第4話 リリアとの出会い

村から出た鈴木誠はまた宛もなく平原を歩き彷徨う事になった。



しかし村で食料と水分の確保は出来た。騙されそうになったが仕方が無いだろう。明らかに怪しい身なりだしな。



ちなみに《時停止》はまだ解いていない。騎士達が追いかけてくるからだ。



平原の草花や風さえも動きは無く完全に時が止まっていた。



魔物も同様に完全に停止している。だからという訳では無いが恐怖もなく倒す事も容易だった。



流石に食料が無くなってからは食べれそうな魔物を倒しては《時停止》を解除し、火を起こし焼いて食べた。調味料は無く血生臭かったがそれでも空腹には耐えられなかった。



それでも人型の魔物を食べるのは抵抗があり、豚や鹿の魔物をより好んで食べた。あまり美味くは無かったが。



ふぅ…それにしても街や村はあんまり無いんだな。あれから集落みたいな所には出くわさない。



そして10日経っただろうか?僕はそろそろ《時停止》を止める事にした。



なぜか?それは暇だからだ。



考えて見てほしい。自分以外誰も動かない世界を。



つまらないだろう。何も張合いがない。何も起きない。実に楽しくなかった10日間だったのだ。だからこそ……鈴木誠は危険を冒してでも《時停止》を止めたのだ。



ちなみに魔力は枯渇しなかった。MP218は伊達ではなかったようだ。MPは一定時間を経過すると回復する様で完全に枯渇すると言うことは無かった。



そして体の一部分を異次元から発生させる事を《身体しんたい時越じえつ》と呼ぶ事にした。やはり言葉にするとイメージしやすいからだ。



キャーーーー!



