第31話 別れは寂しくない
ダンジョンでの騒動から数日が経った。
調査から戻ってきたユウト達は初めて帰還できた調査団として大いにもてはやされた。
それから、ダンジョンで魔族が
そして、ユウト達はというとプチ英雄的な存在で一躍有名になった。
といっても、有名になったのは主にケイ達でユウトとルゼアはついでみたいな感じでそこそこの評価を受けた。
それから現在、ユウトは未だ借りている部屋のベッドの上で寝そべっていた。
右手に持っているのは茶色く透き通った宝石に龍が模られた金属が付いたブレスレット。
カルトロスが持っていたものだ。最後に自害する瞬間に使って見せた地面を動かすアーティファクト。
ルゼアにも確認を取ったがやはり竜神の魔道具の一種らしい。
これで手に入れたのは火、土の二つ。風は一時的にケイから借りていたものなので、今は手元にない。
正直、新たな力を手に入れられたことは非常に嬉しい。しかし、それとは別に心が浮かないのは魔王の居場所を聞き損ねたことにあった。
魔王の居場所、すなわち――――妹の居場所。どうなっているかわからない以上、悠長に時間をかけていられないのだが、場所がわからなければ急ぎようもない。
研究所で手掛かりを探してみたが、研究作品に関すること以外の情報は何もなかった。
しかし、妹で何かするといえば、研究者であるカルトロスの力は必要だ。ならば、いくぶんか何かをされていたとしても遅らせることはできたのではないか。
そう思いたい。そう思わなければやっていけない。無事と信じなければ進めない。
「お主はやっと一人敵を討てたというのに暗い顔をしておるの」
「ルゼアか」
ルゼアはユウトの部屋を尋ねるとスタスタとユウトに近づいていく。
そして、「よっこらせ」と言いながらベッドに乗るとそのままユウトのアーティファクトを持っていない方の腕を横になり、強制腕枕をし始めた。
「ルゼア? 角が頬に刺さる」
「多少は我慢せい。恋人にはスキンシップが大切じゃ」
そう言うと、ルゼアはユウトの頭を抱き寄せ胸に押し付ける。
ユウトは小さいともいえる、だが確かに感じる柔らかさに思わず顔を赤面させる。
「きゅ、急になんだ?」
「もう至るところまで至っておるのに赤面しおって初奴じゃの。なーに、ただ疲れを癒すだけじゃ。
お主は最近ずっと物思いに耽っている。その原因はわかりきっておるが、あんまり張り詰めては心がもたぬぞ。じゃから、休め。今はただ優しさに抱かれて眠るが良い」
そんなことを言われると途端に眠気が襲ってきた。ルゼアの言う通り無理をしていたのだろうか。
そんな自覚はないが、ないからといってしてないとは限らない。そんなところか。
そして、ユウトはその安心感にそのまま眠りについた。
*****
ユウトが意識を起こすとそこは真っ白い空間。どこまでも広く果てしなく続いている。
しかし、一か所だけただポツンと芝生があり、そこには桜の木がある。
桜吹雪のように花を舞い散らせる桜の木陰には大きな杯とひょうたん瓶を持った赤髪の男。
「お、久々に繋がったな」
「初代魔王」
初代魔王は手を振りながらまるで友達でも呼んだかのように気さくな笑みを浮かべる。
ユウトは力を貸してくれる存在とはいえ、相変わらず実態がつかめないその男に若干の警戒をしながら近づいていく。
「いやー、やっと会えたよ。君の活躍、内側から見させてもらったよ」
「そうなのか。ってことは、俺が魔族を殺したことに対して何か思うところがあるのか?」
「いや、別に」
ユウトの質問にあっけらかんとした態度で初代魔王は返答する。その反応にユウトは思わず動揺してしまう。
「同じ魔族を殺したんだぞ?」
「ああ、そうだな。だが、その魔族は君の妹の敵なんだろ?」
「そうだけど......」
「まあ、全く思うわけがないわけじゃない。しかし、それ以上にあんな危険で魔物を身勝手な理由で存在させていいはずがない。だから、別に君の行動に対して否定はしない。もとより君との約束だしね」
「そう、なのか」
なんだか拍子抜けするような返答に経過している自分が馬鹿らしくなってくるように思えた。
すると、初代魔王は相変わらず何気ない風に話しかけてくる。
「あ、そうそう、君との共鳴率が25パーセントまで上がったみたい。その影響で君の髪の色が黒から赤に色が変わって、前は髪の先っちょだけだったけど、今は少し伸びてるね」
「そうなのか?」
ユウトは自分の前髪を指で摘まんで見てみるが、特に変化を感じたようなことはない。
まあ、そもそも自分の髪を見る機会なんてそれこそ鏡を見たらの話であるから、気にしてないのは当然だけども。
「その共鳴率ってのが上がるとどうなるんだ?」
「簡単に言えば身体能力や魔法攻撃の威力が上がる」
「身体能力はともかく、魔法攻撃って俺は魔法自体は使えないからアーティファクトの攻撃力に依存するんじゃないのか?」
「確かに依存するが、そもそもの魔力レベルが変わる。
魔力にはあまり知られてないがレベルが存在しており、最大が10でもともと1だったお前は3になったってところだな」
「そう......なのか」
ユウトは自分の手をふと見る。その手に魔力を集めてみるが、あんまりその実感が湧かない。
カルトロスのとっておきだった二体の
なんにせよ、妹を救うために着々と自分が強くなっていってるのは嬉しい。より確実に妹を救うことができるということだから。
ユウトは眺めていた手を強く握るとふと魔王に質問した。
「そういえば、前に魔族を救ってほしいって言ってたが、具体的に何をさせるつもりなんだ?」
「できれば、だ。でも、部下のあの惨状を見ているとやはり
「あいつ?」
「いずれわかるようになるよ。まあ、こちらから言えることとすれば、君があくまで君の決意で殺すのは魔王とその臣下だけにして欲しい。一般人には手を出さないで欲しい」
「わかってるよ。さすがに、そこまで外道に落ちるつもりはない」
「わかってるならいいさ」
初代魔王はニコッと笑う。まるでユウトを本気で信用しているように。邪気が全く見えないその顔にユウトは「そこまで信用されるようなことしたっけ」と思わず呆れ笑い。
すると、初代魔王は「ん? もう時間か」と呟くと最後に一言だけ告げる。
「それじゃあ別れ際にアドバイス。強気な女の子には優しくするのが吉だぞ?」
*****
「む? もう起きたか」
「どのくらい寝てた?」
「おおよそ20分というところじゃの。仮眠程度の時間じゃ。もう少し寝るか? と言いたいところじゃが、実はお主が寝てるときにレースのメイドが訪ねてきてな、ケイがユウトと話をしたがってるそうなのじゃ」
「話? どんな?」
「そこまでは聞いておらん。とはいえ、どのような結果であろうとわらわが正妻ぞ」
「?」
急に変なことをいうルゼアにユウトは不思議に思いながらも起き上がり、大きく伸びをしながら「ケイに会ってくる」と告げてレースの家を後にした。
町中を歩いていくといろんな人がこちらを見てくる。ダンジョンを調査して生還してきたとしてちょっとした有名人になっているのだ。
目立ちすぎるのはあまり慣れていないので得意ではないが、可愛らしい町娘が自分を見てワーキャーしてくれるのは、まるで学校のイケメンになったようでちょっと嬉しい。
そんなことに誇らしく感じていると正面に見覚えのある少女が現れた。ツインテールをふりふりさせているネオだ。
そして、ネオも「あ! 見つけた!」とユウトに向かって指をさすとシュタタタタと勢いよく近づいてくる。
それから、ユウトの手を握るとネオは真っ直ぐとした瞳を向けた。
「ユウトさん、ケイちゃんをもっと大きな旅に連れてってあげてください!」
「は?」
突然のことにユウトは困惑気味でいるとネオはユウトの背中を押しながらとある場所に移動させていく。
その場所は教会であった。教会の中はにぎわった町とは違い、隔絶されたような静けさがあった。
ステンドグラスから伸びる光は色鮮やかに床をてらしていて、正面に立つ女神像は神々しく輝いていた。
そして、両端に横にある横に伸びた椅子の一列目にこれまた見覚えのある金髪があった。
誰かと問われれば、当然ケイであろう。ネオがここまで連れてこさせたのだし。
すると、ネオは「お邪魔は失礼します」といって、教会の扉を閉めるとユウトとケイの二人っきりにしてしまった。
ユウトはとりあえずケイに近づいていき、声をかけた。
「久しぶり、元気にしてたか?」
「あ、ああ。悪いな、ネオが余計な気を回したみたいで」
「別に気にしてないよ。それよりも、ネオから聞いたんだがケイは俺たちと来たいのか?」
