第6話 脱出方法

 ユウトは手に持ったペンダントが光り出したことに驚いた。

 そして、ただ赤い何の変哲もないそれにユウトは何かを吸われる感覚を感じた。

 突然何が起こったのかわからないが、それほど嫌な感覚ではなかった。


「お主よ、それはなんじゃ?」


 ルゼアはユウトの様子に気付くと思わず尋ねる。

 それに対して、ユウトは手に持ったペンダントを見ながら答えた。


「わからない。ただ何となく手に持っただけなんだ。

 ただ少し何かが吸われる感覚があったってくらいで......」


「何かが吸われる? もしかしたら、それはお主の魔力かもしれぬな。

 そして、そのペンダントは魔道具かはたまたアーティファクトか。

 アーティファクトは持ち主を選ぶ場合があるのじゃ。もしそれに選ばれたとしたら持っておいて損はない」


「そうのなのか。なら、ありがたく頂戴しようかな」


「遠慮することはありゃせん。わらわ達は狙われてるのだからな。

 それと言い忘れておったが、もしかしたら今の感覚で魔力を流す感覚がわかったのではないか?

 お主は魔法が使えなくとも魔力は無限に存在するからな」


「うーん、なんとなくぐらいだ。自分の中に何かが流れているのはなんとなくわかったけど、それを実際に流せてるかどうかと問われれば怪しい」


「なら、試してみればよい。主の腰に下げている者はなんじゃ?」


「魔法銃......魔道具だっけな」


 ユウトはペンダントを左手に持ち替えて、右手で魔法銃を引き抜くと適当な場所に狙いを定めた。

 そして、自分の中で流せてると思いながら引き金を引く。


―――――パン


 撃てた。一応撃つことは出来た。

 ただ、最初に見たように撃ち出された銃弾が壁に着弾しても発火することはなかった。

 少し壁を傷つけただけぐらいだ。


 今度は財宝の一つを狙い撃ってみる。

 しっかりと狙いを定めて撃つと狙った冠が弾けて跳んだ。

 しかし、やはり発火することはない。

 すると、それを見ていたルゼアは自身の見解を話し始めた。


「恐らくじゃが、それはただの魔法銃かもしれぬな」


「ただじゃない魔法銃があるってことか?」


「うむ。もともと発火の魔法陣が組み込まれた銃だったら、普通に魔力を流すだけで着弾すれば発火する銃が撃てる。いわばエンチャントされた銃じゃな。弓を撃つ時に使う矢にも同じことが言える」


 ルゼアは適当に金属器を手にとっては掲げ、眺める。


「しかし、それは恐らく本人の魔法を反映して撃ち出す銃じゃな。

 たとえば、所有者が氷魔法を使えるとしてその氷系統の何らかの魔法をその銃に使う。

 すると、その魔法に反映された銃が撃ち出せるということじゃ。

 これは魔力を増幅させたり、威力を高めたりする杖に近いかもな。

 ただし、杖に比べれば軽量や即撃ちに特化したそれは通常よりも威力は減少してしまうだろうがの」


「なら、今俺が撃ち出したのはただの魔力の塊ってことか? う~ん、威力は差程だろうな」


「まあ、確かにその通りじゃが、魔法銃は所有者の流し込んだ魔力量に威力が比例する。

 もちろん、入れ過ぎは暴発するが、お主の無限の魔力を可能な限り入れても相手をノックバックさせるぐらいじゃろうな

 それはお主の魔力の扱いが下手というのもあるが、そもそもその銃の限界値といった感じじゃ」


「ノックバックか......なら、この銃を使っても人を殺さないってことだな?」


「うむ。じゃから、安心して思う存分撃つが良いぞ」


「思う存分はダメでしょ......」


 やはり過酷な状況が二人の関係性を強めていくのか。こういうボケとツッコミのような言葉も増えてきた。


 そして、ユウトには次第に少しずつルゼアに安心感を抱き始めていた。

 この世界について何も知らないユウトが、知らない状態のまま魔王城を脱出する状況になってしまった。

 きっと一人なら最初に銃を取り出した兵士に殺されて既に人生終了ゲームオーバーを迎えていただろう。


 しかし、まるで希望の光のようにルゼアと出会えたことにユウトは安心したのだ。

 もはやその光にすがるような気持だったかもしれない。

 もちろん、妹を助け出すためには自分も強くならねばいけない。

 それでも、ユウトにとってこの状況であるからこそルゼアの存在が大きくなっていた。

 それは好きとはまた違う、まさに仲間といった感じだ。


 ユウトは銃を仕舞って、ペンダントを首につけるとしばらく探した。

 だが、あまり炎竜神の指輪や先ほどのペンダントのようなビビッとした感覚は現れなかった。

 なので、多少の装飾品や宝石をパーカーやズボンのポケットに詰め込むと財宝を漁りを終わらせた。


「ルゼア、そろそろ行こう。といっても、どこに行けばいいかわからないけど、少なからずここより遠くに」


「なら、わらわに任せておけ。この城の古い地図を見つけた。どうやら財宝と一緒に紛れ込んでいたようじゃ」


 そう言ってルゼアは右手に持ったボロボロの古びた紙を揺らしてアピールした。

 ユウトはルゼアの位置まで近づいていくとルゼアの広げた地図を見る。


「わらわ達がいるのは別館の東側二階じゃ。すぐ近くには本館を行き来する中央廊下があるが、そこは下手に近づかん方がよいじゃろう」


「そこは『全員倒してステルス作戦じゃな』とか言わないんだな」


「わらわを何だと思っておるのじゃ。わらわは竜人族の巫女じゃぞ? そんな野蛮な行動はせん」


「野蛮ね......」


 ユウトは「十分していたような」と思いつつも、状況が状況だったのでその感想を飲み込んだ。

 そして、ルゼアに話を促す。


「それで本館に行かないとすると別館の玄関から出るのか? でも、そこから出てもまだ敷地内のような気が......」


「そこはちとリスキーじゃな。だから、わらわは地下を使っていく」


「地下?」


「この地図じゃとわかりづらいが、この別館の下には地下水が流れておる。

 恐らくこの城全体の水管理の中心部じゃろうな。

 わらわ達はそこを目指して進んでいく。

 そして、その中心部を制圧して地下水に飛び込めば、その地下水はどこかの川に繋がっておるじゃろうから一気に城から脱出でき、城にも大ダメージでわらわ達は万々歳。どうじゃ?」