突然誰かの声が聞こえてきた。これも《時停止》を止めたから起きた事件だ。



僕は嬉々として声のする方へ走っていく。



「うお!魔物か!しかもでけぇ……」



そこには巨大な棍棒を上に掲げた3つ目で黒色の巨人…牛の魔物がいた。



『くっ…もはやこれまでか……』



対するは横転した馬車と冒険者風の2人組。


1人は金髪ショートカットの成人女性。左肩を殴られたのか右手で肩を抑えている。



もう1人はピンク色の腰まである長い髪を1つ結びにした身長の低い幼女。武器は持って無い事から非戦闘員という感じだろう。



これは──絶体絶命という状況だろう。



僕は元々厄介事に首を突っ込む気は無かった。ハプニングを求めていた事などもう忘れてしまいたい程だ。しかし目の前の女性を見殺しにできるほど鬼では無い。



ふぅ……やるか。



《時停止》を使う。



先程と状況が変わり牛の魔物が持つ棍棒は金髪の女性の目の前まで迫っていた。



「あっぶな!もう少しで当たるとこだったじゃん。」



僕は牛の魔物の横から魔法陣で何度もぶつかった。何度も何度も左右から。さぁて。《時停止》を解除してみるか……



《時停止》解除──刹那。牛の魔物は左右に物凄い勢いで揺れながらその場で血だらけになって立ったまま絶命した。



「きゃ!なに?何が起こったの?」金髪女性は腰が抜けたのか目の前で絶命する牛の魔物から臀で後ずさる様に逃げようとする。



「シリアス大丈夫なの?」ピンク髪の幼女は金髪女性が無事なことに安堵していた。



とりあえず馬車は直せないが2人が無事だったのだ。もうこれで大丈夫な筈だ。



じゃ。あとはお2人でよろしく。みたいな感じで一言も話さずその場を後にしようとする。



「ちょっと待ってくれ!」金髪女性が俺に気づいてしまった。まぁこれだけ近くにいるんだ。気づかれてしまうだろうな。



「僕は忙しいんだ。じゃ。」



「急いでいるのか?す、すまない。それでも少しでいい。待ってはくれぬだろうか?」



僕の風貌を見てもまだ待てと言う。この世界の服ではない上に足元に魔法陣があるのだ。自分が言うのもなんだが……どう考えても不審者だ。



「待たない。じゃあね。気をつけて。」



僕は金髪女性に目を向けることも無く断りをいれるとまた平原を歩き続ける。



「お、お待ちくだしゃい!」



ん?金髪女性じゃない声だ。となるとピンク髪の幼女か。確実に噛んだな。



「なに?なんか用?」



僕は面倒くさそうな顔を全面に出し、ぶっきらぼうに答える。空気を読んでくれ。



「あ、あの。シャルルと言う街まで一緒に行きませんか?」



いや。行かないから。どうせ捕まるし。



「いや。いかない。」



「どうしてそんなにツンケンしてるんだ?あ、もしかして……」



どうやら気づいたようだ。そうだよ。異世界人なんだよ。だから君達とは行けないんだよ。



「リリアお嬢様。あの者は《人見知り》と言うやつかも知れません。」



いやいや。人見知りじゃないから。あの幼女リリアって言うんだな。将来美人になるのは確実だろう。



「人見知りじゃねぇよ!これみてみろよ!」



足元を指さして魔法陣に注視させる。



「魔法陣ですね。」「はい。魔法陣ですね。」



「は?魔法陣だぞ?異世界転移は珍しいんだろ?そのせいで僕は追われてるんだ。分かったらさっさとどっかに行ってくれ!」



金切り声で怒鳴り散らしてしまった。この世界に来てからのストレスが爆発してしまった。しかし八つ当たりは良くない。僕も親にされて嫌な思いをしてきたのだ。親と同じようにはならない。これが僕の信念だ。



「急に大きな声を出してすまない。だけど僕はこれでももう2回は嫌な思いをしてるんだ。仮に一緒に行ったとしても、君たちが僕を裏切らないとは言いきれない。僕はもう人を信じないと決めたんだ。」



正確には人を信じないでは無い。この世界の人を信じない。だ。



「そうですか……残念です。リリアお嬢様ならあなたの身をお守りする事も可能ですのに……」



ん?今なんて言ったの?さっきまで魔物に襲われてた幼女が僕を守る?はん!僕は別に強いとは思ってないがあの幼女よりは強いだろう。バカにするのも程々にしてくれ。



「ふん。話にならないな?僕より弱いくせに何を言ってるんだ?馬鹿じゃないか?」



「下手に出ていれば私のみならずリリアお嬢様をも愚弄するの?リリア様。ご命令頂ければこの失礼な者を斬首してご覧に入れます!」



「やめなさいシリアス。命の恩人に失礼です。もしもあなたが私の護衛についてくださると言うなら《私専属の護衛》として雇います。」



「お、お嬢様?お父様の赦し無くそのような事を決められては……」



「シリアス?あなた一人でこの先私を護りきれるの?」



「そ、それは……ですが……」



「だったら黙りなさい。私はこの御仁とお話しているのです。」



「私の名はリリア・フォル・メシアス。この国の第2王女です。」



「は?王女?いやいや。もーちょいマシな嘘つけよ。くだらねぇ。」



僕は手をヒラヒラと振り顔を顰めた。



「この無礼者が!」



シリアスという金髪女性は剣を抜くと右手1本で俺に向けて構えた。普段は両手を使うのだろう。胸の前に構えた剣は重さに耐えきれず徐々に下がっていく。



「シリアス!辞めなさい!」



リリアは怒気を込めた声で諌める。



「す、すみません……つい……」



シリアスは語尾を下げて謝罪を口にする。



「従者の者が粗相をして申し訳ありません。私は本当に王女なのです。こればかりは証拠もなく口での説明しか出来ませんが……」



「じゃあさ?なんで王様の子供。お姫様がこんな荒地に2人で居るのさ?」



「そ、それは……」シリアスが言い淀む。



「それは私の命が狙われているからです。」



「誰に?魔物?」



「半分正解ですね。私を狙っているのは……」



「リリアお嬢様!それは言ってはなりませぬ!」



「いえ?良いのです。この方なら私は話してもいいと思えたのですから。」



「で、でも……」



「なぁ。シリアスだっけな?お前黙れよ。僕もリリアと話してるの。お前と話してるわけじゃない。お前が話に加わるなら僕はもう行く。」



「あ、あう……わ、分かりました。」


完全に意気消沈したシリアス。



「で?誰に狙われてるのさ?」



「サディ・フォル・メシアス。私の実の姉。第1王女です。」



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