ユウトはケイの横に座ると単刀直入に聞いた。今更初対面で気を遣う間柄でもないし、ケイに苦手だと判断したから。
すると、ケイはその質問に答えず別に話題を出した。
「実は、お前がいない間に魔族の素性を探ってみたんだよ。今回みたいにまたどこかで大変な目にあってる奴らがいるんじゃねぇかって。
そしたら、エルフの森で魔族らしき存在に襲撃されたってのがあった。まだそこに魔族がいるとは限らねぇが、次にお前らが行くとすればそこに行ってみるといい」
「そっか。ありがとう。実はこの先また手探りになるんじゃないかと思ってたから」
「......話は以上だ」
そう言って、ケイはそそくさと立ち上がりその場から去ろうとする。まるで居心地が悪いように。
そんなケイの手をユウトは掴んで止めた。まだケイと腹を割って聞けていないような気がしたから。
突然腕を掴まれたケイは思わずバランスを崩しながら、掴んだユウトを見た。
その顔は真っ赤であった。まるで恥ずかしい何かを見たような、熟れたリンゴのようなそんな顔。
その顔を見た瞬間、ユウトの瞳は思わず普段クールな佇まいをしているケイのギャップともいえる表情にドキッと心が跳ねた。
すると、目があったことに気付いたケイは「見るな」と言って顔を逸らす。そして、ゆっくりと言葉を告げる。
「本当はさ、ただ仲間を助けてくれたことに対する礼を言うつもりだっただけなんだよ。それだけなんだ。
けどさ、お前と出会ってから数日だってのに、自分の過去をベラベラとしゃべっちまうくらいにお前が信用できるようになってて、弱いと思ってたお前がオレなんかよりはるかに強くて少しだけ安心感があったんだ」
「きっとその安心感を抱かせてくれたのはケイの方だ。ケイがとても勇敢だったから、俺も俺自身を安心して預けることができていた。
俺が安心していたのは、ケイが俺に安心感を抱かせるほど強かったからだと思うんだ」
「俺は別に強くなんかねぇよ。仲間を失っただけで、勝手に死んだと決めつけて勝手に泣きわめいて。お前がいなかったらあの時完全に諦めていた。自分の過去を重ねて立ち止まっていた」
「いや、きっと大丈夫だったと思う。ケイは心が強いからな。だけど、もし俺なんかで前に進めたのなら、俺は素直に嬉しいと思う」
「......っ!」
ケイは顔を赤くしたまま動揺した動きを見せる。まるで今すぐ逃げ出しそうなそんな勢い。
しかし、ユウトが手を掴んでいるため逃げれない。そして、掴まれてることを意識してしまってなんだか力が抜ける。
その力が抜けた勢いでケイは自分の思いを吐き出した。
「本当はさ、お前と......お前達と一緒に冒険してみたい。けど、オレの身勝手であいつらを切り捨てるわけにはいかない。だから、オレは――――」
「ちょっと待ったー!」
勢いよく教会の扉が開くと完全に出歯亀していたネオ、ヤス、カイゼルがそこにはいた。
その突然の登場にケイは思わずしどろもどろ。そんなケイを気にもせずネオは言いたいことを叫んだ。
「ケイちゃん! 私達はケイちゃんに助けられた! そして、一人ぼっちのケイちゃんを助けたいと思ったから勝手についてきた! そう勝手に! だから、ケイちゃんはやりたいことが見つかったなら構わず行っていいんだよ! 私達が足枷になってるようだったら私達の方からいなくなるそれだけ!」
「......」
「だからさ、ケイちゃん。ケイちゃんは好きな道に進んでよ。どこまで行っても私達は仲間だよ。その想いがある限りね」
ユウトはそっとケイの手を離した。すると、ケイは顔を俯かせたまま静かに着実にネオ達に近づいていく。
そして、ケイは三人を思いっきり抱きしめた。その顔は泣いていた。震えた声で伝える。
「い"っ"て"く"る"」
「「「いってらっしゃい」」」
そのケイに釣られるようにネオ達も泣いた。しばらくの間、四人は抱き合ったままであった。
そしてその数日後、ユウトは新たにケイをパーティに加えてエルフのいる森に向かったのであった。
魔法適正ゼロの最強転移者~魔法を凌ぐアーティファクトで最悪の未来を穿て!~ 夜月紅輝 @conny1kote2
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