第4話 執事くん視点
──魔王城。カフェテラス。昼下がりのひととき。
「……はぁ」
漏れるのはため息ばかりとは。情けないのは私のほうではないか……。
強引にくっ付けることも考えてはみたが、魔王様も勇者のやつもツンデレっぽいところがある。
万が一、ツンとツンがぶつかりあったらと考えると恐ろしくて行動には移れない。
特に魔王様の拗ねた時のツンと言ったらもう、手に負えるものではない。そのツンは地図から大陸がひとつ消えるほどだ。
とは言え、勇者には立場がある。
しがらみなど気にせずアタックできる魔王様から寄り添うことこそが安全策と言えるのに。
頬にキスをされれば鈍感っぽい勇者でも、さすがに気付くでしょう。そうしたら若い二人、燃え上がるのは一瞬。
だと言うのに……。
「はぁ……」
ため息を漏らし、祈ることしかできないとは……なんという無力。魔王様も今頃、昼食を取っているのだろうか……。
「おっ、どうしたよルシファー。ため息なんかついてよ」
「ベヒモスか。お前は呑気そうで羨ましいな」
長靴履いてクワを持ってる。何やってんだか。
「いやぁ、こうも平和が続いちまうとなぁ。なんとなく始めた畑だったが、これが意外と楽しい!芽が出たときにあれだけ感動したってのに、収穫の時はそれを超えた。涙が出ちまうほどよ」
「あ。そう」
「なんだぁ?ツレねぇな。一緒に畑やろうぜ!」
何言ってんだこいつ。畑……だと?
「やらないよ。一人でやってろ」
「へ。今、ひとりっつったか? お前は業務に追われるあまり、内情を全く把握してないようだな」
「どういう意味だ? クーデターでも起こるのか?」
「まぁ、革命と言えば、そうかもしれねえな」
「おのれ、貴様! 見損なったぞ!」
「待て待て。そうじゃない。畑倶楽部だ。会員数は百を超えた」
「はたけくらぶ?」
「そうだ。今この魔王城はな、空前の畑ブームが到来しているんだ! どうだルシファー。お前は怒りっぽいところがあるからな。ひと耕し行こうぜ、畑へ!」
「遠慮する。勝手にやってろ」
「ツレねえなぁ。今のお前に必要なものは畑だ。俺にはわかるんだよ。疲れた体には畑だ!」
これは深刻だな。平和ボケがやばい。
人界は恐らく戦争の準備に躍起になってるというのに。
なんとしても、魔王様には成し遂げてもらわねば。この魔界、滅んでしまうやもしれん。
「ほら、一本取っとけ」
「いや、いらないよ」
「遠慮すんなよ。俺らの仲だろ。お前が頑張ってるのは知ってるんだ。これくらいさせてくれ」
大根一本渡して何を言ってるんだこいつ。
「そのまま味噌付けて食っても美味いが、塩漬けにしても美味いぞ〜。それにな、今、たくあんにも挑戦してるんだ。出来上がったらご馳走してやるよ。まだまだ先になりそうだがな」
この話、断ると長引きそうだな……。
さっきから何度も断ってるのに聞きゃしない。
「あ、あぁ。楽しみにしているよ。ありがとう」
「ははっ。じゃあお前も今日から畑倶楽部の会員だ! よろしくさん!」
なんだと?
もはや会話にすらならないのか?
……あぁ、もう確信したよ。
魔王様が失敗したら、魔界は確実に滅びる。
魔界は不慣れな平和でトリップしてしまってるんだ。
「あっ、浅漬けってのもいいぞ! とりあえずうち来いや! 野菜談義しようぜルシファーよお! なぁ、聞いてるのか? おーーい!」
これはもう、勇者とコンタクトを取るしか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます