第3話 迫る騎士達

あれから1日経った──



魔物を倒しながら平原を歩くこと1日。



飲まず食わずの1日だ。



正直しんどい。お腹も減ったしそれよりも水分が取れないのがキツイ。



そんな中僕は人が集まる集落を発見した。



まぁ簡単に言えば村だ。



水や食料がある場所だ。これは渡りに船である。



しかし僕の足元には魔法陣がある。これはどうやっても消すことが出来ない。



でもさ?……ひと恋寂しいんだもん。お腹も減ったしさ……入りたいじゃん?



僕は村の外で立っている青年に声をかけた。



「すみません。お水やご飯を貰えませんか?」



『あぁ?物乞いか?その割には身なりはいいな。金は持ってねぇのか?』



「はい。持ってないんです。」



『じゃあ買えねぇな?食いもんは無理だが水はやるよ。ちょっと待ってな?』



僕は村の外で待った。お腹が減って力がでない。もう倒れそうだった。村に着き安心したからかペタンっと地面に臀をついて座ってしまった。



『おうおう。大丈夫か?ほれ水だ。』



帰ってきた青年は木製のコップに水を一杯注いで来てくれたみたいだ。



「あ。ありがとう。」



僕は咄嗟に手を出した。



バチッ!



嗚呼……忘れてた魔法陣だ。僕は魔法陣から出られないだった。え?じゃあご飯も水も無しって事?そんなのあんまりじゃん!



ベッドの上でゲームしてただけなのに召喚されちゃってこのまま餓死?嫌だ!それだけは嫌だ!



目の前の青年の手には水がある。僕は喉から手が出る程飲みたい。



僕の頭はフル回転していた。魔法陣。これに干渉されずに水を得る方法を。



ピキーーーン!



これだ!時空魔法を使って僕の手を異次元から発生させて水を受け取り、元に戻すって言うのはどうだろう?やってみる価値ありだ!



「お兄さん。ちょっと気持ち悪いかも知れないけど今から手だけ出るからその手にコップを渡してくれる?」



『ん?ああ……まぁいいが。手が出るのか?どこから……うわっ!』



僕は時空魔法で手首から先を異次元に飛ばした。突然目の前に手首から先が出てきた事に青年が驚いきコップを落としそうになる。



しかし僕は水が飲みたいのだ。必死でコップをキャッチした。我ながらナイスキャッチだった。



「これ貰っていいんだよね?」



『あ、ああ、ああ。飲んでいいぞ?』



青年はかなり動揺しているが僕は早く喉を潤さないと渇きすぎて喉がくっついてしまいそうなのだ。



手首から先を元の次元へと戻し僕は無事水を飲むことが出来た。



1日ぶりの水分。甘くて美味しかった。



「ぷはぁ……ありがとうございました。お陰で生き返りました!このご恩は一生忘れません!」



高々コップ1杯の水にここまで感謝されると思ってなかったのか青年はポリポリと頬を掻いて『いいってことよ』と照れていた。



僕は青年に礼をいいまた平原へと戻って行った。いや。行こうとした。



『おい!まてよ!』



「え?何か用ですか?お水に払うお金なら持ってないのですが……」



『そうじゃねぇって!なぁ……飯やるからさ?俺ん家こねぇ?』



ええ?どういう事?ご飯までくれるの?



『おめぇ何か面白そうだからよォ?飯でも食いながら話そうぜ?』



今まで喉の渇きで気づかなかったが、ニカッと笑うその姿はかなりイケメンだった。



『うん!よろしくお願いします!』



「そうこなくっちゃな?じゃ案内する。こっちだ。」



僕は青年に連れられ村の中へ入った。



『ここだ。汚ぇとこだが遠慮せず入れ。』



「あ、ありがとう。」



青年の家はお世辞にも綺麗ではなかった。しかし俺の身の丈以上はある魔法陣を見ても恐れず話しかけてくれる青年は貴重な存在だった。



『よし。ここに座れ。ところで……名前は?』



「鈴木誠です。」



『スズキマコト?珍しい名前だな?』



「そうなんですか?あなたの名前は?」



『カジャールだ。』



「カジャールさんって1人で住んでいるの?」



『そうだ。だからそんなに緊張する必要ないぞ?』



「うん。ありがとう。でも……」



『ん?なんだ?』



「外に誰かいる……」



『ん?そうか?少し見てこよう。』



「き、気をつけて……」



この家に入ってから中に誰かがいる訳ではなかったが何故か外は物々しい雰囲気がする。


この世界に来てから奇怪な目を向けられることが多かったせいか敏感になっているみたいだ。



カジャールは外に出ていき、少しの間帰ってこなかった。何が起こっているのか?



ガチャリ



ドアが空いた。



カジャールは1人……では無かった。鎧を着た冒険者、騎士と言った所だろうか?別に脅されている雰囲気ではない。寧ろこの期を待っていたと言わんばかりだ。



『カジャールと言ったか?よくやった。褒美を取らせてやる。』銀の鎧を着た騎士。



僕はどうやらカジャールに騙された様だ。



『こ、これご飯……』カジャールがスープとパンを持ってきた。



これは食べてはダメだ。きっと毒か睡眠薬的なものが入ってる。はずだ。



僕はボソッと《時停止》を使った。



パンとスープを出したカジャールと騎士はその場で完全停止し、僕は家の外へ出た。家の外では複数名の騎士がこの家を取り囲んでいた。



「完全に騙された。タダより怖いものは無いね。」



カジャールさんの事信用してたのに。とても悲しかった。もう何を信じればいいのか分からない。



「じゃ行くか。」



騎士達には悪いがここで捕まる訳にはいかない。


周囲を取り囲んでいた騎士たちを魔法陣で全て吹き飛ばした。これも次の行先をバレなくする為だ。ごめんね。



全員に魔法陣でぶつかっていっているが別にその場で吹き飛ぶ訳では無い。《時停止》が解けた後に吹き飛ぶのだ。



鈴木誠はこの村を後にする前に水や食料は売られている所から少し拝借した。


金は騎士達から迷惑料として頂くことにした。僕にとっての脅威だ。貰って当然だろう。



とりあえず金の価値も分からなかった為、果物を売っていた店、干し肉を売っていた店、飲料水を売っていた店にそれぞれ銀貨1枚づつ置いておいた。不足分は申し訳ないが騎士から貰ってくれ。



そして不明な銀貨を置いておくことを小さな木片にメモとして文字を彫り店先に置いておいた。文字が伝わるかどうかは分からないのだが。



手が異次元から出せるようになって少しは便利になった。食事や水分の必要分は摂取出来ている。



しかし不便だ。体全てを異次元から出すことが出来れば良いのだが……体半分が限界だった。



魔法陣から飛び出した上半身半分。かなりキモイだろう。僕としてもドン引きだ。



でもまだ望みはあるのでは無いか?



もっと魔力が強くなれば──


もっとMPが増えれば──



更に可能性も増加するはずだろう。



僕の全てが魔法陣から脱出するその日を。


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