第3話
──翌日、キンキン後。魔王室。
キンキンするたび切なくなる。
キンキンってなんだろうなぁ。勇者よ……。
「はぁ」
「ため息とは悠長ですね」
「ハッ! ルー君! ついにノックすらしなくなったな。乙女の部屋に勝手に入ってくるなんて……信じられん!」
「何度もノックはしましたよ。居留守するからでしょう。それで、ほっぺにチュウはしたんですか?」
「……した」
「嘘ですね」
「し、したもん!」
「絶対嘘」
「……ぐぬぬ。どうしてわかったの?」
「そりゃ、みればわかります」
「サイコパスなのか?」
「違いますよ。魔王様の日頃の様子を見ていればわかりますよ。嘘下手ですからね。ド下手な自覚がないとでも?」
「ぐ、ぐ、ぐぬぬ。ルー君は最近、ほんと容赦ないな。ま、魔王に対してなんたる無礼……」
「だったらチュウしてきてくださいよ。嘘つく暇あるならチュウしてきてくださいよ。魔王と言うなら」
「……したもん。心の中で精一杯のチュウ」
「そういうのいらないので」
ガーーンッ。
「魔王様。あの計画なくして、魔王城の存続はありえません。もう来るところまで来てしまったのです。そろそろご自覚をお持ちください」
「わ、わかっておる。けどな。胸のこのあたりがキュンキュンしちゃって。辛くて」
んんっ。
ため息を吐いて首を横に振った。なんだルー君どうした。らしくないな。キュンキュンとか言ったのがまずかったか。
「この話はするかどうか、思い悩んでましたが。しましょう」
あ。そういう感じか。
「なんだい。改まって」
「いえね、恐らくこのままでは、勇者は死にますよ」
「へ? な、なにを冗談! あいつはわたしの次に強いやつだぞ? 死ぬわけない!」
「人界の奴らは今の勇者では魔王を倒せないと思い始めてます。なので、近い未来、勇者から聖剣を剥奪するでしょう。そうしたらどうなると思いますか?」
「勇者が勇者じゃなくなる?」
「そうです」
「そ、そうか。そ、そしたら……れ、レオン君とか呼んじゃってもいいのかな?」
「まぁ、良いんじゃないですか。勇者ではないのですから。って、そうじゃないでしょうがァ‼︎」
〝ドンッ!〟
「はぅ。怖いってばルー君」
「いいですか魔王様。勇者が聖剣剥奪なんてされたら、あの計画はとんざします。新しい勇者と魔王様がタイマンをするのか。はたまた、総攻撃を魔王城に仕掛けるのか」
「フッ。この魔王城に総攻撃を仕掛けようものならな、全てを消し炭にしてやるまでさ! それから、勇者はわたしがまもる!」
「まぁ、魔王様はそれでいいかもしれませんが、あいつら数だけは一丁前に居ますから。同時に全ての場所は守れません。たとえ勝っても魔界は半壊しますよ」
「あ。そうだった。だからほっぺにチュウするんだった」
「そうです。聖剣を保持した勇者をこちら側へ引き込む。それで永久なる停戦協定を結ぶのです。圧倒的な力の前では万物であろうと従わざるを得ません」
「ふ、ふむ。で、でもなあ」
「そのあとはあれですよ。この魔王城で子作りしたり、いちゃいちゃしたりし放題。それで納得してたじゃないですか。なのに半年。あぁ、あんたがまさかここまで恋に臆病だったとは。想定の遥か彼方を蛇行していきましたよ」
が、ガーーン。ま、また言った!
臆病者ってまた言った!
「ルー君。ほら昨日言った明後日は明日だから。明日こそ、ちゅ、ちゅ、チュウしてくるから!ほ、ほ、ほっぺたに!」
「はい。絶対ですよ。タイムリミットがきたら計画は全てパァ。子作りもちちくりあっていちゃいちゃも出来なくなるんですからね。そのこと、肝に命じておいてください」
「ぅ、ぅむ。別に子作りとかそんな飛躍したことは望んでないんだけどな。でも、添い寝ならしたいかもな。膝枕なら指定席にしてあるんだが、やっぱりなぁギュウってしてほしい。それで寝てみたい! 一度でいいから!」
「魔王様。一度と言わず毎日できますよ」
「ま、ま、まま毎日?!」
「ええ。そうですとも。毎日ギュッとされて幸せの絶頂に包まれながら眠れます。この部屋で、勇者と二人きりで」
「ほ、ほう。そ、そうだな。いちゃいちゃし放題なんだもんな!」
「えぇ、そうですとも! ですから明日こそは、何卒。この魔王城、しいては魔界の今後の安寧のために、お願いします」
「ま、まかせろ! ギュウッてしてくる!」
「いや、チュウですから。ギュウではありません」
「あ。ごめん。マチガエタ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます