聞いた。
「もうすぐゴールデンウィークだなあ。海斗、何するか、先生と話した?」
「何だそれ」
海斗はチェーンロックをはずしていた。
「4月の終わりから5月のはじめは、休みがたくさんあるんだよ。お前、先生をひとりじめすんなよ」
「休みがあったって、どこにも行けないよ。一緒に住んでるのがバレたら、先生がクビになっちゃうんだろ?」
修は人差し指を振り下ろして言った。
「そう! 行動には気をつけないと! みんなと一緒に行くならいいけどな」
「そうだろ。気をつける」
「28日から一泊で、父さんと母さんが旅行に出かけるんだけど、その日に泊りに来ないか?」
修が自転車にまたがった。海斗も自転車に乗り、ペダルに足をかけた。
「先生に聞いてから返事するよ」
「OK!」
二人は駐輪場を出て、校門へと風を切り走って行った。
*
海斗ことハソングンが家に着くと、葵はまだ帰っていなかった。買い物をして帰ってきた葵を彼が迎えるのがいつものパターンだ。
「ただいま!」
葵が帰ってきた。
「おかえり~」
いつもならリビングにいるハソングンが、葵の車の音を聞いていそいそと玄関まで出てきた。
「ねえ、葵さん、ゴールデンウィーク、何するの?」
「どこか行く?」
わざわざ迎えてくれたので、ハソングンがどこかへ行きたいのかと思って聞いた。
「修と遊ぼうかと思って」
葵は心が鉛になるのを感じた。
「ちょっと待ってね。先に手を洗うから」
気づかれたくなくて、さっさと洗面所へ行った。ハソングンは自分のものではないのだから、自由にさせてあげるべきだ。葵は息を深くふうーっと吹いて、リビングに戻った。
「ハソングン、いつ行くの?」
「28日から一泊。泊ってもいい?」
「もちろん、いいわよ。楽しんでおいで」
いつ過去へ戻ってしまうかわからないハソングンと別々に過ごすことに恐怖を感じた。しかし、これまでずっと一緒にいたため、ここしばらく自分の買い物や用事をほとんどしていなかったので、葵はこの日にやってしまうことにした。
*
その日はすぐにやってきた。
「修君の家についたら、バッチャンにこの紙袋渡してね。手土産だから。皆さんで食べてもらって。『お世話になります。よろしくお願いします』って言うのよ」
「わかった」
今日の葵はいつものように髪を一つにまとめずに、おろして毛先をカールしていた。しかも、学校では着ることがない、胸元が開いた女性らしいワンピースを着ていた。
「葵さん、今日は何でそんなにきれいなの? どこへ行くの?」
「ありがとう! 今日は洋服を買いに行くことにしたから、ちょっとおしゃれにしていかないとね。学校に行く時はきちんとしたものを着るけど、今日はオフだからこんな感じ」
「いつものショッピングセンターに行くの?」
「ううん。今日は街へ出て、ファッションビルに行こうと思う」
「ふうん。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
葵はハソングンにきれいと言われてうれしかった。自転車に乗って走っていく彼の後姿に、満面の笑みで、力いっぱい手を振った。ハソングンはちらりと葵を見て、そのまま振り向かず行ってしまった。
葵は、自分の洋服や下着や化粧品を買うため、電車に乗って街に出た。
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