魔法陣から出られない異世界人

たまごちゃん

第1話 召喚されちゃいました

僕こと鈴木誠は家でゴロゴロとレトロなRPGゲームをやっていた所突然座椅子の下が光出すとあっという間に別の場所に転移してしまった。



これが神隠しなのか。と一瞬思ったのだがどうも違うようだ。



それは僕の周りに魔法使いの様なローブに身を包んだ青年~老人が盛大にぶっ倒れているからだ。



そして僕は悟った。《異世界へ転移》させられたのだと。まぁ現実世界でやり残したこともないし別にいいんだけど。



よくある小説で転移したら何かしらチート級の能力が与えられる。等の俗説がある。もれなく僕にもあるだろう。フン!と力を入れたら服が破れるとかやってみたい。それとも魔法をバーンと使えちゃったりして?ふふふ。意外といいぞ?異世界。楽しそうじゃないか。



元々レトロなゲーム好きな僕からしたら在り来りな王道パターンは好きなのだ。



ふふふ。さぁこい!僕のチート能力カモーン!



頭で能力を開示させようと《ステータスオープン》とか言ってみたりした。結果は不発。ははは。まぁそーだろうね。あ!もしかして左の胸とか触ったら《ステータスオープン》するのかな?周りにバレないようにそっと触ってみる……やはり無理だった。どうやらこの世界には《ステータスオープン》という概念がないのかもしれない。鑑定スキル的な物が必要なのかも知れないしな。という事で一旦諦めて周囲の人に話しかけてみることにした。



「あ、あの~わっ!」



えっ?どういう事?も、もう一度……



バチッ



えっと……魔法陣から出られないんですけど。



魔法陣を発生させた術士達は伸びてるし僕の異変に気づいた周囲の人たちはワタワタし始め魔法陣に触るも大きく弾き飛ばされ壁に激突する人すらでる始末。



術士達も目を覚まし状況を必死に説明している周りの人達。僕には何を喋ってるかさっぱりわからなかったけど、必死さは伝わってきた。



それから何時間も経っただろう。しかし結果は……魔法陣から出られない。だった。



周囲の人たちも諦め始めたのかポツポツと人が少なくなっていき最終的にはたった1人の少女が見張りとして居るだけになった。白髪に赤目。まるで兎のような子だった。



どうせ言語が分からないんだ。話しかける意味も無い。だが流石に暇だし寂しい。だってよ?ゲーム無いんだよ?魔法陣の中から出られないんだよ?言葉分からないんだよ?これって放置虐めじゃん。誰だよ!転移させたの!帰りたいよ!



『ラムサライダニケムハ?イカハニサタリヤーデマニアール?』はいはい。やっぱ分からないよ。何それ?言葉って事しか分からないから。もー……言語認識スキルくらい取得させてよ!



──言語認識スキル 解除しました



ん?なに何か言った?



『ねぇねぇ?おしゃべりしよーよー?暇でしょ?私も暇なんだけどー』



あ。聞こえるじゃん。分かるじゃん。もしかしてあれ?言語認識スキル云々って考えたから使えるようになったの?やっぱ異世界転移はチートだぜーーー!ひゃっほい!



『あれぇ……?やっぱ話せないのかな?暇すぎるーー』



「コンニチハ。ボクノナマエハスズキマコト。ヤサシイイセカイジンダヨ。」とカタコトで喋ってみた。



『あはははは!やっぱ喋れるんじゃん?私はティフよ。よろしくねー』



「あ。うん。よろしく。異世界から来たんだけど……知ってる?」



『そりゃあねぇ~。私の師匠達の魔法で呼んだからねー。』



あらま。君の師匠達が犯人か。家に帰れるのかな?聞いてみるか。



「僕って家に帰れるの?」



『うーん。分からないかな?詳しくは師匠達に聞いてみなくちゃ分からないけど異世界人の転移って神の目を欺く必要があるんだって。だから……可能かも知れないけど不可能かも知れないんだよね。』



はいきた。帰れないパターンのやつや。


これね。結構キツイよね。僕の今の状況を簡単に説明すると……



何かの用があって僕を異世界へと召喚したが、どうやっても魔法陣から出られないため不要になった。まぁ要約するとこうだろう。これはつらたんだ。今僕ってばどちらの世界にも要らない子じゃないか。それならまだ元の世界の方が勝手がわかる分良い。でも帰れない。これは辛たん。辛たん。辛たん。はぁ……エクトプラズムが出そうだぜぇ……



『そんなあからさまにへこまなくても(笑)』



「いやいや。全く笑える状況じゃないでしょ?この世界に呼ばれたのにもう用済みになったって事だよ?誰にも必要とされないまま死んでいく未来がもうそこまで来てるんだよ!」



『あはは。ごめんごめん。もう用済みって訳では無いないんだよ。そこは安心していいよ?我が国を上げて君を召喚したんだ。国の威信にかけても君の安全は保証されているからね。』



「それならまだ安心……って訳でもないんだ。僕がここに呼ばれた理由だよ。まだそれを聞いてない。」



『ズバリ聞くねぇ。でもこればっかりは私には教えられないんだ。もっと上の人間と話してくれ。』



「もっと上の人って明日には来るの?」



『ああ。来るはずさ。異世界からの転移召喚はひとまず成功したんだ。これは快挙なんだよ。今まで数万年の時をかけて初めて成し遂げた偉業なんだ。』



「そっか。僕って初めての異世界人なの?」



『そう……ではないんだな。これが。数千年に1度の割合で異世界人が発生するという古文書が残っていてね。近年では全く発生したって聞かないけどね。まぁ他の異世界人達は寿命が尽きてるだろうから現時点で世界中を探しても君はたった1人の異世界人さ。』



あら。これフラグじゃね?絶対僕以外の異世界人居るでしょ。まぁ気にしたって埒が明かないか。



「そっか。分かったよ。とりあえず僕は寝ても良いのかな?どうせ魔法陣から出られないし。」



『うん。それは問題ないよ?ただもしもだけどこの魔法陣から出られたとしても明日までは出ないでね?』



「それは偉い人が来るから?」



『そうそう。その後は目的が達せられれば君は晴れて自由の身となるはずだよ。』



「ふーん。そっかぁ」とは言ったものの絶対それは無い。逃げ出すなら今日だ。見張りはこの少女1人。チャンスだ。魔法陣から出られないけど。



さて。どうしたものか…スキル?何かスキルを得れば何とかならないかな?例えば……飛行スキルとか!



──飛行スキル 解除しました



え?また?飛行スキルを解除?解除ってどういう事?元々ある能力を封印されているってことなのか?分からないことが多すぎるな。



じゃ…魔法スキル欲しい!



──魔法スキル 解除しました



──属性を選択してください



──火・水・木・地・雷・白・闇・時



えっ……どれにしようかなぁでもここは《時》だろう。どんな属性かは何となくしか分からないが時空魔法という事だろう。時空魔法一択だ!



──時空魔法 解除しました



矢張り《解除》と言っている。解除の意味。それは分からない。しかしチートスキルを持っていることは間違いないようだ。



僕はあれから寝たフリをした。暫くすると僕の近くでスースーと寝息が聴こえてきた。どうやら僕の予想通りだ。少女も眠りについたのだ。



僕は時空魔法を使う事にした。と思っても直ぐに使える様になる訳では無いようで、イメージ出来た事が具現化する仕様だった。心の中で《時が止まる》ことを想像したら実際に時が止まった。時を戻すことも進めることも可能なようで時間を自由に操る魔法を使えるようになった。



僕は想像しやすくするためにそれぞれを《時停止》《時戻し》《時飛ばし》と呼ぶ事にした。



まず《時停止》を使う。魔法陣から出られないか色々画策してみる。



結果は無駄だった。かなり悲しかった。僕のガラスのハートは粉々だ。



次に《時飛ばし》で時間をめちゃめちゃ進めてみた。時間経過で魔法陣が解けるかな?という安易な考えである。



結果は散々だった。少女が目を覚ますわ、変な虫が飛んでくるわ、鼠に足を齧られるわ、少女のクシャミが顔に飛び散るわ本当に散々な目にあった。若しかするとだが《時飛ばし》を使うと運が悪くなるのかもしれない。これは要検証だ。



一旦時戻しで少女が寝始めた時まで戻したが、完全に振り出しである。



もし魔法陣から出られるとしたら……時空を超えるしか無いのではないか?と僕は薄々思っていた。



空間の時空軸を動かす。これだ。僕の足元にある魔法陣のみの時間軸をズラすイメージで……



ダメだ上手くいかない……



もうここでおしまいなのか?



僕はこのまま知らない誰かの為に強制的に死ぬまで働かされるのか?



そんなのは嫌だ!だから考えるんだ!



……足元の魔法陣を動かす?そしたら僕も動けるんじゃ?



善は急げだ!やってみよう!



んー……んー……あ!少し動いた!この感じだな?



あれから30分位だろうか。めっちゃ練習した。額には汗が吹き出し疲労感が半端ない。



だが……成功した。



魔法陣は動かせるようになった。それも自由に。僕が歩く速度で魔法陣も動かせる。魔法陣に当たると物が壊れる可能性も有るので細心の注意を払って召喚された部屋から脱出した。外に出ると石畳がずっと続いていた。明かりは乏しく視界は悪かった。《時停止》で時間を止めている為誰かに見つかる恐れはないがそれもいつ切れるか分からない。多分だが僕の力に依存しているのだろう。どこまでも続く石畳を抜けると大きな石の扉があった。かなり重そうだったが魔法陣を当てるとズリズリと後ろに後退していった。



遂に僕は外へ出た──


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