第2話 魔王ソフィ視点


 ──魔王城。厨房。


「やあやあベル君。今晩は鳥の唐揚げが食べたい気分だ。お願いできるかな?」


「ははっ。このベルゼブブ、魔王様に至高の夕食をご用意いたします。鳥の唐揚げ。油分控えめでヘルシーかつ美味しく揚げてまいりましょう」


「うむ。よろしく頼んだ!」


 さて、魔王室に戻るとするか!


 ◇

 「唐揚げ唐揚げベルゼブブ〜♪

  美味しい美味しいベルゼブブ〜♪

  ベルゼブブぅぅの唐揚げ〜♪」


 トントンッ


「はーい。唐揚げか?」

「ルシファーです。よろしいでしょうか」

「あー、ルー君ね。お好きにどーぞー」


 ガチャン。


「失礼いたします。魔王様。廊下まで響いておりましたよ。お行儀が悪いではありませんか」


「そんな風に思うのはルー君だけだ。この魔王城でわたしは断固たる地位があるのだから。魔王と言う名のな!」


「はいはいわかりましたよ。それで勇者のやつとの進捗状況は?」


「うむ。今日も引き分けってことにしといてやった!ちょちょいのちょいっとな!」


「そうではありません。勇者との進捗状況・・・・です。二度も言わせないでくださいよ」


 う。これは怒られる予感……。

 もう既にルー君怒ってるし……。


「そ、それは、あいも変わらず。な、なんというか」


「あぁ。もう。なにをやっておられるのですか。時間はないのですよ? 冗談抜きでやばいですよ? その旨、今朝お話しましたよね?」


「わ、わかってはおるのだが。な?」


「な? じゃありません。魔界の今後の命運にも関わることです」


「で、でもなぁ……」


「魔王様! なにを弱気になっておられるのですか。間接キッスを平然としてくる男。だったらそれ以上のことをするしかないでしょう?」


「う、うぅ。わかってはおるのだ。わかってはおるのだぞ……。でもなぁ、いざ勇者を目の前にすると、胸が痛くて、辛くて……。キュンキュンしちゃって」


「あー、もうそうやって何ヶ月いってるんですか!私の見立てでは、残された時間は後一ヶ月もありません。あの計画実行のためには、明日、明後日にはほっぺにチュウしないと到底間に合いません」


「だ、だって、勇者のほっぺはな、雪解け水のように綺麗なほっぺなんだ。そ、そこにチュウだなんて……わたし恥ずかしくてできない!」


「馬鹿なこと言うんじゃありませんッ‼︎」


 〝ドンッ〟


「ひぃ! ルー君怖いよ。これでもわたしは、ま、魔王だぞ? か、か、壁ドンなど、なんたる無礼!」


「だったら勇者とチュウしてきてくださいよ。魔王だと言うならしてきてくださいよ」


「あ、明後日には」


 ルー君はどうせ明日も同じこと言うからな。

 毎回明後日って言えばいい。


 気付いてしまったのだ! わはは!


「そうやって言って半年経ったんですよ。もう待てません。一刻の猶予もありません!」


「だ、だって胸が苦しくて! でも明後日には」


「なるほど。聞き間違いかと思いましたが、魔王様は明後日と言ってらしたのですね。どうせ私が明日も同じこと言うからと、大方そんなところでしょうか。ガッカリしましたよ」


 ぐ、ぐぬぬ。


「どうしたのさルー君。今日はいつにも増して口うるさいじゃないか」


「そりゃそうでしょう? 今日は二人がキンキンし始めて一年の記念日。お祝いもしないで。あれだけ今朝念押ししたのに」


「で、でもな。フルーツサンド食べたぞ」


「あーもうダメだ。向こうは一年記念日ってわかってるじゃないですか。こんな偶然に魔王様の大好物のフルーツサンドを持参する勇者がどこにいますか。どうせ手作りだったんでしょ?」


「うむ。それは……もちろん」


「ほらやっぱり。一年記念日だからって早起きして腕によりをかけて、作ったんですよ! それをあんたはほっぺにチュウすら出来ずに帰ってくるなんて。ああ情けない。私はね、情けないですよ」


「あ、あんたって。それは言い過ぎでしょ、わたしは、ま、魔王だぞ?」


「この臆病者! 魔王様はね、恋に臆病過ぎるんですよ!」


 が、ガーーン。


「わ、わたしが、臆病者……。魔界最強の魔王なのに……臆病者……。こ、こんなにも強いのに……」


「と・に・か・く! 明日はほっぺにチュウしてくること。もし出来なかったら、プランBに移行しますから。覚悟しておいてください」


 ぷ、プランB……だめだ、それだけは……それだけは……。そんな卑猥なのは絶対ダメだ!


 明日こそチュウしよう。……な、なるべく。


「……がんばる」

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