「わかった。それで行こう。バレた時は暴れるってことで」


「お、なかなかわらわの好みの返答になってきたではないか。

 お主、もしかするとわらわを落とそうとしておるな?」


「ちげぇって。俺も少しは憂さ晴らしがしたいだけだよ」


 ユウトは地図から目を離すとやれやれといった様子で答えた。

 それは本当にそういう気持ちなのだが、どうにもこの見た目ロリはそっちの方に紐づけて面白がっている様子だ。


 ユウトは下手に関わると割に合わないと察したのか「さっさとずらかろう」と告げた。

 その言葉にルゼアは頷くと古びた地図を頼りに移動を開始する。

 宝物庫を出て周囲を確認しながら、西側へ移動していく。

 そして、そこにいた兵士に気付かれないようにコソコソ移動していき、階段を下っていく。


 階段を下るとすぐに扉があると地図には示されているのだが、その位置には銃を持っている兵士が突っ立っているだけで壁には何もない。


 ルゼアが地図とにらめっこしながら疑問符を浮かべた顔をしているとユウトがゲーム知識から「隠し扉じゃないか?」と告げた。


 それを確かめるためにユウトが銃で兵士の股間に向かって魔力弾を放つ。

 股間を当てられた兵士は痛みに悶えてうづくまるとルゼアが特攻して、掌底で顎を打ち抜き気絶させた。

 その廊下を見てみれば自分達が出てきた牢獄の反対側の位置だ。

 ここは守りが手薄なのか他に兵士がおらず、ルゼアにぶちのめされた兵士も未だに伸びている。


 ユウトは地図を見ながら壁を触っていく。

 すると、一部色が他と若干違う部分があった。

 そこをユウトが押していくとガコンとその部分だけがへこみ、すぐ近くの扉がガガガガと鈍い音を立てながら上にせり上がっていく。


「お手柄じゃ」


「ああ、ありがとう」


 ルゼアはそう言ってハイタッチを求めてきた。なので、ユウトはそのハイタッチに返していく。

 そして、その地下へと続く薄暗い螺旋階段を下っていった。

 壁には明りがあるため足元は明るいが、先が見えない。

 いくつも明りが続いているが、明りが弱いためか先を見通すほど暗くなっていく。


 どこまで続くかわからない階段で、ユウトはふとずっと疑問に思っていたことを聞いた。


「そういえば、ルゼアはどうして魔族に捕まっていたんだ? それはさっき言っていた巫女というのに関係があるのか?」


「こんなくらい階段を無言で歩くのもなんだし......そうじゃな、お主の質問に答えようかの。それで巫女関係があるかと言えば、当然大ありじゃ」


「それは一体どんなわけで?」


「魔族、もとい魔王はわらわの巫女としての力を欲している。

 それはお主が右手につけている炎竜神様もまた関係しておるのじゃが......幸いというか、あやつらはわらわの力さえあればよいと思っている。それだけじゃ不可能なのにな」


「魔王が求めてるのって?」


「この世界には二人の神がおるとされている。

 一人は光の女神ウォルニア、もう一人は闇の男神レガニス。

 その二人の力によってこの地は生み出されているとされている。

 ウォルニアは主に人の善い心、反対にレガニスは人に醜い心を司っておる。

 まさに善悪がハッキリとした神々じゃな」


「そのレガニスってのの必要性がわからないな。

 そもそもそういう話って“光の神が闇の神を倒して唯一神になりました”って感じじゃないのか? よく共存設定で普及で来たな」


「まあ、ややこしい話じゃが、闇の神もまた必要じゃったから存在してるのじゃ。

 わらわ達は悲しみを知っているから生き物を慈しみ、嫉妬があるから人は争ってよりよいものを作ろうとする。

 怒りだって人が人を殺したのに平然と日常を過ごしていたらおかしいじゃろ?

 そういうわけでそういう負の面の感情とも共に生きているから、わらわ達の感情はより多彩に表現できており、わらわ達種がよりよい環境で生きていける」


「レガニスも必要だったから存在してるってわけか」


「ま、そういうことじゃな。といっても、話の問題はそこではない。

 人族が光の神を、魔族が闇の神を崇めるようになったのが原因じゃ。

 きっかけはどうか知らない。わらわが生まれるはるか前から続いている話じゃからな。

 ただそういうわけで、今なお続いている人族と魔族が続けている戦争は主に宗教戦争ということになるかの」


 ルゼアは「少し話が逸れた」と告げると続けて話を始めた。


「そこで問題なのは魔王がその闇の神に強い信仰心を抱いていることじゃ。

 レガニスは負の感情を司る神でもあると同時に戦いの神。

 そして、魔族は力社会。武力で強い者が上に立つという社会なのじゃ。

 故に、戦いの神に祈りを捧げる者は多い。それで一番の武力を持つものは必然的にその神に強い信仰心を持つ。

 魔王が最終的になそうとしているのは魔神の復活なのかもしれないな」


「え、その神って存在するのか!?」


「定かじゃない。じゃが、あやつらはいると思っている。ただそれだけじゃ。

 そして、お主の妹は恐らくその魔神の生贄もしくは依り代の可能性が高い。

 それから、わらわは......恐らくその魔神の僕とされている邪竜神の復活のためじゃろうな」


「そんな不確かな存在のために俺の妹を......!」


 ユウトは思わず拳を握った。そして、拳に強く力が入る。

 怒りが込み上がってくる。たったそれだけのために関係のない自分達を、妹をこの世界に連れてきたというのか。

 

 ユウトの心に負の感情が湧き上がる。

 その瞬間、ユウトのペンダントが僅かに


 そのユウトの様子にルゼアは「落ち着け」というと優しく言葉を告げる。


「今のはただの推測じゃ。もしかしたら、全く見当違いの可能性もある。

 お主はまさか自分の妹が魔神の生贄にされている方を信じるというのか?」


「......いや、そんなはずがない。信じるはずがない。

 ありがとう、思わず勝手に思い込んでしまっていたみたいだ」


「気にするな。家族を奪われたのじゃ。そういう気持ちになるのも当然じゃ。

 お主がわらわを鉄格子から出してくれたように、わらわもまたお主を助けようじゃないか。

 持ちつ持たれつ。ギブアンドテイクじゃな」


「そっか。まあ、あまり足を引っ張らないように頑張るよ」


「それぐらいの心持でよい。さあ、最下段に着いたぞ。ここからがわらわ達の本番じゃ」


 長い螺旋を下り終えるとユウトとルゼアはすぐ近くにある扉のドアノブに手をかけた。

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