第10話 反撃の銃弾
ユウトは生まれ変わったような自分の新しい感覚に馴染みながら、遠くに見える魔王城へと辿り着いた。
その魔王場は崖上に立っており、その作りはまがまがしく見える。
空が曇天という事からまさにザ・魔王城とも感じさせそうな場所だ。
もっとも現在のレベルに適した攻略難易度かはわからないが。
ユウトはその魔王場の入り口に近づいていく。
そして、その前に辿り着くと右手を向けた。
門番の2人がユウトに気付いて「何者だ!?」と槍を構えながら、こちらに好戦的な姿勢を見せてきた。
となれば、仕方がない。相手が殺す気ならば、こちらもそのつもりで行く。
「せっかくの襲撃だ。派手に行かせてもらうぜ――――――爆炎豪」
ユウトは右手に魔法陣を作り出して魔力を集中させると火球を作り出し、それをさらに圧縮いていく。
そして、その火球を一気に解き放った。
その火球は砲撃となって直径5メートルはありそうなまさにドラゴンのブレスのような炎であった。
その攻撃を防ごうと門番の2人が「魔法防御結界」と告げて、自身の正面に壁を作り出すが容易く壊される。
火炎旋風を横向きに放ったような勢いのそれは門番を一瞬にして消し炭にしながら、固く閉ざされていた門を熱と衝撃で破壊していく。
その音はまさに轟音。城を揺らすような音が物理的な衝撃となって城内の至る所に伝わり、像や花瓶などのオブジェクトを破壊していく。
多くの魔族兵がその揺れの原点に近づいていくとそこは辺り一帯が煙で包まれていた。
まるで肌に直接火を当てられているかのような痛みと熱、そして周囲は至るところで炎が燃え移っている。
「何があった!?」「襲撃者は誰だ!」「生存者はすぐにこの場から撤退させろ!」
様々な兵士達の声が飛び交う。
ややスムーズなやり取りは数十分前にあった脱走事件があったからだ。
それ故に、警戒モードになっていて迅速な行動が取れている。
そして同時に、襲撃者についてもルゼアを捕まえた時の兵士はやや勘づいていた。
その兵士達は大量の煙が外へと抜けていく門に目を向ける。
その煙から次第に黒いシルエットが浮かび上がり、煙の尾を引きながら襲撃者は現れた。
そして、脱走した一人を知っている兵士達はその襲撃者――――ユウトを見て「やはりか」と思うと同時に思わず息を呑んだ。
それはユウトから伝わってくる圧倒的強者のオーラ。
ルゼアに助けられた時のユウトからは感じなかった明らかな異質な感覚。
槍、剣、弓、銃と各々持っている武器がカタカタと震えるのを感じる。
ユウトは周囲に目を向けるとざっと兵士のいる位置を確認した。
そして、その場で大きく息を吸うと叫ぶ。
「俺は出来る限り殺したくない。たとえ、妹を攫った魔王の兵士でもルゼアを捕まえた兵士でも俺を邪魔するものでなければ。
それが俺と
ユウトは右手で魔王銃を取り出すとその銃を兵士達に向ける。
「死にてぇ奴だけかかってこい!」
「「「「「うおおおおお!」」」」」
ユウトの言葉に己の恐怖を紛らわすように叫び始めた兵士達が一斉に攻撃を始めた。
正面にある横幅のある巨大な階段のそばから銃を構えた兵士がユウトに狙いを定めて火炎弾を放つ。
そして、二階から弓を構えた兵士達がする尖った矢じりをユウトに向けて放った。
その軌道、弾速を予測するとユウトはその場を蹴り込んで躱し、正面から向かって来る兵士にそのまま向けていた銃口を放つ。
数発撃った火炎弾が兵士数人を焼き殺す。しかし、他には武器で防いだものがいた。
やはり伊達に武術で城内の警備を任されているわけではないらしい。
しかし、あくまでそれだけだ。
ユウトはその生き残った兵士の1人に肉薄すると左拳を腰まで下ろし、兵士が剣で防いでいる状態にもかかわらずボディブローを決めた。
すると、その拳は容易く剣を粉々に破壊してその後ろにあった兵士の腹部を殴り、壁に向かって飛ばしていく。
「うおおおおお!」
その時、左側から顔面目掛けて槍の突きが襲いかかった。
しかし、ユウトは軽く上体を逸らして躱す。その槍はやや前髪を切り裂くほどのスレスレで。
そして、その槍の胴部分を左手で掴むとそのまま手前側に引っ張った。
それによって近づいた魔族兵の腹部を思いっきり蹴り飛ばして壁に叩きつけると同時に右手を後ろに向ける。
「うがっ!」
「来るのはわかってた」
ユウトは銃の引き金を引くと背後にいた剣の兵士の足を撃ち抜いた。
そして、振り向きざまに鋭く瞳孔が収縮した眼で見ながら、体を捻り左手の裏拳でその兵士の顔面を殴り飛ばす。
するとすぐに、ユウトは背後から銃の兵士の発砲音が聞こえた。
恐らく、最初にユウトにやって来た近接兵がやられて逆に射線が取れたからだろう。
そんなことを考えながら、その場で大きくバク転する。
それで火炎弾や氷結弾を躱すと自身の体が反転している状態で無音で向かって来る矢に火炎弾を放った。
矢を迎撃するとバク転しながら一人の兵士に近づき、兵士の直前で大きく跳ね上がるとサマーソルトキックで床に叩きつけた。
そして、素早く銃口を階段を挟んで反対側にいる兵士に向けて火炎弾を放つ。
その弾が直撃するのを見届けると同時に真上に跳躍すると二階の手すりに捕まって、二階に上がる。
その勢いですぐそばの弓の兵士を蹴り飛ばして壁に叩きつけた。
着地した瞬間に弓が飛んできたが、それを左手でキャッチするとそれを投げ返して遠くの弓の兵士の心臓を射抜く。
「緋連」
ユウトはその左手をそのまま一階部分にいる残りの近接兵に向かって、空中から作り出した火の剣を放った。
それはそれぞれの兵士に向かって着弾し、どれだけ厚い装備を纏っていようと関係なく焼き殺していく。
襲ってくる兵士がいなくなるとユウトはルゼアに見せてもらった古びた地図を思い出しながら場内を移動し始めた。
途中、襲撃音を聞きつけた他の兵士が襲ってくるが、それを体術と魔法でもって撃破していく。
そして、場内を巡って魔王のいる場所を目指した。
*****
「ご、ご報告があります! 城内にいる兵士の大半がやられています。そして、襲撃者は未だ城内を走り回っていまして、ここに来るのは時間の問題かと存じ上げます!」
「くっ、またか!」
場所は変わって魔王城。
もう何度目かの兵士の被害連絡に魔王は頭を悩ましていた。
その悩んだ顔を見るたびにルゼアがほくそ笑む。
「お主が生きたいのなら、早くこの場から逃げることじゃの」
「黙れ! 貴様が人質である限りあのエサは手出しできん」
とはいえ、その言葉とは反対に焦ったような顔が隠せない。
ここでどうにかしなければ
故に、魔王は「ただの攻撃では止まらないなら」とあることを決断した。
そして、ほくそ笑むルゼアのの首に繋がれた鎖を引っ張って動かすと壁に移動していく。
すると、魔王はおもむろにその壁を大きく破壊した。
その破壊した壁の眼下には魔王城の本館が見えている。
そして、そのすぐ近くには横に道の繋がった別館もある。
その不審な行動をし始めた魔王にルゼアは思わず尋ねた。
「お主、一体何をするつもりじゃ?」
「どんなに強い人間でも中心で膨張した熱には勝てまい。それが巨大で何もかもの飲み込むほどだったらなおさらだ」
「......?」
「俺はな、いざという時を用意しておくんだ。本当は対勇者用であったが仕方あるまい。もとより、この場所は消すはずだったから丁度いい」
「お主......まさか!?」
「ああ、この城にはここを除いて壁にいくつもの爆破魔法陣を仕込んであるのだ。
バレないように壁の内側に仕込みながらな。そして、その魔法陣はさらに大きな魔法陣の頂点となっている。
そのいくつもの魔法陣が発動した時に完成する極大爆炎魔法陣は見ものだぞ?
お前の惚れたという男の最後に相応しい火葬だ。是非とも見るがいい」
「こやつ......!」
ルゼアは思わず顔を歪める。
その表情に魔王は愉悦感を得ると右手の人差し指ついている指輪を自身の前に出した。
そして、その指輪にある宝石を光らせた。
「待て―――――」
「我が城ととも滅びよ、蛮勇」
――――――――ドゴオオオオォォォォン!
眼下に城の本館を覆いつくすような巨大な魔法陣が空中に浮かび上がった瞬間、その場一体が光の球体に包まれた。
音よりも速く光がルゼアの視界を埋め尽くし、その光が膨張とともに本館を一気に飲み込んだ。
それだけではない。外にあった城壁も別館もその場にある一切合切を眩しく輝く光の半円が消し去った。
ルゼアは声も出せず、そして僅かに開けるか細い視界からその光景を眺めていた。
爆風とそれに伴った熱と衝撃波が伝わってくる。
近くにあった魔王の間がある高い塔はもともと付与されていた防御結界によって完全に壊れることはなかったが、半壊までにボロボロにした。
球体が収縮していくと今度は巨大なキノコ雲が空高く昇っていく。
もともと曇天だった空がその煙でさらに辺りを暗くしていく。
当然ながら、味方もろとも破壊したその爆発源は煙によって見えなくなっていた。
「なんてこと......」
ルゼアは思わず衝撃が隠せなかった。まるであり得ない光景を見ているかのように。
その反応を見て魔王はほくそ笑む。
「ふんっ、もう少し絶望の表情を期待したものだが......まあ、あまりの衝撃で感情すら出てこないという事だろう。
どうだ? 惚れた男の壮大な火葬を見た感想は――――――」
「バカか、お主は。そっちに驚いてるわけではない。
遠くから感じ取った魔力から異質じゃと思っておったが、まさかの......クク、カハハハハ!」
「何を笑っている? ついに頭がおかしくなったか?」
ルゼアの突然の笑い声に魔王は不審な目を向けた。
すると、ルゼアは嬉しそうにもやや困った顔で告げた。
「そりゃあおかしくもなる。だって、わらわの惚れた男はとんでもない強さになって戻ってきたからの」
「!?」
その瞬間、まだ縦に伸びるキノコ雲から全身を真っ赤に燃やしたドラゴンが現れた。
そのドラゴンは西洋よりも蛇のような東洋の“龍”に近く、それは全て炎で出来ている。
そして、そのドラゴンもとい龍は周囲を旋回しながら、煙を薙ぎ払った。
すると、大きく抉れた爆心地には一人の少年が無傷で立っているではないか。
魔王はその少年――――ユウトが生きていることに衝撃が隠せなかった。
その衝撃度合いは言葉にも出せず、思わず足が後ろに後退するほど。
額からは尋常じゃない冷たい汗を感じ、肌は戦慄によって鳥肌が立っている。
魔王の思考が乱れる。どうしてこうなったのか。考えても考えがまとまらない。
生きてるはずがない。竜も殺せる爆発にまともに直撃したはずだ。
にもかかわらず、生きている。
「ど、どういうことだ!? ち、近づくな!」
魔王は乱れた思考を必死に整理しながら、何か使えるものがないか探す。
その時、すぐそばにルゼアがいた。そうだこんな時のために人質がいるではないか。
そして、そのルゼアに右手を向けてすぐに威嚇する。
すると、その魔王の行動に対してルゼアが告げた。
「それは悪手じゃ」
その瞬間、ユウトの周りを旋回していた炎の龍が大きく口を開けて高速で接近した。
そして、その炎の龍が炎で出来た鋭い牙で右腕を噛み千切る――――もとい、消し炭にした。
「がああああ!」
魔王は思わず血も出やしない右肩を抑える。
そして、壮絶な痛みに後ずさりしながら叫び狂った。
ユウトは魔王の姿が見えなくなると地面を蹴って跳躍、そして足元から勢いよく炎を噴射しながら空中を飛んでいく。
ユウトは開いた壁から魔王の間に入るとすぐそばのルゼアに声をかける。
「ルゼア、あと少しだけ我慢してくれ。安全になったらその鎖を壊すから」
「わかったのじゃ。ここでお主の助けを待っておる。じゃから、行ってくるのじゃ」
「ああ」
ユウトは短く返答すると右肩を抑えた魔王と相対する。
そして、銃口を向けつと告げた。
「お前は誰だ? 本物じゃないな? あいつはどこにいる?」
「!......そんなに簡単に見破られるとはな。そうだ、我はあくまで
「さっきは慌ててたくせに随分と切り替え早いみたいだな。さすが魔王ってか? まあ、そんなことはどうでもいいか。さっさと妹の居場所を答えろ」
「なら、聞く相手が違うな。我は与えられた情報で動く存在だからな。それは
「......そうか、わかった。なら、俺達のために死んでくれ」
「断る!―――――氷断刃」
魔王もとい分身体は左手を向けると空中から斧のような刃が湾曲した氷の武器がいくつも生成される。
そして、それをユウトに向かって放った。
ユウトは影武者に接近しながら、その氷の武器を火炎弾で撃ち落としていく。
「蒼破山」
ユウトの接近を警戒した分身体は床に手を付けるとユウトに向かって縦に伸びた山を作り出した。
先が尖っているため剣山の方が近いそれは当たればひとたまりもない。
しかし、当たらなければどうってことない。
ユウトは直線にしか来ないそれを横に躱すと素早く銃口を向ける。
「捕らえた! 氷断―――――」
ユウトの軌道を左右に絞った分身体はユウトの移動した方向に合わせて先ほどよりも圧倒的な氷武器を生成しようとした。
しかし、正面にいるユウトの顔は余裕そうであった。まるで追い込んでいるのはこっちとばかりに。
「俺の龍はまだ生きているぞ」
「なっ!?―――――しまった!」
ユウトは左手の人差し指を上げると分身体の真下から先ほどの炎の龍を出現させた。
その龍は分身体を飲み込もうと大きく口を開けている。
それに対し、分身体は氷の壁を真下に敷いて間一髪食われることを防いだ。
しかし、まだユウトの攻撃ターンが終わったわけではない。
「じゃあな―――――火炎弾フルバースト」
ユウトは右手の魔法銃に限界以上の魔力を流し込み、引き金を引いて一気に発射した。
その勢いで魔法銃の銃口は花が咲いたように壊れてしまったが、撃ち出された火炎弾は通常の数千倍以上の大きさでそれはまさに大砲の弾であった。
そして、その巨大火炎弾は龍に気を取られた分身体の全身を包み込んだ。
「ああああああ!」
分身体の断末魔の叫びが周囲に轟くとともにユウトのルゼア救出作戦も終わりを告げた。
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