第2話 初めての異世界

僕は魔法陣から出られないまま──建物の外へと出た。



そこは──まるで中世ヨーロッパの様な趣のある情緒溢れる風景が広がっていた。



総じて建物の高さは低く建築力の低さが浮き彫りとなる。



煉瓦や石といった建物が多く木造建築では無いことから日本や中国と言った東洋みたいな文化の国では無さそうである。



あれからずっと《時停止》を使っている。



──流石に疲れたな。



僕は《時停止》をやめた。



するとそれまで止まっていた人々は動き始め僕は雑踏に紛れた。



それでも足元に光る魔法陣が目立つだろうが気にしては負けなのである。すぐさまこの街らしきものを出ようとする。



街の出口には兵士がいる。流石に兵士にこの姿を見られる訳にはいかない。僕はまたしても《時停止》を使わざるを得なかった。



──外へ出た。



少し離れたところで《時停止》はやめた。だって疲れるんだもん。



街の外には平原が広がり近くには森もあった。そして何より目を引いたもの──



それは徘徊する魔物たちだろう。



決して街に入ろうとはしないものの魔物たちは確実に獲物を探して徘徊していた。



──あ。気づかれた。



僕に気がついた魔物がコチラを睨む。



緑のガリガリな体に細い木の棒を持った魔物。ゴブリンだろう。異世界でよくあるパターンだ。



初めての魔物。ゴブリン。それは弱そうな代名詞からだと思う。



しかし現代日本から転移してきた僕としてはゴブリンは昔話に聞く鬼ほど凶悪で恐ろしかった。



なりふり構わずこちらへ猛ダッシュしてくるゴブリン。



木の棒が重いのか引きずりながらだがかなり早いペースだ。



このままじゃやられる。そう思った。



《時停止》



ゴブリンが急に動かなくなる。



「うん。どうやら魔物にも効果があるみたいだね。よかった。」



僕の時空魔法は人にも魔物と呼ばれるものにも効果がある様だった。



「でもどうしようかな?このままじゃ倒れないよね。逃げようか……あ!まてよ……」



僕は考えた新しいスキルを解除出来れば倒せるのでは無いかと。



──ではどんなスキルにするか?



魔法か?戦闘系か?



どうせ魔法陣からは出られないんだ。中から攻撃出来るかも謎。ならば……



ここで選ぶのは魔法しかないだろう。



では属性は?どうする?──火・水・木・地・雷・白・闇があったはずだ。



火──まぁ炎が出るんだろう。


水──まぁ水が出るんだろう。


木──触手みたいなので縛るのか?


地──地震とかかな?


雷──稲妻が出そうだ。


白──よく分からない。


闇──もっとよく分からない。



さて……どれが正解なのだ?



目の前には《時停止》で停止している緑の魔物ゴブリンが木の棒を振り下ろしている最中だ。



あ。これって炎で木の棒燃やしちゃったら危なくないんじゃね?やってみる価値ありそうだな。じゃ……火だ!



魔法スキル解放!



……何も起きない。



えっ!?なんで?言い方の問題?



魔法スキル使いたい!



──スキルポイントが足りません



ええええぇーーー



なにそれ?スキルポイント?修行とかしないとダメなやつ?あちゃーこれやっちゃったパターンか……?



もしかすると言語認識スキルと時空魔法で僕のスキルポイントが無くなってる可能性すらある。今からは少し慎重にしないと……だな。



今後スキルポイントを得られない可能性もあるんだし。それなら早めに教えて欲しかった。神様意地悪だ!



僕はそれから少し考えた。ゴブリンの攻撃って魔法陣に当たるの?吹き飛ばされるんじゃ?と。



そして《時停止》したままゴブリンにぶつかってみた。



予想通りだった。《時停止》を解除した直後にゴブリンは吹き飛び満身創痍になる。



ボロボロになったゴブリンは何が起こったのか分からず狼狽える。



しかしそこで無敵な僕がゴブリンへ向かってずんずん歩いていく。



ゴブリンは足元にある小石を僕に投げつけた。小石は魔法陣に阻まれ粉々になる。



……ゴブリンは呆気に取られた。かと思われたが流石知能の低い魔物だ。そのまま木の棒を振り上げるとまた僕に攻撃してきた。



そしてそのままゴブリンは木の棒と一緒に弾け飛び消滅したのだった。



「なにこの魔法陣最強なの?」



僕は誰もいない平原でぼそっと呟いた。



しかしこれなら魔物に出会っても寝てても平気だ。外的から身を守る魔法陣。まぁ僕も出られないんだけどね。



そして僕は魔物が徘徊する平原で無双を繰り返したのだった。



──ロア神殿内では──



ティフは師匠に怒られていた。



「ティフ!満足に子守りも出来ないのかい!?あんな子どものひとりやふたりに賢者のあんたを付けたんだよ?恥っ曝しもいいとこじゃないか!私の顔に泥を塗るのかい?」



『師匠……ズミマゼン……でも…でも…さっきまで居たんですよ?私見てましたから寝たフリして。なんか色々やってたんです。考えたり寝転んだり。でも今いきなり居ないんです。それって私のせいですか?違いますよね?』



「いーや。ティフのせいだな。お前が見張りだったんだ。責任を持って探せ。」



『えーっ……分かりました。分かりましたよ!探せばいいんでしょ?』



「それでいいのだ。正午過ぎには王族が来るぞ?それまでに見つけ出せ。さもなくば……贄にしてやる。」



『ひぃ……が、ガンバリマスデス』



猛ダッシュでロア神殿内を駆けずり回るティフ。



──しかしここには鈴木誠は居ない。



『ちっ。あのガキ。どこへ行きやがったんだ!大人しくしてるからって油断しちまったなぁ……』



実際ティフは寝ていた。盛大に居眠りしていたのだ。先程寝たフリとは言ったがあれは嘘だ。爆睡していたのだ。だから鈴木誠の行方は全くもって分かっていなかった。まぁ仮に起きていたとしても《時停止》の影響で断片的な記憶しか無いはずである。鈴木誠を探すことは不可能に近いのだ。



そんな事とは露知らず鈴木誠は平原で無双を続ける。



──レベルが1から2に上がりました。



HP 12


MP 218


力 2


防御 2


速さ 2


器用さ 2


魔力 2


運 0


スキル 言語認識1、時空魔法1



スキルポイント……残10ポイント




おお!レベル上がったぞ?これって強いのか?弱いのか?とりあえず分からないが魔法はうちまくれるほどはMPはありそうだな。魔力は弱いけど。魔法チートの異世界なのだろう。



魔物を倒しレベルが上がったことでステータスが上がったとぬか喜びしている鈴木誠なのであった。


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