第22話 仲良くなったのはフラグ
「え、今のって冗談で演じてたんですか!?」
「まあ、そういうことになるの。随分とわらわ好みの反応で笑いが堪えきれるか怪しかったのじゃ」
ルゼアがそういうとネオは本当に地雷を踏んだとばかり思っていたのか深くため息を吐いた。
そして、ユウトにチラッと目線を向けて「これも嘘じゃないよね?」と尋ねてくるので、ユウトはそっと肯定してあげた。
ネオはその反応を見て再びため息を吐くと数秒後にはムクッと姿勢を正し聞いてきた。
「それで、お二人はどういう関係なんですか?」
「結局聞くんだな、それ」
「まあ、やはりうら若き乙女と言えば団子より恋バナですし」
「それは、オレ達も初耳だな」
「「激しく同意」」
「あっれ~?」
ネオがパーティの3人に同意を求めると揃って見放された。
その反応にネオは大きく首をかしげる。「そっちに同意するの?」と言わんばかりの顔だ。
そんなネオの反応を見てはニヤニヤと面白がっているケイに、ユウトは「これは単なるやり返しだな」と納得した。
すると、先ほどの質問に対してルゼアがサラっと答えた。
「そうじゃな、正直なところを言うならばわらわ達は恋人じゃな」
「ですよね......? こ......マジでですか?」
その答えにネオは意外な反応を示した。しかし、これは至極真っ当な反応でもある。
竜人族の生態はまだ未知の部分は多いが、竜人族の恋愛観については調べがあるのだ。
そして、その調べからすれば竜人族の女性は自分より強い人を好む。
これは動物に近い恋愛観でより強い種を後世に残して置こう働きが強いからだ。
まあ、もちろん“人”である部分もあるので、それが全ての理由とは言えないが、普通の人でも軟弱な人よりは屈強な人を好むだろう。
その意識がより強いだけに、ルゼアも魔王城の隠し部屋にてその理由の一つを持ってユウトを性的に襲ったのだ。
とはいえ、その理屈が成立してしまうとまたおかしな部分が出てくる。
この世界に置いて竜人種というのは他の種族に比べれば圧倒的な力を有する。
ということは、“普通の”人族は竜人族より弱く、どんなに鍛え抜かれた冒険者でも竜人族の子供に力負けすることだってあるのだ。
しかし、ネオの目の前にいるユウトという人族は竜人族のルゼア、しかも成人女性の竜人族よりも強いという証明に他ならなかった。
故に、てっきり「こやつはたまたま意気投合したツレじゃ」とか言われると思っていて、それに対して「ですよね~」という反応をスタンバっていたのにとんだ変化球が返ってきたのだ。
その常識を知っている者によれば、その竜人族ルゼアの“恋人”宣言は別の意味で捉えれば「となりの人族、わらわより強いぞ」と言っているようなものである。
それには当然ながら驚きが隠せない。ネオだけではなく、ヤス、カイゼル、ケイも全員が言葉を失い、目を見開いてユウトを見る。
そんなので驚かないのは全く何も知らない者か、異世界から召喚された
その全員の反応にユウトは照れくさそうに頭を抱えながら、「実は......はい」とぺこぺこ頭を下げていた。
すると今度は、これまでほぼ静観気味であったケイが二人にして質問する。
「お前ら、なんで冒険者なんかやってんだ?」
ぶっきらぼうで、しかしその質問は的を得ていた。
竜人族というだけでどこにでも重宝される可能性があるルゼアに、ルゼアより強いとされている(ケイ達視点)ユウトがわざわざ冒険者になるメリットがない。
冒険者カードには身本証明書みたいな意味合いもあるが、二人の実力――――特にユウトの実力が本物であれば、どこかの国の紋章付き、つまりは国仕えの証だけで身分証明書としては十分だ。
それをせずに冒険者をやっているということは、何か成し遂げたい偉業や目的があるからに違いないとも考えられる。
ケイの質問はそれらの意味も含めたような質問だった。言い方に少々難があるのは彼女の性格故で仕方ないことである。
それに対してルゼアが答えようとした時、ユウトが腕を前に出してその行動を制止すると「俺が言うよ」と言って返答した。
「簡単に言えば情報を集めているからかな」
「情報?」
ネオが聞き返す。それに対して、ユウトは一瞬逡巡するとハッキリと告げることにした。
「俺は妹を探してる。魔族に連れ去られた妹を」
先ほどまで和気あいあいとしていた空気が一気に重たくなった。いや、それだけユウトの言葉に重みがあったと言うべきか。
そして、ユウトは言葉を続ける。
「俺とルゼアはそん時にたまたま出会ったのさ。そして、ルゼアは“恋人”なんだのと言っているが、結局それって俺に協力してくれるって言ってくれてるようなものなんだ」
「何を今更。もう決めたことじゃ。わらわの意思は固いぞ?」
「わかってる。それで、俺とルゼアは妹もしくは魔族で動きがなかったかの情報を集めるために冒険者になった。
ここだったらいろんなところから訪れる冒険者やギルドの受付嬢が情報を持ってきてくれたりすると思ったからさ。
あと、もう一つ言えば、強力な魔道具を探しに」
「強力な魔道具っていうとアーティファクトのことか?」
「知ってたんだな。まあ、ベテランとなればそりゃあ知ってるか。そう、それだ。
ルゼアは俺自身のことを強いと言ってくれるけど、俺自身はまだまだだと思ってる。そして、俺自身が強くなるためにはそれが必要なんだ」
そんな言葉をユウトはこれまでのことを思い出していった。
この世界に来たのはまだ1か月とちょっと。しかし、とてつもなく濃い時間だった。
そして、その時間の中でも特に圧縮された濃度の高い時間はやはり魔王城での戦いであるというほかない。
そこで本来だったら味わう必要もない経験をし、一度はどん底まで叩き落された。
しかし、こうして立ち上がってきたのは決して失いたくないものがあったからこそ。
その失ったものを取り出すためだったらどんな噂話であろうとよろこんで勇歩こう。
「だから、それがあるかもしれない可能性が1パーセントでも残っているのなら、俺はどんな危険な場所であろうと誰に制止されようと行くつもりだ」
「......つまり、それはオレ達が止めるかもしれないという場所にも行くということだな?」
「ああ、そういうことだ」
ユウトの力強い返事を聞くと頬杖をついていたケイは初めて体を起こした。
そして、今度は背もたれに体を預けるように寄り掛かると頭の後ろで手を組む。
「まあ、別にオレ達にはどうでもいいことだ。そんな覚悟をした奴は結構見てきたが、そんな覚悟をしても死ぬときは死ぬし、生き残る奴は生き残る。
そもそもこれはお前の人生だ。お前に決める権利があるのは当然な話だ。
ただし、それにオレ達を巻き込むんじゃねぇぞ」
「わかった」
ケイはキリッと睨みつけるようにユウトを見た。それに対し、ユウトは臆せずに見つめ返す。
しばらくすると、ケイは目を逸らし、ユウトも「そろそろ俺達は一度報告も兼ねて戻ろうか」とルゼアに提案し席を外し始めた。
そして、ユウトとルゼアが立ち上がり、椅子をきちっと机に戻すと突然ケイに話しかけられた。
「これが最後の質問だ。お前.....オレに対して気になることはねぇのか?」
「気になる?」
ユウトはそう呟くとケイを顔をじろじろと観察し始めた。その視線にケイは変わらぬムスッとした態度をしている。
しばらく眺めていたユウトであったが、結局わからずに眉を八の字にすると苦し紛れに発言した。
「美人なところ......とか?」
「~~~~~~!?」
「こやつ、何を急に言い出しとるんじゃ!?」
「わ~お、うちの団長が口説かれた」
とりあえず確かにユウトが抱いた「美人だよな......怖いけど」の「怖いけど」を抜いたその発言にケイは思わず目を見開き、僅かに頬を紅潮させる。
その突然のユウトの発言にルゼアも尻尾でもってユウトに物理的にツッコミ、ネオを筆頭に「まるであの団長を口説く人がいるとはねぇ」と感心した表情をしている。
そして、ケイはユウトのあまりにもストレートに思わず少しフリーズしていたことに気付くとガッと立ち上がる。
それから、片足を机に乗せ、腰に携えてる剣を引き抜いてユウトに突き付けた。
「次にそんなこと言ってみろ! ぶっ殺すぞ!」
「どうどうどうですよ、ケイちゃん。照れ隠しに殺しちゃったら物騒だからその剣収めて」
「大丈夫っすよ、団長。団長はかっこいいっすよ」
「ええ、ヤスの言う通りです。確かに団長は美人.......ごほん、失礼。団長は凛々しいですよ」
そう言いながら、ネオはケイを羽交い絞めにして、ヤスとカイゼルがケイの両腕を必死になって拘束している。
そうでもしなければ今にも斬りそうな勢いであるからだ。加えて、三人がかりで捕まえているのに僅かに前進している。
確かに、ケイという人物はその不良少女感溢れる見た目に反して力は相当なものらしい。
まあ、そうでもなければ、修練場でルゼアと軽くとはいえあんな攻防を見せれるはずもないが。
「お二人とも、特にユウトさん! あなたは早くここから去ってください! でないと、ケイちゃんがずっと羞恥心で暴走し続けます!」
「しゅ、羞恥心でそうなるのか......」
「なんとも難儀な乙女じゃの」
ユウトとルゼアは驚きと困惑が混ざったような表情でケイを見ながら、ネオの言う通りにその場から足早にレースの家まで移動していった。
そして、ユウト達の姿がギルドから消えてしばらくして、ケイはようやく落ち着きを取り乱した。
「すまん、少し取り乱した」
「あれは普通少しじゃ済まないからね。それはそうと、珍しいじゃん。あんな反応見せるなんてさ。いつもらしくないじゃん」
「いつもらしくねぇ......まあ、確かに今のはいつもらしくなかったな。なんつーか、すげー調子狂うような言い方だったからつい」
「ってことは、全く邪気がなかったってことっすよね?」
「確実にそうとは言い切れませんが、彼の発言からは私からしても噓偽りを言っているような気がしませんでした」
「なーるほど。つまりは普段言われることないガチ褒めを言われたから照れて―――――痛っ!?」
ケイは自分を弄ろうとしたネオの頭に先制チョップ。それによって、ネオは叩かれた痛みと舌を噛んだ痛みに同時に襲われ、頭と口を同時に抑える面白い恰好を取り始めた。
そんなことをケイは気にもかけることもなく、ふとユウトの「アーティファクトのある場所に必ず向かう」という発言を思い出した。
そして、再び会いそうな予感がしながらも「まさかな」と告げて席に座って深くため息を吐いた。
******
「ふふふっ、そんな面白いことがあったんですね」
ユウト達がレースの家に戻ってくるとレースの部屋でギルドであったことを話した。
すると、そのことの本末にレースは思わず笑みがこぼれる。
「笑い事じゃないよ~。照れ隠しで殺されかけるなんて初めてだし」
「まあ、あれはお主が全面的に悪いがな」
ルゼアは頬を膨らましむくれた顔でユウトに告げる。
それに対し、「いやいや、別に特に変な意味は持ってないよ?」とユウトが弁明するが、ルゼアはユウトの顔を見るなりプイッと顔を背けた。
そんな様子をレースは楽しんでいると「そういえば」と別の話をし始めた。
「ユウトさん達にお伝えしたい話があったんです」
「俺達に?」
「はい。実はユウトさん達が返ってくる前にギルドの方と話していて、それで本来ならランク的に無理なところユウトさん達は特別にダンジョンへ潜る許可が下りました」
その言葉にユウトが「マジか」という一方で、ルゼアは少し怪訝な顔をして尋ねた。
「いつの間にそんなことをしていたのじゃ?」
「まあ、何と言いますか、ダンジョンの噂を話した時に酷く興味を持たれている様子だったので、もしかしたらと思い一応許可を取りました。
もしかしたら余計なことだった可能性もあるので、余計だったのであればそのまま無視して構いませんよ」
「いや、むしろありがとう。さすがに禁止されてる場所に押し入って入るのは気が引けるからな」
「ですが、一つ条件があるらしいのです」
「条件」
「はい、その条件というのが――――」
その条件を話した翌日、ユウトとルゼアは一緒にダンジョンに潜ることになったパーティを紹介された。
その人物達はもちろん良く知る人物で......
「茨姫パーティです」
「やっぱり、会うことになったかぁ......」
レースに紹介されたケイは顔を手で覆いながら、深々とため息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます